ギラギラ
眼光で射抜かんとして真っ直ぐ見つめる。一筋がきらり、と瞬いてマウンドに落ちた。
画面越し。蜃気楼の中で輝く双眸に強く惹かれたのを覚えている。
*
自己紹介の時に部活と一緒にポジションを言うのは、キャッチャーはピッチャーの次にモテそうだからである。なんとなくキャッチャーは頭が良くてカッコイイのだという風潮がある。
そう、ポジションは添えるだけ。後はもう結果が着いてくる。
高校デビューで頭をピンクに染め上げたのが凶と出たのか、女子から取り囲まれるということもなく放課後。おかしい、絶対空気を掴んだと思ったのに。
とはいえクラス紹介で野球をやってそうな奴を何人か見つけ、部活見学に一緒に行く約束を取り付けた。まだ野球を出来ないのはもどかしいが、しばらくの辛抱である。
荷物をまとめ始めた時、窓の下を一人の男が小走りで走っていくのが見えた。何気なく視線で追えば、手元にはグローブをしっかりと抱えている。
まだ部活見学の期間は始まっておらず、来週からのはずだ。自主練か、もしくはもう混ぜてもらう気なのか。
どちらにせよ超やる気じゃん。
「おーい!」
上から声をかけると、辺りをキョロキョロと見回した後にこちらを見上げた。
「え、誰」
「ねー、今から野球すんの?」
「見学行こうと思って」
「来週からだよ」
「そうなんだ……」
分かりやすく落ち込んだ様子で、グローブを見つめている。先生の話、ちゃんと聞いてなかったんだろうな。
「暇ならさー、俺とキャッチボールしない?」
部活に入って野球が出来るのは少し先になるが、それがグローブを持ち歩かない理由にはならない。俺の鞄にも使い古したクタクタのグローブが入っていた。
「いいの!?」
二階からでも分かるほどの声の大きさと喜びよう。こちらもなんだか嬉しくなって、机の上の荷物をかき集めた。
「グラウンドは他の部活使ってるだろうし、公園行かね?」
「わかった!」
そう返事をするや否や、制止する間もなく彼はどこかに走って行ってしまった。
「マジか」
呆れながらも荷物を背負うと、さっきの場所に奴は戻ってきていた。こちらを途方に暮れた表情で見上げている。
「公園ってどこの」
「おーけーおーけー、今行く」
*
ボールが左右に行き交う。ぽーん、ぽーん。少しずつ距離が伸びていく。たまにちょっと球速速くして遊んだり、アンダースローで投げたり。こういう、遊ぶだけが目的のキャッチボールは久しくしていなかった。ボールに触る時間は何かにつけて練習にしていたからだった。
変なところに投げても、お互いボールは落ちることなく命を繋いでいた。
「宮本くんさー」
「なんで俺の名前知ってるの」
「ん、だって同じ学年じゃん。名前ぐらいは覚えなきゃ」
「そういうもん?」
「うん。でも野球やってんのは初知りだけどさ。ポジション当てていい?」
「うん」
「ピッチャー」
宮本くんは目をまん丸にする。
それでも正確に、ボールは真っ直ぐにこちらに飛んできた。
「正解、えーなんで」
「カン?」
ちょっとだけ嘘だった。投げる時の肩の動きとか、呼吸やリズムの感じからなんとなくそうなんじゃないかと思った。
「一回だけ本気投げしてよ。取ってみたい。俺、マスクも今あるし」
「うん、いいよ」
ボールを返す。バッグからマスクを取り出して、地面に腰を落として構えた。
真っ直ぐこちらを見つめる瞳に、光が灯る。
瞳の奥の輝きを一番に見れること。これがキャッチャーの特権だと、俺は思っている。
しょーちゃんが近くにいた、はじめてのキラキラ。次はサトーで、次は中学のセンパイで。
全部違うキラキラ。野球に一生懸命な人は、いつだって大なり小なり瞳がキラキラしていた。
でも宮本樹という男は、感覚として言葉が違うように思えた。眩くて、痛いぐらいに強い光。
なんていうか、もっと。
「ギラギラだ」
ぱしん。
破裂音に似た音が自分のミットから響いた。手のひらがジンジンして、思わずミットの中にあるボールを見つめてしまう。まさか漫画みたいに煙なんて上がってないよな?そんな風に思ってしまうぐらいの威力だった。
「待ってよ、何キロこれ」
「多分、135-140ぐらい?」
「すっっご最強じゃん」
ふふん、と彼が得意げに鼻を鳴らす。
これがつい先日まで同じ中学生だったなんて信じられない。すご、高校ってすご。もしかして、こんなのがゴロゴロいるのかな甲子園。それって凄いよな。ワクワクするし。
「いやさぁ」
「うん?」
「絶対、お前の球取るわ」
ほぼ独り言だ。ボールを一度強く握って、彼に戻す。
「御崎咲。野球部でキャッチャーやってました。盛り上げんのは得意です。よろしくお願いします」
わはは、と楽しそうに笑って、ボールは緩い弧を描いて飛ぶ。
自己紹介で笑ってくれたのは、今日お前が初めてだよ。