さよならバイスタンダー



こっそりあーちゃんの指のサイズを測った。メジャーをくるりと一周させ、細かいメモリまで読む。白い薬指は折れそうなくらいに儚い。薬指をなぞって、最後子供みたいに握った。
守らなきゃ、と思う。
一生かけて守らなきゃ。
だって大好きだから。
だって……だって、僕はあーちゃんをあ
「……………」
目が開いてしまうということは、これが夢ということだ。重たい瞼を恐る恐る開く。
カーテンの隙間から月光が漏れ、広いシーツの上を照らしている。隣に丸くなった彼女の姿はない。代わりにあの小さな指輪が、手元から零れ落ちシーツに沈んでいた。
淡い光が指輪に反射して、瞳の奥を突き刺す。胸部に風穴が空いたように苦しく、小さく肩で息をした。
クーラーをつけ忘れたからか、シャツは溺れたようにぐっしょりと濡れている。ただ、シャワーを浴びる気にもなれず、ただ横の指輪をぼんやり眺めていた。
「あれ……」
汗を拭おうと手を伸ばして気がついた。目頭が焼けるように熱い。指先に零れ落ちる雫すら皮膚も焼くようで、それが何度も何度も指を伝ってシーツに吸われて消えていく。
……泣いていたのだと今更気がついた。
「あはは」
口から出たのは力ない笑い声。笑うしかないというのはまさにこの事で、最悪の気分だった。あの店員に話されたことを含め、昨日起こったことは理解が追いついていない。しかし話は噛み合ったように、全てが腑に落ちるのだ。
あーちゃんが死んでいること、ひょーくんが僕をころして、誰かが僕を生き返らせて。この話はきっとそれだけの単純な話ではない。なんとなく予感が告げている。
知らないことばかりで悔しいと零していたが、実は悲しかったらしい。優しくない夜の灯りが内情を明るみにするように、カーテンが呼吸をした。
自分の役割は幼なじみを支えることだと、未だに信じている。例え、責められても呪われても、許せなくても恨んでも、かけがえのない僕の幼なじみだ。

身動ぎしてあーちゃんの指輪をまた手の中に戻す。冷えた指輪を手のひらであたためるように、絶対に離さないように強く握りしめた。
あーちゃんを誘拐したことを言えば殴られるだろう、きっと。でもその方が目が覚める。
「おやすみ、あーちゃん」
自分の薬指の指輪をつ、と撫でる。
指輪は僕を嘲るように、やけに大袈裟に光ってみせた。