デイドリーム・ビリーバー3

「あれがアルデバラン、牡牛座の星だといちばん明るいからわかりやすいかな」

宙を指を指すと、彼女は詳しいねと感嘆の白い息を吐いた。煌々たるネオンの代わりに、田舎は星が綺麗に見える。
なんとなく星を見たくなり、ふたりで車を走らせた午前0時。
天体観測が趣味ではなかったが、プラネタリウムに通ううちにある程度の内容を覚えてしまった。あそこはほどよく暗くて眠れる。それは皆も同じようで、最近では睡眠用プログラムも存在するぐらいだ。

「牡羊座は?」
「牡羊座?」

透子はモコモコとしたアウターを揺らして、振り向いた。流行りの触り心地の良い素材は羊を彷彿とさせ、思わず意味もなく彼女の袖を触ってしまう。
くるりと、辺りを見回して目印の二等星のハマルを探す。

「あの辺が牡羊座。見えるかな? あの辺の星を繋ぐと羊飼いの杖みたいな形になるんだよ」

へぇ、と聞いた割には薄い反応を返す彼女は続ける。

「なんか、歩くプラネタリウムみたいだね」
「歩くプラネタリウム……光ってないけど」
「先生、まくら座とかないんですか?」
「ないです」
「じゃあ、あれがまくら座。私たちが今決めた」
「絶対忘れるでしょ」

楽しそうに手を動かす透子に、つられて笑ってしまう。冬の空に浮かぶまくら座。三等星以下の歪な長方形を、透子が形を忘れてもきっと僕だけは覚えてる。

「寒いからコンビニでコーヒー買って帰ろ」
「眠れなくなるから肉まんにしない?」
「売ってるかしらうーん」

僕は可愛い羊の腕を絡めとって、ほの暗い街灯の下を歩いた。