君に贈る白い薔薇
この世界は二人だけ


三月になったというのにまだ寒い。
こたつを片づけると言っていたのは先月の話のはずなのに蒼也の部屋には今もこたつがある。
一体どうなのかと言いたいところだけど今日のところはよくやったと思う。
蒼也は真面目できちっとしているように見えていい加減だな――っていうのは嘘で、
寒がりな私のためにまだ片づけなかったのだと思う、多分。

「あ、そうだ」

忘れないうちに私は鞄からカップケーキを出す。

「これ作ってきたの。蒼也にあげる」
「……俺の記憶が正しければ今日はホワイトデーのはずだが?」
「いいの、私が贈りたかっただけだから。いらない?」
「いる」
「だよねー」

貰われないということはないと思っていたけど……蒼也の目を見て安心する。
蒼也、表情はあんまり変わらないから分かり難いけど嬉しい時目が凄く優しいというかそんな感じがするの。
私はそれを見るのが一番好き。

「蒼也が喜んでくれるならまた作ってこよう」
「わざわざ作ってこなくてもここで作ればいい」

言うと蒼也は空気を読まずに私の目の前に日本の白い薔薇の花束を差し出す。

「受け取れ」
「え、ありがとう」

何か凄いこと言われたようなそうでもないような……それにしても蒼也が食べ物以外を贈ってくれるなんて珍しくない?
ちょっとびっくりして花束をまじまじと見る。
持っていると何か違和感……二本しかない花束のおかげでその理由は目視で確認できた。
包装紙の間にあるそれを薔薇の花を気づつけないようにして取り出す。
出てきたのは何かの鍵だ。

「これって……」
「俺の部屋の鍵だ」
「……!」

それってつまりそう言うことだよね?
蒼也の顔を見るけど悔しいくらいのポーカーフェイス。
いつもにましてかっこよく見えるのは気のせいですか?

「好きな時に使え。
この部屋に自由に入れるのはお前だけだ」

二人だけの空間に甘美な声が響く。
その言葉一つで私は簡単に満たされるのだ――。


20180318


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