君に贈る白い薔薇
生涯を誓う


「アキちゃん」

迅に呼ばれてアキは振り返った。

「なあに?」

アキは首を傾げる。
その仕草が年齢の割に少し幼く感じる。
次の瞬間迅には少し先の未来が見えてしまうわけだが別にサイドエフェクトが作動しなくても彼女の反応は想像ができていた。
何せ近界民である彼女は玄界の3月14日が何の日か知らないのだ。

「いいものあげる」
「本当?」

嬉しそうに目を輝かせる彼女にちょっとだけ罪悪感が生まれながらそれでも迅はホワイトデーのプレゼントを渡す。
目の前に差し出されたものを見てアキはきょとんと目を丸くした。

「迅、この花枯れてるよ」
「うん、やっぱりそういう反応になるよね」
「育てるの難しかったの?」
「違う違う。ドライフラワーっていって生花を乾燥させたものだよ」
「わざと乾燥させるの?」
「そう。生花だとすぐに枯れてそのまま捨てちゃうだろ?だけどドライフラワーにすれば長持ちするんだ」
「なるほど。つまり長く楽しみたいならうってつけということね」
「そういうこと」
「永く形にしておきたいなんて……迅はロマンチストなのね」

未来は見えたと言えど彼女がなんと言うかは分からない迅にとってこれは寝耳に水。
そんなつもりがなかったと言えば嘘になるが口に出されると恥ずかしいもので迅は隠すように頬をかく。

「でもどうして急に花を?」
「先月バレンタインがあっただろう?そのお返しの日が今日なんだ」
「玄界って律儀なのね」
「それでアキちゃん貰ってくれるかな?」
「ええ、勿論」

アキは迅からドライフラワーを受け取りまじまじと見る。
永く形にする代償はアキに繊細さを要求してきたようだ。
見た目の割に厄介なのではないかとアキは貰った嬉しさとは別に違う感情が現れる。

「ねぇ迅」
「何?」
「わざわざ手間をかけてドライフラワーにしたってことは何か意味があるんでしょう?」
「……少しでも長く――って言わなかった?」
「そうだけどそれ以上に大切にしなくちゃって気分になるの」
「そっか」
「そうよ」

折角貰ったものが崩れてしまうなんて嫌だとアキは主張する。
優しく扱わないと壊れてしまいそうなドライフラワーを気を付けて自室まで持って行かなくてはと自分に言い聞かせるアキ。
その隣で不意打ちのように迅が呟く。

「気になるなら調べてみてよ」

必死になりすぎて聞き漏らしそうになったアキは迅を見つめた。
「もう一度言ってよ」という声は何故か笑顔で却下された。
こういう感じの曖昧なやり取りをする時の迅は何かアキに選ばせようとしている時だ。
何を選ばせてくれるのか分からないがそれは全てアキが手にしているドライフラワーにあるのだろう。
迅の表情はまるで懇願するような優しくて切ない……胸が締め付けられそうな顔だった。

(そんな顔されたら気にならないわけないじゃない――)

アキがどう動くのか迅には未来が見えているのだろうか。
未来が見えないアキは知らない話だ。
だから確かめようとアキは自分自身に誓った――。


20180321


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