影浦雅人
喜ぶ彼女と嬉しくなかった彼


「私、影浦くんのことが好きなの」

そう告げられた言葉に私は素直に嬉しいと思った。
だってカゲって目つき鋭いし研いでるんですかってくらいの八重歯だし髪の毛ツンツンしてて性格荒っぽいし、ぱっと見の印象良くないんだよね。
これでもかってぐらい敵を作る。大体先入観による誤解なんだけどね〜。
本当、話してみるとその辺の男子と変わらないから「やべー詐欺だよ」って思わず言葉が漏れちゃったんだよね。
聞き逃してくれなかったカゲは当然の如く何言ってんだこいつって顔していたし、ゾエとかオカンかよってぐらい涙ぐみながら「分かる、分かる?」って同意してきたし、鋼くんとか「カゲは良い奴なんだ〜」って同い年の男の子がするかってくらい天使オーラ出すし、ポカリは「初めてか、カゲが詐欺だと言われるの」ってお得意の倒置法が五七五でなんか語呂がいいし笑ったよね。
そんな独特な面白愉快な仲間達が揃っていてカゲがただの怖いだけの人だったらこの中にいないと思うんだよ。
寧ろ割とこの中で常識人ぽくてさー……短気なのが玉に瑕だけど。
でもね、それがもうツボだったわけ!
このグループ面白いからかーらも☆って思って突撃してたらいつの間にか仲良くなってた。カゲ以外。
カゲはいつもウザい奴がきたーって感じの反応してたから「傷ついた」って言ってはゾエの真似して泣いてみたり……勿論振りだよ?あと鋼くんと一緒に「カゲは照屋だね〜」なんて微笑みながら訴えてみたり、ポカリに「寄ってくか、影浦の家」って五七で誘われたから「行きますぜ」って五になるように答えて馬鹿やってみた。
因みにカゲの家がお好み焼き屋やってて皆でご飯ってことだった。
カゲにお好み焼きの焼き方教えてもらったり、「美味いか」って聞かれたり。へーカゲって自分家好きなんだなーって。言葉の端々から伝わってくる。なんか、こういうのいいなーって思ったんだよね。
皆がカゲを大事にしててカゲも皆を大事にしてて、それで家族も大事にしてる。普通にいいなって思うよね。
カゲは怖がられることが多いけど、そのカゲのこと怖がっている人と同じでちゃんと人を大切にしてる。私だって家族や友達のこと大切にするし、そうだよ、皆と同じなんだよね。
だから誤解されるの勿体ないな――って。思うよね?私は思うよ!だって私の友達だよ!?
カゲは少し私のことウザがってるけど「カゲ」って呼んでも何も言わないから友達認定はされていると思うんだよね!うん、大丈夫。
そんな友達のいいところ知って欲しいと思うじゃない?好きになって貰いたいじゃない?
……でもこれって周りの問題だから何もできないのも分かっているんだ。
だから気長に――って思っていたら私達は高校三年生になった。
ゾエはクラス替えで残念な感じになったので私が「ゾエの跡を継いでオカンになる」って言ったらカゲに頭を叩かれた。酷い。
そんな感じで新しいクラスが始まって、相も変わらず馬鹿やって、所謂いつもの日常を過ごしてた。その中の一日。
私は他のクラスの女子に呼び出されたってわけ。

ここでやっと冒頭に戻る。

この言葉を聞いた時の私の気持ち分かる?
カゲの良さを分かってくれる人が増えたんだって躍り出したくなる気分だったね。
しかもこの子、うちの学年で凄く可愛いって言われている子で、去年の男子が付き合いたい女子ベスト3には入ってた。
何で知ってるのかって?そんなの放課後、教室で男子が話してたの聞いちゃったからに決まっているじゃん。
男子ってこういうの好きだよね〜。ま、女子も好きだけど。修学旅行とか恋バナ絶対!公開☆告白〜みたいな感じだからね。あの時間無理矢理好きな人作って皆に教えるの大変なんだ。
あ、脱線した。
えっとだから私、この子を知っているんだ。
男子が言うように守ってあげたいって思っちゃうくらい小さいし細いし可愛いし。こんな子に告白されたら男子は付き合っちゃうんだろうな。
わーカゲ彼女ができるのか〜。……考えるだけでにまにまする。これはヤバイ案件ですよ!あーゾエに報告してこの気持ちを分かち合いたい!!
脳内がサンバぁぁ――!!!って賑わっているところでさ、急にどうしたの?って突っ込みたくなるくらいズザ――って流れるように滑って脳内サンバ終わっちゃったよね。うん、冷めた。だってこれ聞いたら冷静になるしかないよね。

「神威さんと付き合っているのは知ってるんだけど、でも言いたくて……影浦くんに言ってもいいかな?」
「ん?」

何がどうしてそう思ったの?
問いただした私悪くない。だってカゲと付き合ってないんだもん。
寧ろ、何故、そんな勘違いをなさったので?
「仲がいいから」ってそりゃ友達だから仲いいでしょう?何言ってるのこの子。
そう思っていたらそのまま口から出ていたらしいです。
目の前で口がぽかーんとあいていた。……お昼一緒に食べてたらうちのミートボールお見舞いしてたな。

「本当に!?」
「うん、だから私に許可取らなくても大丈夫だよ?」
「本当?」

用心深く確かめられても……。
カゲの良さを一人でも多くの人に!な私にとっては問題なんてないわけだし。
友達じゃなくて彼女っていう立場も大歓迎なわけだよ。寧ろ応援する。
私の言葉に彼女は再度確認してくるから安心させてあげようと努める。
やっと納得してくれたのか彼女が「ありがとう」ってはにかむように言う姿にズキュンときた。
ヤバイ……これがベスト3の実力か。女の私でもこれは惚れるし照れるしやられるわ。やだ、この破壊力。……胸が締め付けられる。たすけてー。

今から告白しに行くのかな。どきどきルンルンな背中を見送る。
これは……今すぐにゾエに報告してオカン会を開くべき?あ、でも先走るのよくないかな。とりあえず落ち着こう。すーすーはー。……。
あ――ヤバイ。彼女の気持ちがうつったのかな。
もやもやする……。早く明日になれ!!!


どきどきしながら家に帰って布団にダイブ。キャーと騒ぎながらなかなか寝付けなかった翌日。
いつも以上にからっと元気に登校した私にまさかカゲから出会い頭に胸倉を掴まれるとは思ってもいなかったんだよね。
私、何かしたっけ??誰か助けて欲しい。
視線を彷徨わせて目が合ったクラスメイトが勢いよく私から目を逸らした。え、なんでさ。助けてくれないの?
丁度教室に入ってきた二人に助けを求めた。
もう本当天使、大天使って感じ。大天使村上鋼あらためムラファエルと穂刈篤あらためポカリエル……笑えるな。
そんな私にカゲの低い声が突き刺さる。

「面かせ」

え、怖っ。
マジで私カゲに何かしたっけ?覚えがないんだけど。
誰か助けて欲しい。


20180801



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