影浦雅人
その意味を知ってるのは


知ってるんだ。
勘違いされやすいけどカゲが友達想いだって。
後輩想いで仲間想い…知ってるよ。
カゲが優しいの、知ってる。
隣の席になってからカゲの交友関係をよく見る。
カゲは誰と仲が良いとか、見てる。
クラスメイトの村上くんと穂刈くんはボーダーでも一緒の事が多いのか、
クラスの誰よりも仲が良いの知ってる。
だからカゲが笑うとこんな顔するんだーって知った時はなんだか胸が温かくなった。
友達が楽しそうにしている姿を見るのは嬉しいし好き。

だけど、さ…なんでかな…。
それがとっても嫌に思う時があるんだ。
カゲが他の子と仲良くしているの…見るともやもやして面白くない。
そんな自分が凄く嫌に思うんだ。

「お前さ、何か言いたいことあるなら言えよ」
「いきなりどうしたの?」

唐突にカゲに言われた。
言っている意味が分からない。

「そんなに飛ば…しけた顔してりゃ、
気になるだろうが」

しけた顔…出てるのかな?
自慢じゃないけど私はあまり表情が顔に出ないタイプの人間だ。
確かに面白くないとは思っていたけど、
そんな事言えるわけないじゃない。
だってカゲは別に悪くないんだ。

「別になんでもないよ」
「なんでもないって顔じゃねーだろ」

カゲは悪くない。
友達と仲良くしているだけ。
私がその輪にいないのがつまらないだけ。
だけど、その中に入りたいと思っているわけでもない。
自分でも分からないくらい凄く我儘。
私だって自分に戸惑っているのに、
カゲにそれ…知られたくないんだ。
だから放っておいてほしい。

「放っておいてほしいって顔してねーよ」

自分が思っている事言い当てられて顔が熱くなる。
そんなに私、表情でてたかな?
どうしよう、恥ずかしい…。

「さっきからカゲなんなの」

さっきまでずっと友達と話してたのに。
楽しそうにしてたのに。
それでいいじゃない。
なんであの流れでこっちに来るのかなー…意味分からない。

「不貞腐れるなよ」
「不貞腐れてない」

…そうなっているんだとしたら、急に変な事を言うカゲのせいだ。

「本当になんでもないんだって!」

自分が思ったよりも大きな声が出てびっくりした。
荒げるつもりなんてなかったのに…
カゲも少し驚いているみたい。
気まずくなって私は顔を逸らした。





今考えると本当にどうしようもないくらいどうでもいい事で、
どうしてああいう態度をとったのか分からない。
だけど、気まずさだけは見事引きずっていて、
目があうと反射的に逸らしてしまう。
…カゲと話す勇気がモテない。
他の友達とカゲが話しているのを見るのが面白くない。なんて、
そういう感情がなんだかちっぽけに感じる。
だって話しかけにくい今の方がずっとツライ。
暇な時間を持て余し始めると気付けばカゲの事考えちゃう。
人との衝突避けてきたから、
こういう時どうすればいいのか本気で分からない。
どうすれば元通りになるのかな。
なんて声を掛ければいいんだろう。
カゲにごめんって謝ればいいのかな。
いきなりごめんじゃ可笑しいかな。
悪い事してないけど…ああ、でも八つ当たり、した。
ごめんで可笑しくないかな?
うう…でもいつ言えばいいんだろう。
分からない…!

分からないことだらけで、
私、初めて他人に対してこんなに本気で考えたんだって自覚する。

「アキ」
「カゲ…」

声を掛けられてドキッとする。
話し掛けられて嬉しいという想いと、
まだ心の準備ができていないっていう想い…。
でもこれを逃すと話せないかもしれない。
そう思って腹を括った。

「いい加減にしろよ、お前ウザい」

……!
そうだよね、なんか悪ふざけとかじゃなくて真面目に言われるとそうなんだろうなって認めざるをえない。
友達に言われるとかなりショックだよ。

「…ごめん」

言葉は自然と出た。
仲直り……は程遠い、な。

「あーそうじゃねぇ」

なにが。

カゲが何か言いたそうにしている。
まだ、私に言いたいことがあるのかな。
これ以上堪えられない事言われたら私、立ち直れない自信ある。

「いちいち目逸らしたりすんな。
地味に堪えるんだよ」
「だって…」
「だってじゃねーよ。
俺の事考えてる暇あるんだったら避けるな」
「なんで知ってるの?
私がカゲの事考えてたって…」

顔が一気に熱くなる。
え、私誰にも言ってないのにカゲの事考えてるって…
そんなに分かりやすかったかな!?
焦るよ。
って、なんでカゲしまった…!みたいな顔するの。
なんで赤くなるのさ!
恥ずかしいの私だよっ!!

「仕方ないでしょ。友達と喧嘩?したことないし、
自分でもどうしてこうなったのか分からないし、
どうすればいいのか分からなかったの」

やっと言えた。
本音言えてちょっとすっきり。
でもやっぱり恥ずかしい…。
それでもさ、これでカゲと今まで通り話せるならいいよね…?
カゲ――…

「お前気づいてないのかよ」
「何が」
「――…」

カゲがジト目でこっちを見てくる。
だから何。
なんで溜息をつくの。
一体なんなの。

「言いたいことがあるなら言ってよ」
「…言えるかよ」
「カゲが最初に言ったんだよ。
言ってくれないと私カゲみたいに空気読めないから分からない」
「俺は空気読まねーよ」
「うそー。いつも私が何考えてるか分かってるでしょ?」

そうだ。
いつもカゲは私が何か思っていると気付くし、
言いたそうにしてたら聞いてくれる。
カゲは割と気配りしてるの、知ってる。
今日だって本当は話したくて声を掛けれなかった私に、
目が合うと逸らしてしまう私に声を掛けてくれた。
空気読まないとか嘘だと思う。

「何考えてるのか知らねーけど、
絶対お前が思っている事違うからな」

…堂々巡りになりそうな展開。
私はなんだか可笑しくなって笑っちゃった。

「なんで笑うんだよ」
「いつも通りだと思って」

うん、やっぱりカゲとこうして話してるの楽しい。
私カゲと話すの好きなんだ。

「アキ…」
「なに?」
「…お前はもう少し空気を読め」
「え、なんで?」
「心臓に悪ぃ…」

カゲの言葉が妙に響いて、胸がきゅんってなった。


20161231


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