ボーダー級エイプリルフール
通常運転な烏丸


「ぐえっ」
「今日くらい嘘でも可愛く悲鳴あげればいいのに」
「烏丸、それ無理。
髪を思いっきり引っ張られて私、痛い」
早く離せと抵抗を試みるが今度は頭を掴まれる。
若干ツボに入って気持ちいいが、
今日はエイプリルフール。
烏丸をこのままにしておくわけにはいかないのだ。

「烏丸今日もカッコイイな」
「アキの眼鏡はいつも可愛い」
「眼鏡だけか、どうもありがとう」
「眼鏡掛けている知的女子が最近俺のお気に入り」
「ありがとう烏丸。
お前のお気に入りからのお願いだ。
とりあえずこの手を取って。
気持ちいいの通り越して痛い。力入れすぎ」
「俺の力だけじゃ無理」
嘘か本当か微妙なやり取りが延々と続く。
ソファで宇佐美と迅は呑気に傍観だ。
本当仲良いねふたりとも〜なんて宇佐美が呟いているがそんなの二人の耳には聞こえていない。
何せ今日の本命は別なのだ。

ドンッ

その時何か物音がした。
「小南先輩おはようございます」
「おはようございます桐絵先輩」
二人とも何食わぬ顔で小南を出迎える。
対して小南はワナワナ震えている。
「朝から何イチャついているのよ」
「妬いてるんすか?」
「苛められてるだけだ」
小南の言葉に対して返すタイミングはばっちりだったが
内容は全然違っていた。
二人の言葉は置いておいても
目の前の光景を見ていると何も知らない人から見たらじゃれあっているようにしか見えない。
それが親しい仲間内から見ても…
特に小南の目から見てもそう見えるわけで…。
アキに対してとりまるが相手なんて、見る目ないわねと目で語っていた。
「小南先輩…今まで黙ってましたが俺とアキ、付き合ってます」
「え、やっぱりそうなの!?」
「は、何言ってるんだ!?」
今度は小南とアキの声がハモル。
「アキ照れない照れない」
烏丸に肩を抱かれそれっぽい雰囲気が演出されている。
ここまでされると小南以外も本当にそうなのかと信じたくなるものだ。
アキはというと、
今日がエイプリルフールという事実を思い出した。
烏丸の成分は嘘と冗談と一割の真心でできているとアキは認識している。
先程の自分に対する意味が分からない嘘の連発もこのための伏線だと思えば納得できる。

――先を考えすぎだろ烏丸。

からかうことに全てを掛けているのではなかろうか。
感心してしまったアキは友達の計画に少しくらい乗ってやるかと、魔がさした。
何か言おうとして思いつかなかったのでとりあえす「イエイ」といいながらピースする。
アキの精一杯の援護だった。

アキの棒読みと訳の分からない援護っぷりに
傍から見ていた迅と宇佐美を肩を震わせている。
おかしすぎる。
何よりおかしいのが、アキの嘘でしたーとばれそうな行動を目のあたりにしてもそれを疑わず、ますます信じる小南の方だ。
「え、何いつから付き合ってたの!?
アキ、どうして私に教えてくれなかったのっ!」
「(私に振るのか!?)
あ、今日だから言えることなので」
「…迅さん私もうダメ……」
「俺もちょっと無理」
言うと迅と宇佐美が大笑いし始める。
「アキちゃん、今日だから言えるとかネタバラシしちゃダメでしょ」
「小南もばらされても気づかないし」
「え、え」
どういうことだと周りを見渡す小南。
次第に嘘だということが解ったのか、先程とは違う意味でワナワナ震えている。
「私を騙したわねー!」
飛びかかってくる小南に対して烏丸が自分の腕の中にいたアキを突き出す。
完全に生贄だ。
「私悪くない…!」
「とりまるに加担した時点でアンタも同罪よ!」

小南に揉みくちゃされているアキから離れて、
烏丸は迅たちが座っているソファに腰を下ろす。
「お疲れ」
「肩の荷がおりました」
「あはは。別に強制じゃないのにとりまる君も毎回ご苦労様だね」
もう満足だといわんばかりに用意されていたコーヒーを烏丸は飲む。
小南に噛みつかれているアキと目があう。
彼女の目は後始末まできちんとやれと語っていたが、
烏丸はあえて気づかないふりをして迅たちと一緒に生暖かく見守っていた。


20150403


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