ボーダー級エイプリルフール
プワソン・ダヴリルだよレイジさん


守備は万全。
忍び足で背後に近づいて…
「わっ!!」
「何だ神威か。子供みたいな真似をしてどうかしたか?」
「レイジさん、おはようございます!」
「ああ、おはよう」
「でわ!」

猛ダッシュで玉狛から出ていくアキ。
決して逃げたわけではない。
逃げたわけではないのだ。

アキの後姿を見て首を傾げる木崎。

「レイジさんおはよう。
アキちゃんもう行っちゃった?」
「あぁ。凄い速さで出て行った。
それより迅、これ取ってくれないか?」

木崎は自分の背を迅に向けて言う。
言われた通りに木崎の背中に貼ってあった紙を取る。

「どうしたのこれ?」
「ああ、今神威が貼っていった」
大の男二人でその紙を覗き見る。
「凄いリアル…これ、何の魚?」
「サバじゃないのか?」
「サバ、ねー。…なんで?」
「さぁな」

「ふー…流石にレイジさんに悪戯するのは気が引けるな」
道中、自分が描いた絵を見て呟く。
我ながらいい出来だと満足そうである。

「神威先輩?」
「あ、三雲君おはよう。
今から玉狛?」
「はい、そうですけど」
「そっかー、お願いがあるんだがいい?」
「なんですか?」
アキは持っていた絵を後ろに隠して三雲に近づき耳打ちする。
「大丈夫だと思うが…
玉狛行ったらレイジさんが怒っていないかの確認とあとサバが食べたいと伝えてほしい」
「はぁ…それだけですか?」
「うん。それだけ。
よろしく頼む」
言うとアキは三雲の背中を叩く。
勿論器用に、先程隠し持った絵を貼り付ける。
相手は修だから大丈夫だろうという妙な安心感もあるのだが…。
「いきなりどうしたんですか?」
「あぁ。真面目に絵を描いていたら食べたくなってな」
「神威先輩絵も描くんですか?」
「うん。今回は力作。後で玉狛で見るといい」
アキの言葉に不思議に思いながらも頷く修。
なかなか素直で可愛い後輩だなとアキは微笑む。
「よし、今日の晩御飯は三雲君にかかっている!
頼んだ」
「え?」
「あ、怒ってなかったらレイジさんに晩御飯食べに玉狛行くと伝えてくれ」
「え、え?」
「言っておくが、三雲君とのやり取りは全部嘘ではないからな!じゃ」
アキは言い逃げした。
どういうことか意味が分からない修だったが
嘘じゃないとか言われれば思い出すのは一つだけである。
「あぁ、エイプリルフールか!」

その後、玉狛に行った修は木崎にアキの伝言を伝える。
彼の背中に木崎と同じように魚の絵が貼られていたが、
修が気づく前に千佳によって教えられ剥がされたのであった。



フランスでのエイプリルフール…
プワソン・ダヴリル。
四月の魚と言われるこの日は
魚の絵を貼り付けて悪戯する日らしいが、
日本に馴染みがないのでアキの行動を誰も理解してくれる者はいなかった。


20150403


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