影浦雅人
悪意の中のキセキ


――市街地MAP――

スコープを除くと敵の姿は確認できた。
向こうはこちらに気付いていない。
それを落とすのはちゃんと訓練していてば難しい事じゃない。
確実に仕留めるために私はアイビスを選択し、
引き金を引いた。

『トリオン供給機関破損、ベイルアウト』

無機質なアナウンスが聞こえる。
こちらの場所がばれたけど気にしない。
高台をとっているのはこっち。
下の動きは丸見えだった。
狙える分は狙わせてもらう。
確実に当てることだけを考えるならライトニングが一番。
でも、敵も私の位置が分かって、狙ってくるところにも予測が出来る状態。
集中シールドされたらライトニングではダメージを与えることはできない。
なら、やっぱりアイビスが一番攻撃するのには向いている。

『トリオン供給機関破損、ベイルアウト』
『トリオン供給機関破損、ベイルアウト』
『トリオン供給機関破損、ベイルアウト』

一人、シールドで塞がれた。
でも当てる事はできたから、時間がくればトリオン漏出過多で終了。
だけど、それで終わらせるつもりはない。
私は引き金を引いて相手の頭を、心臓を撃って倒す。
じゃないとこの気は治まらなかった。
もう一度引き金を引いて仕掛けていたメテオラを爆発さえる。
建物を崩壊させて視界が乱れたのに合わせて移動。
そして狙撃ポイントを変えて、
他にも仕掛けていたメテオラを狙い爆発させた。
爆風に塗れ態勢が崩れたところを見逃さずに狙い撃つ。

『トリオン供給機関破損、ベイルアウト』

あと一人倒せば終わり。
探すけど見つからない。
狙撃ポイントを変えて、確認しようと思った矢先、背後から嫌な気配を感じた。
振り向けばカメレオンを解除して、斬りつけようとしてくるところだった。
急いでシールドを展開するけど少しだけダメージを喰らう。
狙撃手のトリガーは至近距離から撃つのに適してはいないけど、反撃しないよりマシ。
次の弾が出るまでのインターバルが少しだけあるけど気にしない。
遠慮なく引き金を何度も引く。
一発しか掠らなかった。
だけど、この位置から狙撃主に反撃されるとは思っていなかったのか、
相手はそれにどうようした。
その隙を見逃さずもう一発。
引き金を引いたのと同時に無機質なアナウンス。

『トリオン体活動限界、ベイルアウト』

その後に発射された弾。
自分の手で仕留められなかった事に苛立ちを感じる。

「最悪…」



仮想空間から出るとそこには今のを観戦していた隊員が最初に目に映った。

<<すげー狙撃手一人で勝っちまった>>
<<あいつら一人相手に負けててやばくね?>>
<<ああいう風に狙撃すればいいんだ>>
<<オレだったらこう攻めたのに>>

見える言葉はいくつもあるけど、
観戦していただけの事情を知らない隊員からすれば、まぁこんなもんか。
十二人での大乱闘。
本当は十一対一の戦いだけど、それは別にどうでもいい。
アイツ等が心改めてくれればそれで。

<<あれって神威じゃん。何、揉めてるの?>>
<<荒れてるの珍しくね?>>
<<ちょっと怖い…>>

私にやられた隊員達もブースに出てきた。
悔しそうな顔したり、気まずそうな顔したり…表情は様々だった。

<<ウソだろ、ありえねぇって>>
<<なんでこんな奴に!>>
<<調子に乗りやがって>>
<<神威のサイドエフェクトのせいだ!
じゃなきゃ狙撃手一人に負けるわけがない!!>>

予想はしていたけど、反省とかしていない。
私がどうしてこの仕合をしたのかも分かっていない。
……ムカツク。
もう一度殺そうかな。
私は自分が倒した相手を睨む。

「せめて言いたい事を口にする度胸をつけたら?」
「……」

返ってこない言葉に腹が立つ。

「人の事とやかく言う前に自分の性根の悪さをなんとかした方がいい」

果たしてこの言葉は彼らに届いたのだろうか。
…届いていないだろうな。
あの後彼らは<<いい気になりやがって>>と思ってた。
<<性悪女>>とも思ってた。
<<お前なんか、サイドエフェクトがなければ弱いくせに>>とも思ってた。
別にいい気になってないし、好きな人の悪口を言われて怒っただけで性悪女と言われるなら別にそれでいい。
サイドエフェクトは…どうだろう。
少なくても狙撃も、狙撃ポイント割り出されないように立ち回るのもサイドエフェクトなんて関係なく訓練してきた結果だと思う。
アンタ達の負けはいい気になって他人を見下す怠慢が招いた事だと思うけど、
私にとってどうでもいい人間だからそこまで言ってやる必要はないかな。
…ただ、ちょっとだけ疲れた。
私のサイドエフェクトは結構神経を使う。
体力回復の為に、
そこにあるソファに座って目を瞑った。
すると目の前は真っ暗になって静寂に包まれた。

私は読心術のサイドエフェクトを持っている。
目に映る人間の心が読める。
たとえ内線通話しようが、言葉を口にしないようにしても関係ない。
それは声が聞こえるとは少し違う。
思っている事が文字として目に見える…というよりは脳に映し出される感覚。
文字通り心の中が読める私は、
他人からしたら嫌な相手に違いない。
知られたくない考えが読まれてしまうのは…私もあまりいい気はしない。
だから相手がどう思うかは理解できる。
だけどこの力のコントロールが出来るかといえば答えはNO。
対策は相手が私の視界に移らないように行動する事で、それは中々難しい。
私も知りたくない他人の考えを読むのはしんどい。
気付いた時には心を読めるようになっていた私は、
建前に隠された本音を読んでしまった時、
心の中の言葉と口に出している言葉が違うそれについていけなくて、
無視するように過ごした事もあった。
それでも脳に直接映し出される感覚は避けようがなくて、
結局のところどうすることもできないという結論に達した。
世の中嘘ばかりではないけれど、
悪い事ばかりではないけれど、
表面上取り繕って、でも内に秘めている悪意を垣間見た時に人ってなんだろうって思う。
その中で本音で言ってくれる人に巡り合えたのは奇跡なんじゃないかなと思う。

「影浦の奴また暴力沙汰を起こしたんだって」
「ポイント減点とか馬鹿なんじゃねぇの」
「頭よくなさそうだよね」
「市民を守るのがボーダーの仕事だろう。アイツ何のためにボーダーに入ったんだ」
「あれじゃね。弱い犬ほどよく吠えるって奴。
弱い奴ほど暴力に走るって」
「マジで洒落にならねーって」

聞こえた声に苛立った。
何も知らないくせにそんな事言うなんて許せなかった。

「アンタ達、私の男に文句があるなら受けて立つけど」

それからあの大乱闘。
結果だけ見れば私の勝ちだけど、
気は治まっていない…。





「アキ、おい起きろ」

暗闇の中。
静寂に包まれたそこに声が聞こえた。
いつもなら無視するけど、
その声の持ち主は私の好きな人だからそんな事は出来なかった。

ゆっくりと目を開ける。
目の前には雅人の姿があった。

<<こんなとこで寝てんじゃねぇよ、危ねぇだろ>>
「こんなとこで寝てんじゃねぇよ」

大体同じ言葉が耳に聞こえてきて、
雅人って本当に素直だなと思う。
私はそれにほっとする。
見た目と言葉遣いで怖がられるけど…損しててもったいない。

「危なくない」
「…心読むんじゃねぇ…ってか、何考えてんだよむず痒い」
「別に。雅人が来てくれて良かったなって。
…ちょっとしんどくて」
「だったらこんな人が多いとこにいるんじゃねぇよ」
「見ないようにはしてるけど物理的に無理。
雅人は平気?」
「だーかーら、そう思うならここにいんなって」
「通り道だからしょうがない」
<<ほら、行くぞ>>

そう雅人の心が読めて私は手を伸ばす。
雅人が怪訝そうな顔しているけど心を読むに<<そんな恥ずかしいことできるか!>>だった。
手を引っ張って起こすくらいしてもいいじゃない。

「けち」
「ケチじゃねー……減る」
「残念だけどしょうがないかー」

言うと私は立ち上がる。
雅人が歩くから私も隣を歩く。

「お前、ひと暴れしたのか」
「なんで?」
「ここに来る前噂になってた」
「十二人で対決した。勝ったよ」
「お前狙撃手だろ。
何、無茶してんだよ」
「だから勝ったよ。話聞いてた?」
「そうじゃねーよ」

頭をわしゃわしゃ撫でられる。
そしてそのまま頭を固定される。
あ、何か読まれて困る事でも考えるつもりか。

「あんま心配かけさせんな」

優しい声色。
こういう時の雅人は素直じゃない。
だから何を考えているのか読みたくなって、
顔をあげようとする。

「だから見んなって」

ぐっと頭を押さえられる。
そこまで言われると余計、気になる。

「あー、そんな期待飛ばすなって」
「好きな人の事はなんでも知りたい」
「そんな恥ずかしい事さらっと言うな」
「私たち付き合ってるの、皆知っている」
「それでも止めろ」
「キスしてくれたら考える」
「だからお前…!
こんなとこでできっか!」
「別にここでして、なんて言ってない」

私の言葉に雅人が言葉に詰まる。

「あーくそ!行くぞ!」

雅人が諦めて私の手を取り引っ張っていく。
それに私はついて行く。
目の前には雅人の背中。

「そんなに慌ててどうしたの?」
「お前のせいだろ」
<<皆に見られて…やってられるか>>

言葉だけ読むとそんな感じ。
感情までは読めないのは良かったのか悪かったのか。
誰かが雅人に悪意を向けているのかって思わず辺りを見まわそうとする。

「お前のせいで、むず痒いのたくさん飛んできてるんだよ」
「むず痒いんだ〜。ならいいか」
「よくねーよ」
<<責任取れ、馬鹿>>
「うん、責任取る」
「だから読むな。口に出せなくなるだろ」

背中だけ見るのは勿体無い。
私は少し小走りして雅人の隣に追いつく。

「隊室についたら口にして」
「……誰もいなかったらな」
「それは……難しいかも」

いつもあそこには仲間がいる。
こんな世界でも私には好きな人も好きな場所もある。
だから大切にしようと思った。


20160509


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