影浦雅人
マイペースな彼女
[ 6 / 16 ]
「アキちゃん、トリオン兵そっちに向かったよ」
「はぁーい」
北添の砲撃から逃れる事が出来たトリオン兵が逃げ道を検索して移動する。
先回りしてその場所に待ち構えていたアキは銃を構え引き金を引いた。
トリオン兵を倒してほっと一息ついたところで、
倒したトリオン兵から小型トリオン兵が現れる。
「ありゃ?」
「ぼさっとしてんじゃねぇよ」
上空から言葉とともにスコーピオンを投げつけ現れたトリオン兵を撃破する。
その流れるような綺麗な仕留め方にアキは純粋に凄いと感嘆した。
「雅人ありがとう〜」
「ありがとうじゃねぇよ。
そんな風に気を抜いているからトリオン兵に奇襲されるんだろうが」
「気は抜いていないけど、雅人たちがいるから心強かったかな。
次は雅人より先に倒すよ」
「だーかーら、任務中にそんなむず痒いもん飛ばしてくんなよ」
「それは無理かなぁ」
「…カゲさん、アキ先輩、任務中にいちゃつくのやめてくれない」
今回の防衛任務の担当は影浦隊だった。
影浦隊といえばB級2位の実力チームで、
攻撃手の影浦を軸に、場をかき乱す銃手の北添、
飛び出てきた敵を仕留める銃手のアキに、
冷静に状況を見極め確実に撃ち抜く狙撃手の絵馬と四人構成の部隊だ。
ランク戦を見ている隊員からしてみれば、
影浦隊は攻撃的な部隊だと認識している。
しかし蓋を開けてみれば防衛任務ではこんなにも場違いな会話がなされている事を彼等は知らない。
大体その原因を作るのはおっとりとしているアキが原因である。
こんな会話をしてても仕事はちゃんとこなしている辺り、
流石B級上位と褒めるべきなのか。
誰かに判断してもらいたいところだが、あまり知られたくもないので秘密にしておこう。
絵馬が突っ込んでいたが、
影浦とアキは付き合っている。
そんな二人のやり取りを影浦は他の隊員に聞かれたくも知られたくもないのだ。
理由は影浦が知られて恥ずかしいというのもあるが、
それ以上にアキという人間はある意味厄介な人種だった。
「今日も無事に終わって良かったよね〜」
防衛任務が終わり、本部へ戻った影浦隊。
アキが今日も何事もなかった事に喜びを噛みしめているのか、
緩みきった表情で呟いていた。
それは見ている分には可愛らしい…というか癒される部類のものであったが、
この場において影浦隊…特に影浦に関しては全く癒されるものではない。
寧ろ彼の防衛任務はまだ続いていると言っても過言ではない。
「神威先輩、防衛任務終わりですか?」
「うん、今帰ってきたとこなの〜」
「お、神威ちゃん。今日も可愛いな〜」
「本当ですか?ありがとうございます」
「アキ先輩、今からランク戦しようよ!」
「ごめんね、防衛任務の報告書作成があるから…」
「ちぇー」
「あはは、相変わらずだねアキちゃん。
あ、ぼんち揚げ食う?」
「わ〜いただきます」
「カゲ達もどう?」
「そうだよ、食べよう食べよう!」
声を掛けるくらいなら別にいいが、
中にはそばに影浦がいることにもお構いなしな言葉も飛び交う事もある。
イライラしている影浦がそばにいても、黙っていればアキの雰囲気に呑まれてしまうのか、
あまり恐れられる事もない。
北添と絵馬がアキが凄い人間だと認識したところである。
「アキさっさと作戦室に戻るぞ」
「はーい」
先頭を行く影浦に返事をし、
作戦室に戻ろうとしたところでアキは後ろから声を掛けられた。
「神威ちゃん、今日暇?」
「うん、暇だよー」
「じゃあさ、ご飯行かない?」
「んー…確かにお腹空いてるかも…」
「おいっ」
その言葉とともにアキは腕を後ろに引かれた。
いきなりの事でバランスを崩し、倒れそうになるが、
丁度何かに当たり支えられる。
上からは影浦の声がした。
「コイツは今から忙しいんだよ。
テメェは引っ込んでろ」
「ひぃっ…!」
影浦の睨みに太刀打ちができなかったのか、
隊員が逃げ去った。
逃げ出すくらいなら目の前で誘わなければいいのに…と、
絵馬は冷静に思った。
北添も思わなくはなかったが、
影浦が目の前で暴れないようにするのが一種の任務のようなものなので、
今のところ傍で待機中だ。
「あーご飯…!」
「ご飯じゃねぇよ。オレがいる前で何誘われてんだよ」
「ちょっとお腹空いたから考えちゃった」
「考えるなって。
ってか、お前あんなのに引っかかるなよ」
「引っかかってないよ?」
「どう見ても飯で釣られてただろうがっ!」
「んーでも今日はご飯かそれともパンかなーって考えてたんだよ?
でも、やっぱりご飯で行こうと思って!」
アキの言葉に影浦隊は唖然とした。
会話が噛み合ってないのもそうだが、
さっきの人の意図分かってないのか?
…だとしたら可哀想だな…と同情し始めた。
因みに北添と絵馬の同情対象は影浦である。
二人から憐れみが刺さってきて影浦はうるせぇと睨みを効かせた。
「お前な、野郎に飯誘われたの分かってるのか?」
「ん、誘われてた??」
「堂々と誘われてただろうが!」
「そうなの?気づかなかったな」
「いや、気づけよってか今のは馬鹿でも分かるだろ!?」
「だって私が好きなのは雅人だよ。
他の人は興味ないから気づけないよ」
「なっ」
「ねぇー雅人。
私お腹空いたからご飯食べようよ」
どうやらここが落とし所というやつのようだ。
結局、影浦が振り回されただけではあるが、
本人たちは納得しているようなのでそれでいいのだろう。
「ねぇ、ゾエさん」
「どうしたのユズル」
「オレ、帰ってもいい?」
「いやいや、作戦室に帰るまでが防衛任務だからさ!
ゾエさん一人にしないで欲しいな」
嬉しそうに影浦の手を握るアキ。
もう観念したような態度をとりつつ握り返す影浦を見て、
二人は無事に作戦室まで戻れることを祈った。
20160712
<< 前 | 戻 | 次 >>