ボーダー級エイプリルフール
冬島さんにマジギレ?


もう死ぬかもしれない。
本気でアキは思った。

近界民の侵入で使用された罠の数々…。
その活躍により街に被害はでなかったものの、
肝心の罠の方はボロボロ。
ほとんど壊れていた。
トリオンをなんとかすればいいというレベルではない。
修理というよりは作り直した方が早いのではないかというレベルだ。
どうせ作り直すなら仕様を新しくしたらどうだということで、
今アキは駆り出されている。
いつもなら嬉々として喜んで作業をしているが今回はそうじゃない。
狂乱しそうなくらいに次から次へと仕事が舞い込んでくる。
数人が怪我したり退職したりして人数が足りないのはしょうがない。
それにしてもこんなに来るものなのか。
せめて私が楽しむ余裕くらいくれてもいいのではないかと心の中でぶーぶー言っている。
勿論、そんな余裕を持たせたらアキが暴走するのは皆知っている。
忙しいくらいが真面目に事が進むので皆わざとアキに仕事を振っている。
あと…自分の仕事が減るので助かっている部分もある。少しばかり。
総合するとアキがいて皆助かっているよということなのである。
いつもなら息抜きがてら訓練と称し、ランク戦を見学しに行くのだが、
アキが忙しいということは上にいる冬島や鬼怒田はこれ以上に多忙だ。
素直に従っている理由はこれだ。
尊敬する上司が仕事しているのに逃げるわけにはいかないということである。
一週間前、仕様変更があってだいぶ形になってきた。

――訓練用のトリオン兵で検証をして…いや、今回みたいに人型が現れることを考慮して対人戦でも検証をするべきか。
相手は誰に頼もう…強い人なら無難に太刀川さん?
ダメだ、あの人手加減知らないから壊される…!
0から作るのはちょっと嫌。

悶々と考えながら、ああでもないこうでもないと腕を組みながら考えるアキ。
ひと段落ついたし甘いものでも…と飲み物を買いに共有スペースの自販機へ。
いちごココアを選択してベンチに座り一休み。
疲れた時の甘いものは格別だ。
これを飲み乾したら最終調整しよう。
そんなことを考えていた。

「お、神威。ここにいたのか」
「冬島さん、お疲れ様です。
そんなに資料を持って…仕事か?大変だー」
「お前のその緩みきった顔みると腹が立つな…もしかして仕事終わった?」
「あと最終調整だけ」
「あー…」
「あ?」
冬島の目線が泳いだ。
凄く言いにくそうな顔している。
それを見て流石のアキもブレイクタイムを味わっている場合ではないと判断する。
「終わったところ悪いけどな、ほれ」
「……」
冬島が持っていた資料の一部がアキに渡される。
なんだこれ、見たくない。
「お前さんがやってたとこの仕様変わったから」
「わー何言っているのか聞こえない――!」
「騒ぐな!こんなのいつものことだろ。
とりあえず最後まで目を通してくれや」
「何で今持ってくるんですかー仕事がもうすぐ終わる私に対しての嫌がらせ!?
冬島さんサイテー」
「それ書いたの俺じゃないから。
ほら、開発室室長殿のサイン」
本当に鬼怒田の名前がある。
ページを捲ると新規仕様が書かれている。
この制御をするには今の処理を半分捨てて…
これだと実装に2日掛かって…等、
ぶつぶつ呟きながら仕様書を読むアキに冬島が溜息。
「人の話ちゃんと聞けや。
今日限りの仕様になるから目を通すだけでいいぞー」
「……」
冬島の言葉は届いていない。
完全に仕様書に没頭である。
俺は知らないと冬島はとりあえずその場から立ち去る。
…厳密には開発室へ向かって同じ物を他のスタッフに配るだけなのだが…。




「冬島さんっ!!!」

開発室にて。
先程の仕様書を読み切ったアキが冬島に詰め寄った。
「冬島さん酷い!何あれ、『今日はエイプリルフールなので、今まで記載してあった新仕様は嘘』とか!?信じられない!それが社会に生きる大人のやることか!?」
「俺言ったじゃない。最後まで目を通せって。
言っとくけど嘘仕様書作ったの俺じゃないからな」
「でも渡したのは冬島さんだ!!」
その光景を見てエンジニア達がそういえば初めてだっけと思い出す。
怖そうな顔でいつもツンツンしている我が室長はあれでも一児のパパだったこともあるのでお茶目なところだってある。
毎年恒例の室長のエイプリルフールで嘘仕様書を配るのはランダムだ。
自分も昔はあんな感じだったと、周りの大人たちは思い出に浸っていたことを知る由もない。


エイプリルフール告白が書かれたページの次のページに
鬼怒田からの評価とアドバイス等書かれたページがあるのだが…
アキがそれを読むのはもう少し冬島に今までの鬱憤をぶちまけ終わってからになる。
アフターケアも忘れない室長はぬかりなかった。


20150403


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