ボーダー級エイプリルフール
間接的に引っかかる木虎


「あ、木虎」
「…何ですか神威先輩」
「あれ、今日、いつもより冷たくない?」
「気のせいじゃないですか」
「ソウデスカー」

アキはC級ブースで木虎に出会った。
しかも残念なことに、彼女は機嫌が悪いらしい。
誰だ、彼女の機嫌を損ねるようなことをしたのは!!

考えるが当然のことながら答えはでず…
言葉を掛けても木虎は答えずアキを睨んだままである。
何かしただろうかと本気で考え込むアキに低い声で木虎が言う。
「佐鳥先輩が烏丸先輩と神威先輩が付き合ってるって言ってたんですけど」

――佐鳥っっ!!!
あれか、嵐山さんの件の仕返しか!?
そんなに大変だったのか、すまん佐鳥。本当に悪かった!

ここにはいない佐鳥に対してアキは平謝りだ。
目の前の木虎壌は大変御立腹である。
「嘘ですよね?」
「はい…」
「エイプリルフールだから佐鳥先輩がついたつまらない嘘ですよね?」
「はいその通りで…なーんだ木虎、
嘘だって分かってるのか!
焦って損した」
「そういう問題じゃありません」
「え?」
「どうして烏丸先輩と神威先輩が付き合っている嘘ネタになるんですか!
私なんて一度もか、らすま先輩と付き合ってるとかそんなネタにされたことないのに…!」
「怒るとこそこ?嘘でもいいからネタにされたいの?
え、そうなのか木虎??」
「黙ってください!」
嘘でも噂でも…そういう話がでるということは、
周りから見るとそう思われているとか、
火のない所に煙は立たぬとも言うし、
やはり期待とかするのだろうか。
そんな乙女心は分からないが、木虎が烏丸が好きだというのと、
それに対して自分のことが気に入らないということだけは伝わった。
「木虎って可愛いよね」
「なっ…!先輩にそんなこと言われても嬉しくなんてありません」
顔を真っ赤にして言う木虎。
烏丸が絡むと怖いけど、その分可愛いとも思う。
顔がいい分、猶更そう思うアキ。
可愛い後輩のために一肌脱ごうと思うが、
ダメだ脱げるネタもなければ力になりそうもない。
しかし、どうして嘘と冗談の塊のような男がいいのだろうかとアキは首を傾げる。
「烏丸より佐鳥や時枝の方がかっこいいだろうに」
「は?何言っているんですか先輩。
時枝先輩はまだしも佐鳥先輩と烏丸先輩を一緒にしないでくれます?」
「佐鳥に失礼だぞ、それ」
佐鳥、先輩の威厳はどうした?
アキは凄く不安になってきた。

「大体、どうして佐鳥先輩も嘘の彼女チョイスが神威先輩なのよ」
「木虎。佐鳥はこの際それでいいが、私は先輩扱いしてくれ」
「先輩扱いしてるじゃないですか。せ・ん・ぱ・い」
木虎が冷たくてアキの心は砕けそうだった。
野郎はどうでもいいが流石に女の子は堪えるようだ。
「佐鳥が私の名前出したのって、単純に私が烏丸と同じクラスで都合がよかっただけじゃないのか?」
「本当にそれだけですか?」
「それだけそれだけ。学校で烏丸と噂になったことないし、
今日だって烏丸が眼鏡が可愛いとか、眼鏡を掛けた知的女子がいいとかそんな話を言うくらいだからな」
「本当ですか!?」
私は対象外だと言って木虎を安心させるつもりがまたもや言葉を遮られる。
嵐山隊は話を最後まで聞いてくれる人間はいないのか。
「本当だ。だから安心して」
「あ、いたいた〜アキちゃ〜ん!!」
今度は気の抜けた声に邪魔される。
「柚宇先輩?」
「ねぇねぇ、アキちゃん借りてもいいかな?」
「ええ、どうぞ。
丁度急用があったので大丈夫です」
「本当?良かった〜行こう、アキちゃん」
「ええ!?ちょっと待ってください柚宇先輩!まだ木虎と話が――」

国近に引っ張られて行くアキ。
視線だけ木虎の方に目を向けたが時既に遅し。
木虎テレポートでも使ったのかと言わんばかりに姿がなかった。

――木虎だから大丈夫だよな?

杞憂に終わればいいとアキは思ったが、
そんなわけにはいかないのが世の常である。


20150403


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