影浦雅人
師匠になった日
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※ボーダー設立から一年後の話で影浦中学三年生。
※スコーピオン開発済みで迅はS級になっている設定。
※影浦の訓練生時代のトリガー捏造。
※夢主がスコーピオンを伸ばして戦う描写がありますが、
あくまで彼女のトリオン量に物をいわせただけなので、
マンティスではありません。
「わーあの子、結構食らいつくね」
自己鍛錬をしようとブースに足を延ばして見つけた。
後にランク戦ブースと呼ばれる事になるその空間に、
今あるのは部屋が数部屋のみ。
誰がどの部屋でどう戦っているのか閲覧できるモニター。
神威アキはそのうちの一つに目が止まった。
剣術に優れている太刀川慶は孤月を使うと右に出る者はいないといわれるほどの実力者だ。
そんな太刀川と対戦しているのは隊服を見るから訓練生。
白い服に身を包んではいるものの、
明らかに好戦的な風貌を持つ少年だった。
ボーダーが設立されて一年。
その気になれば顔を覚えられるくらいの人数しかいない入隊してこない。
今期は確か自分よりも年上の人間はいなかった事を思い出し、
太刀川と戦っているのは同年代または年下だろいう事を知る。
「面白い子だなぁ」
純粋にそう思った。
まるで太刀川が攻撃してくるのが分かっているのか、
一瞬、攻撃に対処しようとしたのが見えた。
だけど正隊員と訓練生の実力の壁というやつか、
攻撃してくるのが分かっても対応できないらしく、
その事実に少年が苛立っているのが分かる。
訓練生だとか正隊員だとか少年には関係ないのだろう。
アキの目からは強さに貪欲で、立ち向かっていく少年の姿に見えた。
そしてそれは凄く好感が持てたのだ。
訓練室から出てきた二人。
ご満悦な太刀川と悔しそうな影浦の姿。
それだけでアキの興味は完全に少年の方にいっていた。
「俺に何か用か?」
なんて声を掛けようか考えていたら、
逆に向こうから声を掛けられた。
その荒っぽい言い方と睨みに先輩として注意してもよさそうなのだが、
アキはそうはしなかった。
どうして気づかれたのか、そんな疑問も持たずに、
手っ取り早いとアキは少年に伝えた。
「そうだよ。私は君に用があるんだ」
「…だから何だよ」
アキの何を見てなのか…少年は少し反応に遅れた。
その口から出た言葉は先程と違う素直な言葉だった。
「私と手合せしてほしい」
そう言って始まった模擬戦。
観戦してた時も思った事だが、直に目にするとよく分かる。
アキが攻撃を仕掛けようとすると少年は即座に反応する。
やはり気のせいではなかったという確信を得るのと同時に、
普通ならここまで相手の攻撃が分かるなら、
それだけの技術を持っていそうだが、
少年にはまだそれが足りない。
その不自然さに違和感を感じる。
アキのスコーピオンを受け止めようと孤月を構える少年にアキは打ち込まず逆に距離をとる。
それに苛立ちを感じたのか、
追撃してくる少年にアキはスコーピオンの刃先を思いっきり伸ばし、
少年の胸を貫いた。
模擬戦終了後。
正隊員と訓練生だから仕方ない結果に、少年は悔しそうに舌打ちした。
本日は敗戦ばかりで、機嫌が悪くなるのは分かる。
だけどそれ以上に空気を読まず近づいてくるアキに少年は眉間に皺を寄せた。
「君、どうして孤月使ってるの?」
思ってもいない言葉を掛けられ少年は口を開けた。
いきなり何なのだとその表情は言っている。
何だか答えるのが癪なのか無視を決め込む少年にアキは追い討ちをかけた。
「まだ慣れてないからしょうがないけど、
孤月に身体振り回されてる感じだよねー。
反応いいのに勿体ない」
あんに孤月が重たくて振り回せていないと馬鹿にしているのかと思ったが、
どうやらそういうわけではないという事を、
少年は分かった。
分かったが、余計なお世話だと思った。
「てめぇ、俺の事知っててちょっかい出しに来たんじゃねぇのかよ」
「こらー訓練生。
今期は私より年上がいない事知ってるんだぞ。
先輩に向かって、てめぇ呼ばわりしなーい」
「ちっ」
年上かよと少年は舌打ちをした。
「君の事はさっき太刀川先輩と勝負しているのを見て知った。
面白いから勧誘しようと思って」
「…何にだよ」
「スコーピオンだよ。
軽いし自由自在だし、君と相性よさそうだなって。
今戦ってみて確信しちゃった」
余計な世話は変わらず。
何故嬉しそうに話しているのか少年には理解できない。
先程戦った太刀川を思い出す。
そういえば彼も彼女とは別の意味で嬉しそうにしていた。
ボーダーはそういう人間の集まりなのかと少し勘違いしそうになる。
少年が何を考えているのか知らないアキは話を続けている。
無視してもそのまま話掛けてくるなら、
逆に受け答えした方がいいのだろうなと少年は思った。
「――で、どうして孤月選んだの?」
「アァ?別に適当だよ。
他のポジションはガラでもねぇし、
相手ぶった切るなら孤月が主流だって聞いた」
「あ、孤月に思い入れないって事?」
「……」
ぐわっと飛びかかる勢いで近づいてくるアキに少年は思わず身を引いた。
ここでいろんな人間の興味を集めたが、
目の前の人間のはまた違った部類のものだと分かり、反応に悩む。
「スコーピオンできてまだ一年も経っていないからあまり使っている人いないけど、
さっき見せた通りだよ。
どこからでも出せて変形自在だし、
やり方次第では間合いも変えられるからね。
君、反応いいし無駄に剣を振り回すよりは最短で対処できる武器にした方がいいと思うんだ」
「…言いたい事は分かったけど、
それ、他の奴じゃ駄目なのかよ」
「だって見つけちゃったんだもん」
今度こそ少年は黙るしかなかった。
少年はそれが悪意がなく善意のもので本物だという事が分かったからだ。
ここまでくると初対面でも分かる。
アキは絶対に引かない。
何故訓練生である自分が折れないといけないのか釈然としないが。
だから最後に一言だけ意地悪を言う。
「先輩の言い分だと俺、強くなるけどいいのかよ」
先輩より強くなっても。
そういう意味合いで言うがアキは笑顔で答えた。
「強くなるの、いいじゃない。
あ、でも私も強くなるからそう簡単にはいかないからね!」
「はー…」
少年は溜息をついた。
「さっき剣先を伸ばした奴。
あれすぐ叩き割れたけど強度どうにかなんねぇの」
少年の言葉にアキはおっと反応した。
「私そこそこトリオンあるから今日初めて試してみたんだけど、
スコーピオンの性質の問題が絡むからさー…
でも間合い伸ばせるのは魅力的だから、
今どうにかならないか考え中なの」
「初めてかよ」
「いいでしょー」
少年はアキを見る。
その目は向上心に溢れている。
アキはそれを見て声を掛けてよかったと思う。
「これからよろしく。えっと…」
「影浦だ」
「影浦くんね。
私、神威アキ。まずは動けるようにするから」
早く正隊員になって一緒に切磋琢磨しようというアキに、
影浦は「上等だ」と返した。
アキはこの日から影浦の師匠になった。
20161129
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