彼等の白き日々
先延ばされる返事
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郷に入っては郷に従えとはよく言うし、その通りだと納得している。
しかしオレには玄界の行事が理解できない。
嘘をついてもいい日だとか、
好きな人に告白する日だとか、
その返事を一か月後にするのだとか……これらの行事は何故存在するのか分からない。
更に言うなら告白する日が今では感謝を伝える日になっていたり、
返事をする日も感謝を伝える…お返しになっているということだ。
余計意味が分からないが、
どんな気持ちでもお礼の意で返すのは玄界の礼儀の一つらしい。
そうと聞いてしまえば、お返しを用意する必要はあるのだろう。
貰ったらありがとうと感謝の言葉を述べるのは当然のことだ。
玄界はそういう思いやりの部分を大事にしているとヨータローやユーマ、オサムから聞いた。
礼儀を守るという点においては確かに理解できた。
今日はレイジがバレンタインのお返しとしてマカロンというものを作るらしい。
毎年、玉狛のホワイトデーのお菓子は自作と聞いた。
自分で作らなくても玄界にはいろんな店があり、
できたものを買って帰ることが可能だ。
気持ちが大事というならそれでもいいのではないかと思うが、
レイジが言うには、
自分が作ったものを美味しいと言って喜んでくれる姿を見るのが嬉しいらしい。
料理をする習慣のないオレには全く分からない部分ではある。
だが、喜んでくれるのは……確かに、嬉しい……とは思う。
アキの顔が浮かんでオレはかぶりを振った。
バレンタインにチョコを貰って意識しすぎだ。
冷静になれと自分に言い聞かせる。
「ヒュース作るか?」
レイジの言葉にすぐに返事をするのはなんだか癪だった。
オレは少し考えたふりをする。
アキの喜ぶ顔が見たいとかそんなことを思っているわけではない。
今日はランク戦がない。
ユーマたちは玉狛にはいない。
オレは特にやることがない。
だから仕方がない。
暇潰しにレイジの手伝いをすることにした。
******
「お、いい匂いがするな」
入ってきたのはアキとユーマだ。
「食べてもいいのか?」と言ってくるユーマに、
これはお前にやるものじゃないと言っておいた。
食べたいならレイジに許可をとれ。
…因みにレイジはラッピングの準備をしに部屋を出て行った。
この二人はその入れ違いに入ってきたのだ。
「遊真くん、それ何?」
アキはマカロンよりもユーマが持っている包みの方が気になるのか、声を掛ける。
ユーマも誇らしげに包みを持ち上げ答えた。
「これはかげうら先輩と一緒に買ったんだぞ」
「え、影浦くんと!?」
ぶっと噴き出すアキ。
かげうらと聞いて誰なのか分からないが、
学校が違うアキとユーマが共通認識できる人物ということは、
ボーダーの人間なのだろう。
「可愛がられて良かったね」とユーマの頭を撫でるアキを見て、
なんだかモヤッとする。
ユーマがこちらの方に目を向けてドヤ顔をしているのが、
凄く腹立たしい。
「今は食べれないみたいだし、
おれはプレゼントを自分の部屋に置いてくるぞ」
「うんうん、いってらっしゃい」
ぱたんっと扉が閉まる音が響く。
部屋にはアキと二人だけ。
静寂を感じる間もなくアキが口を開いた。
「ねぇ、これってホワイトデーの?」
「……それ以外に何がある」
「そっかーじゃあ今年はレイジさんから貰えないな」
「残念だったな」
「私が残念になるかはヒュースくん次第だけどね」
アキがオレを見てくる。
何を言いたいかは分かっている。
まるで向こうに主導権を握られているような感覚がして少し癪だ。
「言っておくがオレはこの行事が好かん。
わざわざ告白する日を設けたり、その返事を一か月先にしないといけないとか意味が分からん」
「本当にそうだよね」
「だから貴様にはこれをやる」
皿の上に載ったままのマカロンをアキの目の前に差し出した。
「あれ、これレイジさんが作ったんじゃ……」
「それはオレが作った」
「ヒュースくんが?私のために作ってくれた?」
「な!そんなわけないだろ!」
「そんな顔で言われても……返事はくれないの?」
「貴様らが14日に返事をすると決めたのだろう!
その時にしてやる」
「じゃあ、期待して待ってる」
玄界の変な行事縛りのせいで上手く立ち回れないオレを見ながらニコニコ笑っているアキに、
オレは舌打ちをした。
20170314
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