彼等の白き日々
新しい一歩


もうすぐ中学も卒業。
三年生の私達は受験の合格発表を待ったりしているわけだけど、
学校に来ている主な目的は卒業式の予行練習のため。
午前中しかいないのに時間が無駄だとか、
自分達の卒業式のために練習するとか意味が分からないし、実感が沸かない。
だから予行練習が済んだ後、
屋上に行って、校門を眺めたり、
三門市の遠くの方を見て時間を潰す。
卒業する実感は湧かないけど、
今見えているものがあと3日後には見えなくなるのかと思うと少し哀しい。
学校に来れなくなるのが哀しい。
だって好きな人に会えなくなるんだもん。

「神威、こんなとこで何してんの?」
「く、空閑くん、どうしてここに?」
「神威探してたらここだって教えてもらった。
卒業式の練習終わってやることないのにここで何してんの?」
「うん、もうすぐ卒業しちゃうでしょ?
だから校舎に入る機会がなくなると思ったらなんとなく来ちゃって……」
「確かに卒業したら学校には来なくなるな」
「なんだかそれがちょっと寂しいなって」

私の言葉に空閑くんがきょとんとする。
その顔を見て、これは私が思っていることで空閑くんはそう思っていないことを知る。
私は慌てて「気にしないで」とだけ言葉にした。
空閑くんは本当に気にしていないみたいで、
私の隣に立って同じように私がさっきまで見ていた風景を見るから、
私も同じように見る。
同じものを見ているはずなのに、
さっきよりもキラキラしてさっきよりもずっと哀しい。

「それより、私を探してたんだよね?
どうしたの?」
「お、そうだった」

言うと空閑くんは持っていた紙袋を私に差し出した。

「これ、バレンタインのお返しです。
ドーゾ受け取ってクダサイ」
「あ、ありがとう!」

紙袋の中を覗くと綺麗にラッピングされているものが入っている。
私が空閑くんに渡したものは手作りで、その…私不器用だから、
ラッピングも上手くできなかったんだけど。
それに比べるのもおこがましいけど、
俗にいう3倍返しかなって思うくらい綺麗だった。
本当に貰ってもいいのか不安になる。

「ホワイトデーというやつ初めてだったからな。
何がいいのか分からなくてボーダーの先輩に教えてもらった」
「そうなの?」
「ああ、なかなかに熾烈を極める戦いだったぞ」
「??」

買うのが大変だったということ?
男子ってお菓子屋さん行かないから恥ずかしかったのかな?
確かに男子がお菓子屋さん行くイメージってあまりないかもしれない……。

「貰ってもいいの?」
「うん。寧ろ貰ってくれないと困るぞ」
「そうだよね、ありがとう」
「ドウイタシマシテ」

どうしよう、凄く嬉しい!
お返し貰えるって思っていなかったから本当の本当に嬉しい!
だからもうすぐ来る卒業式が哀しい。
卒業したら春休みで、空閑くんには会えなくて、
新しい高校には空閑くんはいない。
今までみたいに会うことはなくなるんだ……。

「神威どうかしたのか?」
「ううん、お返し!貰えるなんて思ってなかったから。
ほら、渡したの義理だったし」
「ん――…バレンタインの時も思ったけど、
神威変な嘘つくよね」

空閑くんの言葉に私はドキリとした。

「……うそ?」
「だって神威義理じゃないんだろ?」
「どうしてそれを……」

私、そんなに分かりやすかった!?
じゃあ、私の気持ちを空閑くんは知ってて……

「義理じゃないってことは本命っていうやつなんだろ?」
「空閑くん!直球すぎるよ!!」
「あれ、違うのか?」
「違……わないけど」
「うん、なら良かった。
おれも神威のこと好きだからな」

え…………

「そうなの!?
空閑くん、私のこと……知らなかった」
「言ったことなかったからな」

嬉しい。
だけど私達……。

「もうすぐ卒業式で会えなくなるのに?」

空閑くんに会える場所もうすぐなくなっちゃうのに?
だから好きだってはっきり言えなかった。
義理だって言って自分を誤魔化したのに。

「?学校の外で会えばいいだろ?」
「会ってくれるの?」
「おれは会いたいぞ」
「私も!でも空閑くんの連絡先知らない」
「お、そういえば!」

言うと空閑くんは自分のポケットに手を突っ込み、
スマホを取り出した。

「最近こいつの使い方を覚えたんだ」

胸を張って言う空閑くんがなんだか可笑しくて、
ちょっと可愛いなって思って。

「神威、学校卒業してもおれと会ってくれるか?」
「うん!!」

私は空閑くんのこと凄く好きだって思った。


20170314


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