今日のち未来
やってきた未来で


後に呼ばれる第二次大規模侵攻。
近界民の狙いはC級隊員をはじめとする、
トリガー使いの捕獲だった。

B級であるきらりは他のB級合同チームと合流し、
防衛戦をする予定だった。
しかし、予定はあくまでも予定らしい。
きらりがいた地点が、今回標的にされているC級隊員団体様ご一行。
それを玉狛が護衛していた。
きらりはソロで活動しているため、自身の隊との合流はない。
独断できる経験もないきらりにとって本部が出す指示通りに動くのが絶対で確実だった。
分かっていたのに、目の前の仲間が襲われている姿を目撃して指示通り動く事なんてできなかった。
なんとかしなくちゃ…! という想いが強くて気持ちに任せて動いていた。

初めて見る新型トリオン兵。
動きが早すぎてついていけない…。
翻弄されたきらりは新型トリオン兵に捕まった。
そのままキューブ化して格納されそうになったところを、
援護に来てくれたA級隊員三人組によって救われた。

「きらり、何してんだよ!
B級は他の地区の防衛のはずでしょ!?」
「そんな事言われても、ここが一番近かったのっ!!」
「お前らこんな時に喧嘩するんじゃねーよ」

米屋の言葉に二人は我に返った。
A級が相手にしているとはいえ、何体かはそれを抜けてくる。
その時にC級を守るのがきらりの仕事だ。
抜けてきたところを狙ってきらりは銃型トリガーの引き金を引き、
アステロイドを撃ち込んだ。
少しでもダメージを与えれば、
彼らなら倒してくれる。
今の自分に出来る事はこれくらいだが、
それでも手を抜かず全力だった。
ボーダー側が優勢になってきたと思った時だった。
その後現れた人型近界民により状況は一変した。
近界民の攻撃で動物の形をした弾が飛んできた。
それに触れるとキューブ化してしまう…その攻撃と新型トリオン兵が連携してきて、
あっというまにボーダーは劣勢になった。

素早い動きで相手を翻弄するのが緑川の戦闘スタイルだ。
だが、人型の攻撃を捌くのに気がいってしまう。
どうしても後手に回ってしまい、
新型トリオン兵に押さえつけられた。
そこを狙って動物の形をした弾が飛んでくる。
緑川は敵の弾をシールドで防ごうとしたが、
弾はトリオンに当たる度にそれをキューブ化してしまう。
このままでは危ないと判断したのだろう。
緑川がベイルアウトした。

あの強い緑川が…。
きらりは信じられなかった。

正直、そこからどうしたのか…いやどうなったのかきらりは覚えていない――。




******


あの大規模侵攻終了後、
やはりというかなんというか…ボーダーを辞める人が出てきた。
それはキューブ化されて元に戻った人だったり、
キューブ化された仲間を見ていた人だったり…
近界民の侵攻に恐ろしくなった身内により強制的に辞めさせられた人もいた。
上層部からしたら予想の範疇だった。

中学生でありながらA級の立場にある緑川もなんとなくそれは解かる事だった。
実際、身内から心配された。
確かに戦争に参加するボーダーは危険かもしれない。
だけどボーダーに入隊する前にトリオン兵に襲われた事がある緑川からしてみれば、
トリガーを…戦える力を持っていない方が危険だった。
そう言って説き伏せたらしい。

ボーダー本部のラウンジを見渡すとやはり人数は減っている。
緑川はなんとなく寂しさを感じていた。
知り合いや仲のいい先輩達とランク戦をして腕を磨くのは怠っていない。
しかし、何か物足りなさを感じる…。

「お前達、最近ランク戦してないな」
「え?」
「星空とだよ。
いつも顔を見合わせる度にやってたじゃん」
「そうだっけ?」
「オレにボコボコにされた時とか、
ポイントちょうだいって言ってふっかけに行くだろ。
そんで星空が怒ってランク戦するけど、
結局緑川に負けんじゃん?
で、怒って言い合いするの見てて面白かったんだけどなー」
「よねやん先輩、
おれ達、見世物じゃないんだけど」

米屋の言葉に緑川は頬を膨らませる。
緑川がきらりとランク戦する理由は大体そんな理由だ。
あとはきらりが緑川を発見して、
「今日こそ勝つから!」と啖呵をきるとこから始まる。
他にも二人の憧れである迅について語ったり、
中学生組が集まってお菓子を食べたり、
ランク戦以外の事だってする。が、
ここ一週間きらりとランク戦どころか顔も合わせていない気がする。
米屋に言われ、
物足りなさの正体はこれだったのかなと思い始めると、
急に気になってくる。

「星空、どうしたのかな」
「なんか、今更だな」
「よねやん先輩のせいでしょ!」

緑川の反論に米屋はけらけら笑う。

「アイツもボーダー辞めたらしいぞ」
「マジかよ!最近多いよなー」

急に聞こえてきた言葉に緑川は反応した。
最近見ないきらりの顔を思い出し、
気が気でなくなってしまう。
中学生という身分で携帯を持っている人間は少ない。
きらりは携帯を持っていない人間なので、
連絡をとりたくてもとれない状況に、
考えは悪い方へと進んで行く。

「気になるなら会いに行けばいいんじゃね?」




そう言う米屋の言葉に乗せられて、
気づいたら緑川はきらりが通う学校まで来ていた。
何をしているんだろうと思わなくはなかったが、
来てしまったらしょうがない。
運よく見つけられるかも分からないし…と考えて、
探し人の方から自分を見つけてくれた。

「緑川?
なんでうちの学校にいるの?」

随分久しぶりに見る顔に緑川はほっと胸を撫で下ろした。

「星空がボーダーに全然来ないからだよ。
よねやん先輩と話してて、何してるのかなって。
最近ボーダー辞める人がたくさんいるから、本部が少し静かでさー」
「……」

その言葉にまずそうな顔をするきらりを見て、
緑川は嫌な予感がした。

「星空…ボーダー辞めるの?」
「辞めないよ」
「じゃあ、どうして最近来ないんだよ!?」
「…親にボーダー辞めろって言われたの」

きらりは冷静に言おうと努めて言葉を続ける。

「大規模侵攻の時みたいな想いをするのは嫌って言われたの。
私、正直あの時の事よく覚えてなくて…
気付いたら終わってたから大丈夫しか言えなくて…
そしたら、危機感が足りないからそんな事言えるんだとか、
ボーダーに拘る理由は何だとか言われた」

それから親がボーダー本部に除隊願いを出したらしい。
勿論きらりは納得なんてしていない。
自分はボーダーを辞めたくない事を本部に訴え、
きちんと保護者と話し合いなさいという事で除隊に関しては保留扱いになっている。
その際、トリガーは本部に預かられてしまい、
本部へ行く事が出来なくなったのだ。
現在、親を説得している最中らしい。
近界民より性質が悪いんじゃないかと思ったと本気で言うきらりを見て、
相当苦戦している事が窺えた。

「私が覚えている事なんて緑川がベイルアウトするとこで」
「なんでそういうとこ覚えてるんだよ」
「仕方ないでしょ!それしか覚えてないんだもん!
だからその後どうなったか分からなくて凄く怖かった…!」

“怖かった”。

その言葉を聞いて緑川の嫌な予感は不安に変わり、
どんどん大きくなっていく。
今回ボーダーを辞める人の大半は怖かった。
こんな事になるなんて思ってもいなかったという意見が多数あった。
その中の一つをきらりが口にした。
緑川の中でその行きつく先は一つしか考えられなかった。

「ボーダー辞めたいの?」
「辞めたくないよ!」
「嘘だ。だって今回辞めた人はほとんどの人が言ってたよ、“怖い”って」
「そうだよ、“怖い”って分かっちゃったんだもん!
私気づいたの。
ボーダーにいないと分からない事たくさんあるって!
あの時緑川がベイルアウトして“怖かった”んだよ。
もしも私がボーダーにいなかったら、
私の知らないところで緑川がいなくなるかもしれないって事でしょ?
それが嫌だって分かっちゃったんだもん!」

ボーダーを辞めたくない理由を聞いて緑川は唖然とする。
それってつまりどういう事だろうか。
残念ながら彼の頭はあまり働いてくれないようだ。

「っていうかどうしておれが負ける前提で話をするの」
「だからもしもって言ってるでしょ。
ばかばか緑川ー!」
「そんなこと言うならランク戦しようよ。
早くしないとおれ、どんどん強くなるから星空が勝つ見込みはなくなるね」
「どうしてそんな事言うのよばかっ!!」
「言うよ、星空がいなくてつまらなかった……。
おれだって、星空がいないと嫌なんだよ!」

今度はきらりの頭が上手く働かなくなったようだ。
つまりどういう事なの…と結論を探すために思考の波に呑まれる。

「私達って一緒にいないと嫌だって事?」
「そういう事かなー」
「……」
「……」

「「あれ?」」


お互い顔を見合わせて、一緒に思考停止した。
それってどういう事なのか…考え付いた結果が一緒だったのか、
次の瞬間、二人して顔を真っ赤にした――。


20160719


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