分岐点
ボーダー高校生組

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『門発生、門発生。
遠征艇が着艇します。
付近の隊員は注意して下さい』

遂にこの時が来たと上層部が思った。
これで玉狛にある黒トリガーを奪取できると――。

遂にこの時が来たとエンジニア達は思った。
これで近界民の技術であるトリガーの解析ができると、
好奇心を燻らせ、徹夜大歓迎モードであった。

因みにあかりもエンジニアに所属しているだけあって、
遠征チームが帰還するのを心待ちにしていた。
本当は自分が遠征したいというのはあるが、
戦力的にもサポート的にもあかりはまだ遠征に選抜される基準に達していない。
今はその事実を受け入れ、基準に達するために日々精進を重ねなければならないのである。
――…ということで、
学校が終わり真っ直ぐボーダーに直行したあかりはエンジニア達と一緒に嬉々としてトリガー解析を行い、
行き詰って悶々としたりしていた。
仮眠室から船酔いでダウンしていた冬島が「お前ら煩い」とぼやいていたが、
誰の耳にも届いていなかった。


「ふぅ…頭使ったー」

あかりは休憩がてらに共有スペースまで来ていた。
疲れた時には甘いものが欲しくなるもので自販機前でどれにしようか悩んでいた。

「はー迅さん達にやられるとはな」
「お、あかりじゃん。いいところに」

声を掛けてきたのは出水と米屋。
あと彼等の後ろには三輪隊がいた。
三輪が物凄く不機嫌に見えるのは気のせいだろうか。
そんな事を思っていたのがいけなかったのか。
米屋はすかさず自販機のボタンを押した。
ガシャンと物が出てきた音がする。

「あかりサンキュー」
「え、先輩酷い」
「俺達、一仕事終えて疲れたんだよ」
「私も疲れてます」

黒トリガー争奪戦なんてものが行われていた事など知らない隊員は実に平和である。
今、迅が上層部と取引をしている最中であるのを彼等は知らない。
何せ任務終了後、自身の隊長達から解散命令が出たからだ。
三輪隊の隊長である三輪は納得した感じではなかったが、
自分達にできるものは何もないと判断する冷静さは残っていた。
任務が終了してしまったらしょうがないと引き上げたばかりだ。

「星海。米屋が悪かったな」
「奈良坂先輩!」

言うと自販機に小銭を入れる。
米屋が勝手に飲んだ分を出してくれるようだ。

「お、奈良坂優しー俺にも頂戴」
「俺も俺も!」
「出水、自分で買え。
米屋……お前は今飲んでるだろ」
「飲み物はいくらあっても大丈夫だって」
「彰平何か飲むか?」
「ありがとうございます」

後輩には優しい奈良坂である。
単純に米屋や出水が自由すぎるのかもしれないが。
そんな感じで先程の極秘でピリピリしていた奈良坂も、
任務が終われば優しい雰囲気を漂わせる。
この年で仕事と私生活の切り替えができるのは流石としかいいようがない。

「ついでだから送っていくけど」
「あ、私今日はもう少し残っていくから大丈夫です」
「エンジニアなんかあんの?」
「トリガー解析。あと他にもやりたい事がありまして……」

目を輝かせながら言うあかりを見て、
これは語らせたらいけないパターンだと皆悟った。

「まだ残るって事はかなり遅くなりませんか?」
「うん、でも同じ寮の人もいるし、
一緒に帰れば大丈夫。
最悪、本部に泊まれば……!」

後者が本音である。
因みにエンジニア達職員は強制的にあかりを残業させているわけではない。
彼女が自ら残って仕事をしようとしているだけである。
緊急時以外は定時で上がってほしいので、
いかに素直に帰らせるかが毎回エンジニア達の任務であった。
皆女子高生には優しいのである。

「お前、エンジニアの仕事もいいけど、
たまにはランク戦やれよ。
折角いいもん持ってるのに」
「弾バカ口説いてんのか!?」
「ふざけんなよ!
ただでさえ少ない射手人口を減らすわけにはいかねぇだろ!?」
「お前ら、いい加減にしろ」

ぐだぐだいつまでも続きそうだったので、
三輪が止める。
米屋達のいつものペースに巻き込まれたのか。
機嫌も少しずつ戻りつつあった。

「こいつらは連れて帰る。
邪魔して悪かったな」

三輪の言葉に俺ら子供扱いじゃんと声が上がるが完全に無視である。
いつも通りの彼等を見て、あかりはほっと一息つく。
今日もいつも通りの彼等である。


20151020


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