分岐点
レプリカA
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迅が持つサイドエフェクトは未来視。
遊真の生い立ちを明かした次の日にあかりを連れてきたのは、
そういう事なのではないかとレプリカは考えた。
レプリカはトリオン兵であるため、
人間と違って表情から意図を察するのは難しい。
しかし、雰囲気から察することができたのか、
先程の和気あいあいとした雰囲気から一変し、真面目な面持ちになった。
「話しておきたい事?」
「ああ。
ユーマが置かれている現状だ」
「あかりならいずれ解かると思うが――…」
そんな前置きの元話し始めた。
遊真が向こうの世界で負傷し、
彼の生命を救うため、父親が黒トリガーになった事。
死にゆく遊真の肉体をトリガーの内部に封印し、
それに代わる新しい身体をトリオン体で作り命をつなぎとめた事。
今遊真の身体はトリオン体であり、ゆっくりと死に向かっている事。
包み隠さず話した。
「レプリカが私のとこに来たのって……」
「あかりには話しておいた方が良い。私がそう判断した」
確かにあかりのサイドエフェクトならいずれ解かるかもしれない事だった。
そしてもしかしたら辿りつける可能性があるかもしれない……トリオン兵らしからぬ考えだろうか。
いや、レプリカは思う。
自分は遊真のお目付け役だからこその判断なのだと。
「そっか、迅さんが言っていた逢って欲しい人ってレプリカだったんだ」
あかりは呟いたのをレプリカは聞き逃さなかった。
レプリカがここまで話してくれた理由は考えずとも分かった。
だから感情に流される事なく、あかりは答えた。
「レプリカごめん。
私は空閑くんを助ける事はできない」
申し訳なさそうにするわけでもなく、
先程のようにトリガー技術を嬉々として語るような興味だけで話すわけでもなく、
ただ事実だけを告げる。
それは冷たいだろうか。
だけど相手が真剣だからこそ誠実に向き合わなくてはいけないと思った。
あかりにとっての誠実な態度とはそういうもので、
その顔は物凄く真っ直ぐだった。
「空閑くんとレプリカには助けてもらったし、なんとかしたいと思う。
私のサイドエフェクトはトリオン情報の解析をするのに都合がいいけど、
優れているわけではないの」
例えばコンピューター世界は二進数が基本となっている。
全ては0と1の組み合わせ。
その手の知識がない人間から見れば意味が分からないものだ。
あかりのサイドエフェクトも同じだ。
トリオン量だけなら数値と輝きで分かる。
だが、それ以上になると知識がないと解からないのだ。
目に視える記号と数値の羅列は正しくあかりに情報を伝えてくれているのだろう。
それでもあかりが知識を持っていなければ読み取る事はできない。
だからあかりはエンジニアに所属して、
トリガー技術の勉強をした。
今まで自分が視ていたものへの謎解き、
未知な技術への好奇心が一致して苦にはならなかったのが幸いし、
物凄いスピードで吸収していったが、
それはあくまでも現在ボーダーが持っているノウハウのみである。
それ以上になるとあかりが研究していき、独自に形成しなくてはならない領域になる。
すぐに辿りつけるかもしれないし、
一生涯懸けても辿りつけないかもしれない。
寧ろ後者の可能性が大だ。
そんな状態なのに、遊真の生命を助けるなんて言えないとあかりは正直に話した。
「すまない。無茶なお願いをした」
「そんな事ない。
もっと上手く使えるようになったら少しは変わるかもしれないし…
約束はできないけど諦めないよ。
やれる事はやるから」
レプリカは思う。
遊真にとってこちら側に来たのは無駄足ではなかったと――。
生きる目的をくれた修と千佳。
遊真がちゃんと生きている事を証明してくれるあかり。
それらの出逢いを巡り合わせてくれた迅。
遊真のお目付け役でトリオン兵であるレプリカには、
やれる事は限られてくる。
プログラム通りに動く事を強制されている。
決められた思考回路でしか物事を考えられない。
だから人間である相手になんと言えばいいのか……検索に引っかかる言葉は一つだけだった。
「ありがとう」
レプリカは思う。
遊真には自分だけでなく他の人との繋がりが必要で、
それは生きる上で最も大事なものだと。
レプリカは言う。
「ユーマをよろしく頼む」
遊真のために、
こちら側でやる事が、やれる事が増えた。
20151018
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