分岐点
空閑遊真B

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それは昼下がりのいいお天気の日だった。
遊真は玉狛支部に向かうべく、レプリカと話しながら歩いていた。

「オサムの時もそうだったけど、
レプリカが自分から行くのって珍しいよな」
「オサムもチカもあかりも、ユーマにとってはなくてはならない存在だと判断した」
「レプリカが俺に隠し事をするのも珍しいな」
「……そうだな。あかりのサイドエフェクトに興味があった」
「レプリカも大概お節介だよな」
「私はユーマのお目付け役だからな」





それは昼下がりのいいお天気の日だった。
あかりはチビレプリカと一緒に歩いていた。
――といっても、チビレプリカはあかりがつけているヘアピンに同化している。
割と自由に変形できるレプリカの機能を活かしてみた。
堂々と連れ歩けるのでとても便利である。
ここ最近はいつも一緒に行動しているので、
一部ではあるがボーダー内やその人間を大分把握した。
あかりは暇な時間を作りたがらず、
大体本部にいる。
自分の家には寝に帰るだけというスタンスだった。
どことなくその理由を察したレプリカはトリオン兵として優秀なのか、
機能を超えているのかは判らない。

「近くにユーマがいるようだな」
「そうなの?」
「ああ、そこの交差点付近にいる」

チビレプリカは子機という位置付けだ。
親機もとい本体がいれば、そりゃ分かるはずだと納得し、
折角だから挨拶をしようと思ったところだった。

「きゃああぁぁ!!」

交差点から悲鳴と車のブレーキ音が聞こえた。
「まずいな」とレプリカが呟いたからまさか……とあかりは思った。
慌てて駆け込めば、
そこは交通事故現場と化していた。
少年が車に轢かれたと野次馬達が言う。
被害者は……配置から見るに遊真だった。

「君、大丈夫か!?」
「空閑くん!?」

駆けつけてきた運転手とあかり。

「あぁ、あかりか」

ひょいと立ち上がり、なんともないことをアピールする。

「おれは大丈夫です。
ご迷惑お掛けしました」

ぺこりとお辞儀するが相手は呆然としている。
確かに損傷している箇所は見当たらない。
目の前の光景が信じられないのだろう。
あかりは眼鏡を外し遊真をじっと視る。
右半身のトリオンが少なく、
トリオンの流れがそこに集まっていくのが解る。
騒ぎが大きくなる前にこの場から離れるしかない。
あかりは顔を顰め、遊真の左手を引っ張った。

「あかり、今日は叫ばなかったな」
「そんな毎回叫ばないよ?
ある程度は自分の意思で調整できるし……」

現場から離れたところで遊真は呑気にあかりに話し掛けた。
たまに予期しない情報と発光具合で声が出てしまう事があるだけだとあかりは言った。
今は千佳のおかげで大体のものは大丈夫だと言い放った。
便利なのかそうでないのか分からないサイドエフェクトだなと遊真が言えば、
そうだねとあかりは答えた。
遊真を視る。
右半身に流れていたトリオンが止まったのを確認する。

「もう、大丈夫そう?」
「やっぱりあかりは気づいてたのか。
ほら、元通り」

遊真は袖を捲り右腕を見せた。
ふぅと一息つくと、あかりは眼鏡を掛ける。
なんともなくて良かったと思いながら、
少しでも疲労を緩和するために、反射的に目をしゅぱしゅぱさせている。

「それでどうしてこんな事に?」
「赤信号は止まれというのを忘れていた」
「気をつけないと危ないよ」
「おれは大丈夫だぞ。
この身体はトリオン体だし、あかりが視ていた通り修復するから」
「ダメだよ。いくらすぐに回復するからって怪我する事にかわりはないんだから」

あかりの言葉に遊真はきょとんとする。

「あかりはなかなか妙な事言うな」
「そんな事ないよ。個人差はあるけど怪我が治るのって時間掛かるんだから!」
「ユーマ、あかりの言う通りもう少し気をつけた方が良い」
「うん、次は気をつける」

先程の事故現場が大分トラウマものだったのか、
あかりは遊真を玉狛に送る事にした。
信号に関係なく歩き進もうとする遊真を見て、
これは赤が止まれだと忘れていたとかそんなレベルではなかった事を知ると、
あかりは遊真の手を繋ぐ事にした。
信号が赤でも渡ろうとする遊真の手を引っ張って止める。
子犬のリードを引っ張っている飼い主や
幼い子供と手を繋ぐ姉の気持ちがよく分かる。

不安をこの手に、
玉狛支部に無事、遊真を送り届けたあかりは出迎えてくれた迅と宇佐美に手厚い歓迎を受けた。


20151028


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