分岐点
佐鳥賢
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「クリスマス?開発室だよ」
真面目な顔してそう答えたあかりに佐鳥は驚きを隠せなかった。
「去年は開発室で皆でクリスマスケーキ食べたの。
楽しかったな〜」
「開発室で…クリスマスケーキ……」
何それ、楽しいの?
佐鳥の表情は素直にそう出ていた。
クリスマスは家族、恋人、友達と…大事な人と過ごす人間が多いだろう。
仕事で出勤しているとはいえエンジニア達も一緒で、
定時に帰りたがる者が多い。
別に強制的に残業をさせているわけではないので帰宅してもいいのだが、
去年のその日はちょっと立て込んでいた。
遠征艇の調整、門誘導装置のメンテナンス。
年末年始を安全に過ごすために必要な作業だという事は皆認識していた。
だから本気で言ったわけではなかった。
「家族とクリスマスを過ごしたい」
それはできるだけ早く帰りたいという願望だった。
メンテナンスを怠るとクリスマスどころか大晦日、正月を家族と過ごせなくなる可能性があるわけで…重ねて言う。
決して本気で言ったわけではなかったのだ。
「後は私がやるので、定時上がり大丈夫ですよ。
私でもやれる範囲なので…私暇だし、家族団欒大事ですよね」
あかりは何も考えず善意で言った言葉だったが、
これに大人達の方が傷ついた。
あかりの母親は近界民に攫われていて、一人で寮生活をしている。
その人間が暇だとか家族団欒とか重すぎる。
そういえばあかりは何かと理由をつけて定時に上がろうとしない傾向があった。
今までその理由に考え至らなかった己を責めたいくらいだ。
この時まだ中学生だったあかりは友好関係があまり褒められたものではなかった。
学区で通う学校が決められている小学校、中学校はあかりの奇怪を知る人間が多い。
そのため、なかなか友達ができない状態だったので、
友達と遊ぶという発想もあまりない。
唯一仲がいいと呼べる子はボーダーにも所属しており、
任務だったり、既に家族と過ごすことになっていたりとまちまちである。
あかりの何も気にしていませんという普通の顔が更に拍車を掛ける。
それを察した大人たちが休憩時間をとって皆で騒いだり、
鬼怒田がクリスマスケーキを買ってきてそれを食べたり…とプチクリスマス会が行われた。
皆と騒ぐそれは、あかりは凄く楽しかった。
だから今年も開発室で皆でクリスマスをするんだと思っていたが、
どうやら時枝と佐鳥によって阻まれるらしい。
「今年は広報の仕事……」
「当日はないよ」
「家族は……」
「夜過ごすから大丈夫だよ」
最初は渋っていたあかりも時枝と佐鳥のお誘いを無下にする事はできなかった。
何せ二人は小学校からの付き合いで、気心知れた仲だし、
エンジニアの方で残業命令は出ていないし、で断る要素がなかったと言ってもいい。
あかりは分かったと了承した。
それに時枝は顔に出さなかったが、佐鳥はおもむろにほっとした顔をした。
「やったー!やっぱ俺達もたまには遊ばないと!!」
「賢はいつも遊んでいるでしょ」
「え、とっきー一緒に仕事してるよね?
え、何、酷くね!?」
「さとけんはいつも楽しくて安心する」
「それが賢のいいところだよね」
「…俺、褒められてる?貶されてる?」
「「褒めてるよ」」
「とっきー!あかり!!」
佐鳥は感激したのか、先程よりも倍の笑顔ではしゃぎ始めた。
それがなくても友達とイベントを過ごすのは楽しい。
特に佐鳥は皆でわいわいするのが好きなので寧ろ大歓迎だった。
「クラスの奴等呼ぶ?それとも太一達呼ぶ!?」
「賢、ちょっと落ち着こうね」
佐鳥を宥める時枝を見て、
あかりは久しぶり友達と遊ぶ事に胸を躍らせた。
たまにはこういうのもいいよね。
20151112
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