分岐点
太刀川隊

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大晦日。
一年の締めくくり。
世間一般ではお休みの日だ。
勿論例外は存在する。
例えばサービス業…。
お店が休みではないのは定員が頑張ってくれているからだ。
例えばボーダー…。
民間企業であり、一応大晦日だという事を考慮してシフトは組まれている。
基本的に大人たちは仕事だが、
あかりはシフトに入れてもらえなかった。
一応エンジニア業務も週休二日態勢でシフトが組まれているので休みの日があるのはしょうがない。
それならば防衛任務…基、回収班の方にシフトを――とも思ったが、
残念ながらそちらの方にも入っていなかった。
回収班の仕事で何か緊急案件があれば呼ばれるだろうが、
今のところそんな予定はないらしい。
「今日はゆっくり楽しむといいよ」という迅のお墨付きだ。
こうなったら久しぶりにランク戦でも…と思い珍しくブースにいたが、
時間が時間だ。
皆家に帰って年越し準備でもしているのだろう。
暇だしそろそろ誰にもいない家に帰るかなと思っていた時だった。

「なんだ、エンジニアんとこの星海じゃないか。
こんなとこで何をしてんだ?」

あかりの目の前にこたつとビニール袋を持った太刀川がいた。
大荷物にも程がある。
そんな姿を見て、声を掛けないわけにはいられなかった。




「お前ら―持ってきたぞ」
「太刀川さーん、おっそーい!!」

太刀川隊隊室。
入って早々声を上げたのは国近だった…が、
テレビの前で出水とテレビゲームをしていた。
唯我は後ろからその観戦である。

「お土産持ってきたぞー」
「太刀川さん気が利くね〜」

太刀川のその言葉に反応して太刀川を見るが、
お土産と言って差し出されたのはビニール袋を持ったあかりだった。

「は?なんであかり?」
「暇そうにしてきたから拾ってきた」
「拾って来たってそんな犬や猫みたいに…」
「星海ちゃん、どうしたの?」
「太刀川さんがたくさん持っていたのでお手伝いを…」
「そしてそのお駄賃に太刀川隊の年越しに参加」
「おおー女の子増えるのいいねー太刀川さんナイスー」
「お、俺隊長っぽい?」
「いや、全然隊長っぽさに関係ないッスよ」
「そうですよ、寧ろどうして太刀川隊でもない人間が!
しかもB級の!補欠要員である人間がA級一位の僕達と一緒に年越しなど…!」

唯我が叫ぶ。
彼はプライドが高いので割と平気でこういう事を言ってのける。
勿論相手を見て、だが…。
最早、いつもの挨拶みたいな感じなのであかりも放っておくことにしている。
自分の事をとやかく言われる分には全然気にしない…というよりは、
唯我の言っている事もあながち間違っていないとあかりは思っている。
迷惑そうなら帰ろうかなー…とあかりが太刀川を見るが隊長様は特に気にしていないようである。
いそいそとこたつの準備を始めている。

「っていうか唯我、お前庶民の年越しなんて興味ないとか言ってなかったか?」
「ぐ…!そ、それは国近先輩に言われて仕方なく…!」
「えーあたしそんなこと言ったかなー?」
「な、酷い!」
「んー唯我も参加か…年越しそば(カップ麺)四つしかないな」

太刀川の頭の中では自分、出水、国近、あかりの四人という計算である。
別に名前を出したわけではないが太刀川が脳内で誰をカウントしているか皆気づいたらしい。
誰よりも早くそれに反応し、反論したのは唯我だった。

「太刀川さん酷い、酷すぎる!」
「だって、お前高いもんじゃないと嫌なんだろう?
流石に高級そばを用意できないって…いや、高級そばなんてあるのか?」
「太刀川さん何でそこでマジボケ?」
「…私、やっぱり帰ろうかな――…」
「遠慮するなって。
一人より皆でわいわいする方が楽しいだろ?
今日の太刀川隊の集まりはそういう集まりだからな」

気にするなとストレートに言う太刀川。
あかりが寮生活なのは皆知っている。
だからこその言い分だ。
あかりはちらっと唯我を見る。
唯我は悪い人間でもないし、悪気があってあかりに突っかかっているわけではない。
ただ純粋に太刀川隊の面々が好きで、交流したいと思っているのは事実だ。
ならばそれに自分がいるのは邪魔なのかもしれない。
そう結論付けたあかりは断る事にした。
それにいつもなら独りで寂しいのも事実だが、最近はチビレプリカが一緒だ。
今のあかりは一人じゃないのだ。

「私、今年は一人じゃないから大丈夫です」
「え」
「えぇぇえぇぇ――!?」

唯我の絶叫に思わず耳を塞ぐ。
何故、こんなに驚かれているのか不思議でしょうがない。

「お、もしかして星海ちゃん彼氏できた?
国近お姉さんに話してみよっか〜」
「な…!本当なのかあかり!?」
「ぼ、僕より先にできるとは…補欠隊員のくせに…!!」
「お前ら楽しそうにしているのはいいけど、少しは手伝わない?」

以前、玉狛の黒トリガー奪取という極秘任務が行われた際に、
彼等が遊真の存在を知ったと知らないあかりは、
太刀川の呟きをよそに、チビレプリカの事は伏せてどう話そうか考えていた。


20151210


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