分岐点
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※トリオン体特殊設定あります。


爆撃型イルガーがボーダー基地本部を襲う。
それを太刀川が撃退したところで、
あかりはこそっと本部に入った。

「こちら星海。今戻りました」
『星海か。丁度いいところに戻ってきたわい』
「?」
『諏訪が新型に捕まった。
今、風間隊が救出しているところだ。
何かあった時の為に研究室に待機してくれ』
「了解です」

その後に鬼怒田から壁の修復も頼まれてあかりは了承し、仕事に入った。
本部が直接襲撃された事もあり、
一般職員のほとんどはシェルターに避難している。
勿論全員が避難すると戦闘員のサポートが出来なくなるので、
数人は残っている。
開発室にいるエンジニアもいつもに比べて凄く少なかった。
確かにそんな状態なら戦闘トリガーを使える自分がここにいる事は、
力になれるはずだ。
しかし迅の話からそれだけじゃないと言っていたのを思い出す。
「あかりの力を借りた方が未来が少しいい方に変わりそう」という事は、
これから何かが起こるという事だ。
自分の力…
単純に戦闘トリガーが使えるという事ではないはずだ。
だとすれば考えられるのはサイドエフェクトだ。


その答えは割とすぐにやってきた。



「諏訪さんをお願いします!!」

研究室に駆け込んできたのは諏訪隊の堤と笹森だった。
「諏訪さんをお願いします」と言って差し出されたのはトリオンキューブである。
これが本体で眼鏡を掛けている状態のあかりなら、
どういう事なのか頭一杯に疑問符が飛んでいた事だろう。
しかしトリオン体であるあかりは、
肌で感じるようにトリオン情報を読む事ができる。
それから見るにただのトリオンキューブじゃない事は理解できた。

「何か生きてる感じがする…」

あかり用に設定されている視覚支援のおかげで、
眩しさを感じる事も情報の読み取りに追い付かなくなって酔う事もない。
いつもなら眩しさで生物かどうか判断するが、
読み取った情報からそれが生物だと知る。
どこかで見た事のある情報にあかりはどこで見たかと思い出そうとしていた。

「ああ、これ諏訪だよ諏訪」
「諏訪さん?」

エンジニアチーフの寺島に言われ、
何故トリオンキューブになっているのかという新たな疑問が出てくる。
そういえば現状を伝えていなかったと、
寺島は外で防衛戦を繰り広げている彼らの状況を伝える。
新型トリオン兵の出現と、
それがトリガー使い捕縛専用である事。
そして捕まった諏訪を救出してみれば中にあったのはキューブだった事を。
恐らく圧縮されているのではないかという事で急いで解析する事になった。
間違いなくこれから諏訪のような状態になるトリガー使いが増えてくるだろう。
その時の為に解析し、そして解凍する必要がある…
所謂、緊急案件であった。
時間を少しでも短縮したい今、
トリオン情報を読み取る事に長けているあかりのサイドエフェクトを使用する方が、
最も効率がいいと判断される。

「星海が言うなら諏訪はまだ生きている。
悪いけど今は一刻も争う。
星海、解析いけるか?」
「はい、大丈夫です!」

エンジニアの会話を聞いて諏訪隊メンバーは少し落ち着いたらしい。

「星海さん、諏訪さんをお願いします」
「分かった笹森くん。できるだけ最善を尽くすよ」
「星海も解析の方に回るから戦闘はできない。
その間、この部屋の護衛お願いするよ」
「諏訪隊、了解です」

諏訪隊が研究室を出て、
そこで待機してもらう事になった。

あかりのトリオン体の特殊さは、
サイドエフェクト対策としての視覚支援、感覚の制御の他にもう一つあった。
あかりのサイドエフェクトの性質上、どうしても本人の意思とは無関係にトリオン情報を読み取ってしまう。
その莫大な量は処理が出来ず、
本人の身体の負担にしかならないため、
処理できない情報を流すためのものだ。
そして回収班の仕事の一部である現場での解析を行う際に使用するトリオンの接続コードでもある。
この接続コードは特定のトリオンに接続してトリオン補給や供給をしたり、
今みたいにトリオンで動く装置に接続して情報の共有を図ったりするのに使用する。
これもトリオン体生成コストを上げる一つの理由だ。
あかりは自身の隊服のベルトに装備しているコードを、
研究室にある装置のコードに繋げる。
そこから自分が得た情報を装置の方に送り込む。
本来なら解析に入る前にプロテクトを破らないといけないのだろうが、
レプリカに教わった近界技術が役立ったらしい。
あかりの知識でそこを看破し、読み取れるようになっているため、
皆で手分けして解析を行う事が出来た。

地響きがする。
本部内にアナウンスが流れた。
どうやら近界民が本部基地に侵入したらしい。

『エンジニアは全員護身用トリガーを起動して退避せい!
研究室は破棄してかまわん!
いいか絶対に死ぬなよ!!』

鬼怒田の声が聞こえる。
被害を最小限にするために寺島が他のエンジニアを先に避難させる。

「どれくらいでいける?」
「あともう少しです…!」
「あ、」

その時キューブが光り、諏訪が現れた…いや、
元の姿に戻った。

「いけました」
「本当に諏訪さんだ」
「おめでとう諏訪、一番乗りだよ」
「は、雷蔵なにがだよ」
「はい皆、撤退してー」
「おい、無視すんなよっ!」

また地響きがする。
外から弾が発射する音が聞こえる。
近界民はこの部屋の近くまで侵入しているようだ。

「いや、ここまで来てるなら諏訪が敵を引きつけてその隙に避難だな」
「だから何の話だよ」
「ああ、近界民がこの区画に侵入して来たんだよ」
「は!?いつのまにそんな事になっているんだよ!!」

諏訪の声に外で待機していた堤と笹森が部屋に入り込んで来た。

「諏訪さん!!」
「元に戻ったんですね」
「皆さんありがとうございます!!」
「もう何が何だか…」
「まずはエンジニアが避難しやすいようにここを離れましょう」
「あぁ?道中ちゃんと説明しろよ」
「堤、諏訪を頼むよ」
「了解です」
「おい、コラ」

言い合いをしながら駆けて行く彼等を見送る。
その後諏訪隊が上手く動いてくれたおかげで、
近界民を誘い出す事に成功したようだ。
レーダーで敵の位置を確認し、彼等は避難し始めた。

「寺島さん、私、他の区画で避難が遅れていない人がいないか確認してきます」
「星海、解析に酷使しているだろ。
シェルターに避難するのが」
「私、現役なので大丈夫ですよ」
「…お前言うようになったよな」
「はい、あと迅さんが――」

任せると言ったのだ。
それは自分で判断して、自分で選びとれという事だ。
何もしないで後悔はしたくない。
あかりはあの時、思ったのだ。

今、自分に出来る事を――。


20160709


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