分岐点
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※トリガー設定捏造してます。


近界民による大規模侵攻戦は終了した。
各地で侵攻による傷痕は残っており、
A級または指揮官クラスの人間がその確認を行っていた。


基地東部。

「こちら太刀川。近界民は片づけた。
だけどC級の数が合わない。
俺が着くまでに結構攫われたっぽいな」

太刀川の報告を聞いて、
本部は一つの難が取り除かれたのを知り、安堵した。
しかし、その後に続く報告により、それは崩れ去った。
ここでもやはり何人かC級隊員が連れて行かれたようだった。

「現場に残っていたB級から聞いたが、
どうやらここにも人型がいたらしい。
それに応戦中、星海が人型と一緒に消えたそうだ」

残っていたB級隊員の話はこうだ。

民間人、C級隊員が離れる時間稼ぎのために、人型近界民と交戦。
最初にいたB級隊員の数に比べると大分ベイルアウトしたが、
その分、敵近界民にもダメージを与えていたらしい。
そこへあかりが参戦した。
あかりが近界民を見て顔色を変えたらしい。
彼女のサイドエフェクトで何か情報を読み取ったのだろう。
珍しくあかりが自ら攻めに行った。
相手の攻撃を相殺し、近づいたのに合わせて攻撃手が援護をしたが、
逆に返り討ちにあい、それを合図に銃手、狙撃手が近界民を攻撃。
すると急に近界民の動きが止まり、あかりが近界民と距離を縮め、
次の瞬間、あかりと近界民の姿がなくなった。

太刀川はありのままを伝えた。

ベイルアウトの光も見ていないという事から倒されてはいないはずだ。
それだけを聞くと連れて行かれた線が濃厚だ。
安否を確認するために鬼怒田はエンジニア、オペレーター達に指示を出し痕跡を辿る。

「室長、本部にはいないのでベイルアウトはしていません」
「やられたか…迅!」

無線を迅に繋げた。

「お前の予知だと今回はC級隊員だけが攫われたのではないのか!」
『その通りだよ。鬼怒田さん。
もう未来は確定している』

迅はいつもと変わらぬ声で答える。
それが更に鬼怒田を煽らせた。
あかりは防衛隊員とはいえメインはエンジニアだ。
自分の部下とも言える人間が姿を消したのだ。
ただでさえ職員が数名被害を受けている状況で、
冷静でいられるはずがなかった。

『大丈夫。あかりちゃんはこちら側にいる。ただ――』
「勿体ぶらんでさっさと言わんか!」
『どこにいるのかは分からないんだよね』
「それはどういう意味だ迅」

忍田が聞く。
それよりも早く気付いたのは勿論トリガー開発に携わっている鬼怒田だった。

「そういうことか。
エンジニアに通達しろ。
星海あかりのトリガー履歴と、トリオン体を追えとな。
あと冬島も呼んで来い。
人命救助は時間との勝負だ。
トリガーについて心得ている人間が多いにこしたことはない」

トリガー技術が外に漏れない様に、
管理は厳重にしてある。
トリガー反応から位置の割り出しもできるし、
使用履歴だって見る事ができる。
最後に使った場所、そして使用したトリガーの確認はする事が出来るのだ。

『あー鬼怒田さん?こちら冬島』
「分かったか」
『ビンゴ。鬼怒田さんの言う通り星海のトリガーにテレポータ装備してた。
履歴を辿っても、最後に使用したのはそれっぽい』

どうも冬島の歯切れが悪い。
その続きは皆予想できていた。

『それからトリオン体検知できない。
トリオン体を解いたか、意図的に消しているか、
あるいは検知できない状態って事だ』








あの時あかりは光に包まれた。
完全にあれは自爆だった。
相手のトリオンに接続してその爆発に使うエネルギーをテレポートするためのエネルギーに変換した。
テレポータは視線の先の数十メートルを移動するトリガーだ。
その距離は消費するトリオン量で決まる。
今回は爆発のエネルギーをそのまま使用したので数十メートルの話ではないが…
咄嗟の出来事だった。
上手くできなかったらそこで人生が終了するところだ。
そして仮に相手が自爆するという暴挙に出ている状態で、
安全かどうかと言われたらそんなの…運次第。
ただ、今回はチビレプリカのサポートもあり、その運が少しアップした。

『あかり……』

爆発する瞬間、あかりは誰かの声を聞いた。

あれからどれだけ時間が経ったのだろうか。
物凄く長い時間ここにいる気があかりはしていた。
暗闇の中に自分と、目の前にいる母親。
お互いトリオン体だからか、
この暗闇に自分たちの身体は光っているように見えた。
エネルギー変換が上手くいって爆発しなかったのか。
爆発したからそのダメージでお互いトリオン体の換装が解けてしまうのか…
それさえ解らない程にあかりはダメージを負っていた。

「お母さん…」

一年間いろんなことがあった。
防衛隊員としての活動は厳しいかもしれないと知ってからも、
それを諦めずあかりはエンジニアと回収班の仕事をしながら、
自分の技を磨いていった。
戦うためにトリオンをどう使うのか、
自分のサイドエフェクトを使って何度も実験した。
サイドエフェクトの付き合い方は同じサイドエフェクトを持つ迅や菊地原、天羽に聞いた。
C級からB級に昇格して、初めて実戦でトリオン兵を倒した。
その時緊張していた事もあり、
防衛任務のメンバーであった出水も攻撃してしまって、米屋に笑われた事があった。
高校生になっても腐れ縁で、烏丸たちと同じクラスでお昼を一緒にとったり、
宇佐美とのトリガー談義。
那須と仲良くなり…他にも友達が少しずつできた。
イレギュラーな門が開き始めてからは激動の日々で、
訓練生なのに自分の信念を貫き通して民間人を助けた男の子がいて、
近界民の男の子が来て、
神様レベルのトリオンを持つ女の子がいて、それから――…

あかりの顔に母親の手が伸びてくる。
目の前には異質な光を放つ母親の姿がある。


――ダメだ、声が聞こえない。

暗闇の中に光が灯る。


――ちょっと待ってほしい。

あかりの声は届かない。


――力が足りないならもっと強くなる。
大丈夫、私はまだ育ち盛りだから…だから一緒にいてほしい。

あかりの想いは伝わらない。


――逝かないで…。

光に包まれて、あかりはその空間から吐き出された。





「ぁ…誰か……」

最後にそう呟いた。
この声は誰にも届かない。

あかりの意識はここでなくなる。




はずだった。




「誰かいるのか?」

返ってきた言葉にあかりは無意識に手を伸ばした。


20160709


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