番外編
サンタクロースは侵入するのが上手い
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「星海先輩すみません。
空閑、まだ帰ってきてないんです」
「そっか……折角皆でクリスマスしようって話だったのに残念だね」
しゅんと項垂れるあかりの姿を見て、千佳が慌てて口を開く。
「でも、遊真くん。必ず帰ってくるって言ってました。
だから大丈夫だと思います」
千佳の言葉にあかりは頷いた。
遊真が「少し旅に出る」と言って玉狛から姿を消したのは、
皆でクリスマスをしようと決めてからだ。
丁度十日ぐらい前になる。
学校はどうするんだという修の言葉にどや顔でサボルと伝えて逃亡したらしい。
その時の修の慌てっぷりは忘れられない。
それまでには帰ってくると修の心配とは全く違う返答が返ってきて、
傍にいた千佳も苦笑していたのは、最早いい思い出である。
迅が「俺は応援しているぞ」と後押しした意味は修と千佳には分からなかったが。
そんな感じのやり取りが玉狛であったらしい。
迅がそう言うなら今もきっと安全に過ごしているのだろう。
遊真がいないのにクリスマスをお祝いするのはどうかと思ったので、
後日、皆がそろったらやろうという事になった。
部屋の中で一人。机に向かって何かするのはいつもの癖だった。
誰もいない自室で眼鏡をとって、
今日は新型トリガー開発のコンペ作成に時間を費やしていた。
いつもならやりたい事とかアイディアがたくさん浮かぶのに、
珍しく何も思い浮かばない…こんなに不調な時もあるのだなと思っていると、
窓からコンコンと音が聞こえた。
ここは三階だし、何かの聞き間違いかと思ったあかりはそのまま机に向かうと、
音は遠慮なくドンドンと鳴りだした。
流石にこれは気のせいではないとあかりが窓の方を見ればそこには黒く発光する数列があった。
あかりは眼鏡を外すと視野に入ったトリオン情報を数列と発光具合で読み取ることができるサイドエフェクトを持っている。
沢山の人のトリオン情報を見てきたあかりだが、
その中でも黒色のトリオンを持つ人間は限られている。
相手が誰なのか分かったあかりは慌てて眼鏡を掛けて窓を開けた。
「空閑くん!どうして窓から…!」
「うむ、日本のサンタクロースは大変だな。
煙突がないから窓から侵入するしかなかった」
「サンタ??」
「違うのか?イヴの夜に煙突から侵入して眠っている子供の横にプレゼントを置くって奴」
修達からクリスマスの話と、サンタクロースの逸話を聞いた時遊真は驚いたものだ。
人の家に侵入するなんて危ない奴だと思ったし、
それを許すのも不用心ではないかとさえ思った。
どうして皆サンタクロースの侵入を許すのかと話を聞けば、
いい子にしている人の元にご褒美としてプレゼントを置いていくらしい。
自分は見返りを要求しない一方的な善意…優しくていい人だという印象付けて人々の心に入り込んでいくサンタクロースという存在に、
奴は中々手強いと感心したものだ。
遊真がサンタクロースの認識が少しずれているとは知るはずもなく、
あかりはいつまでも遊真を三階の…どこに捕まっているのか分からないが、
外に出しておくわけにはいかないと部屋に入れる事にした。
「とにかく危ないから入って!!」
「お邪魔します」
律儀にぺこりと頭を下げてから部屋に入る遊真。ボーダーのトリガーを起動していたようで換装を解き、普段の身体に戻る。
遊真を中にいれたあかりは窓を閉める時に壁に切れ目が入っているのを見つけ、
そういえば遊真のメイントリガーはスコーピオンだったかと思い出し、何も見なかった事にした。
「案外簡単に入れたな。日本のサンタクロース恐るべし」
「空閑くん、サンタクロースの認識ちょっと違う気がする」
「そうなのか?」
「うん、それよりクリスマス会は空閑くん帰ってきてから後日やろうって事になったから、安心してね」
「む?クリスマスは終わったのか?それは悪い事をした。
クリスマスまでには戻ってくる予定だったんだが……
やっぱりレプリカがいないと計算があわないな」
「?」
何の事かと首を傾げるあかりを気に留める事なく、
遊真はの目の前に品を置いていく。
所謂クリスマスプレゼントというやつだった。
「これはキオンで、これはリーベリーので、
これはエルガテス。で、これは――…」
「空閑くん、これは一体…」
「クリスマスプレゼント。
あかり、遠征行けないから向こうのものがいいと思って持ってきた」
「旅に出るって近界に行ってたの?」
「ああ、もしかして気に入らなかったか?」
「ううん。ありがとう!
…でもこんなに沢山貰えないよ」
「オサムとチカがこういうのは気持ちが大事だって言ってた」
「そうだけど…じゃあ今年は一つだけちょうだい。で、来年になったらもう一つ貰う。
それじゃダメ?」
「他にもまだあるぞ」
「その次の年に貰うよ」
「ふむ、クリスマスは毎年あかりに逢いに行かなくちゃならんな」
「うん、来年も再来年も…毎年クリスマスしよう!」
「…ああ」
「でも良かったー!空閑くん連絡ないし、帰ってこないから心配したんだよ?」
「心配してくれたのか?」
「当たり前だよ!凄く淋しかった…三雲くんたちも皆、心配してたよ」
「そうか」
今だけを考えて生きている遊真はいついなくなってもいいように、思い残しがないようにその時を思った通りに生きている。
だけどあかりの言葉を聞いていると、その先の未来まで想像してしまう。
彼女の未来には自分がいる。それがたまらなく嬉しい。
生身の身体ではないはずなのになんだか胸が温かくなるから不思議だ。
自分よりも身長があるあかりを見上げて、遊真はニヤリと笑った。
「私もクリスマスプレゼントが…!」と言っているあかりを無視し、遠慮なく彼女の眼鏡を奪い取る。
油断していたあかりは目に飛び込んてくるトリオン情報に制限をかけられず、
目を抑えながら叫び、しゃがみ込む。
不意打ちに弱いのはいつもの事だった。
自分の身長より下になったあかりの空いている頬に、
遊真は遠慮なく唇を落とした。
「うひゃあぁぁぁ!?」
びっくりして反射的に遊真の顔を見るあかり。
光るトリオンに視覚がやられたのと、
キスされた事への驚きと…二重の意味であかりは叫んだ。
二回目のあかりの叫び声を聞いて、近隣のボーダー職員が駆けつけてくる前にそろそろ出ないとヤバイと判断したのか、
遊真が何事もなかったかのように窓から出て行った。
「またな」と言った遊真の声を聞く余裕がなかったあかりは、
明日はどんな顔をすればいいのか分からず真っ赤になって悶えていた。
「あかりは嬉しい事言ってくれるよな」
誰の心に誰が侵入したのか――…
先人のいう事、やる事は見習うべきだなと、
サンタクロースに対する認識を間違えたまま、遊真は確かな満足感を胸に夜道を歩いていった。
20151226
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