分岐点
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あかりは自身がもつサイドエフェクトのため、
エンジニアと協力しながら防衛任務を行う事が多かった。
…厳密に言えば彼女の仕事は防衛任務というよりはその他の業務の方が多い。
例えば今回のような案件だ。
「わー粉々ですね」
あかりはトリオン兵撃破後の現場に来ていた。
ボーダー隊員がトリオン兵撃退後、
トリオンの回収や、敵の戦力を測る為に回収班が現場へ行く事は多々ある。
あかりはその回収班と呼ばれる一員だ。
別にとりわけ難しい仕事ではない。
トリガーや専用装置が使える人間なら誰でもできる仕事だ。
ただ今回は珍しくあかりの直指名が入った。
それは単純に機械で測定できない何かを調査したり、
詳細な情報が欲しい時がそうだ。
あかりが持つサイドエフェクトはそれに特化した能力だった。
「オレ達が現着した時には既にこうなっていた。
実力的にA級レベル。だがオレ達よりも先に着いた人間はいない」
つまりあかりが呼ばれた理由はそういう事なのだ。
目の前の少年はあかりより一つ上だが、
A級三輪隊を率いる隊長の三輪は、火急に調べた方がいいと判断したのだ。
確かに調べるなら早い方が良い。
あかりのサイドエフェクトは残留しているトリオンからも情報を得ることができるが、
時間が経てば経つほど、
残留していたモノは発散してしまう。
そうなれば得られる情報は限りなくゼロに近い。
こういう調査に向いているとはいえ、あまり融通がきかないものである。
三輪の言葉から撃退したのは隊員ではない誰かだという事だろう。
確かに隊員なら、報告を入れるはずだ。
それがないという事なら外部か、後ろめたい事がある人間だけだ。
「取り越し苦労だとしても、
こんな風に攻撃できる隊員も限られてきますけどね」
「因みにボーダーでやれるとしたら誰がいんの?」
三輪隊の隊員である米屋が興味津々に聞いてくる。
その言葉を無視する道理もないのであかりは答えた。
「この粉砕感だと火力が充分にないとダメですね。
メテオラとかアイビスレベル…まぁ、出来るのは出水先輩ですね」
「確かに弾バカなら更地とか平気で作れるもんなー」
「あと天羽くん」
「あー」
米屋が納得したようなので早速仕事に取り掛かる。
あかりは自身が掛けている眼鏡を外し周囲を見る。
瞬時にあかりの目には光と数値に溢れた世界が飛び込んできた。
あまりの情報の多さに目が痛くなるので焦点を絞り、目に映る情報に制限を掛けて行く。
三輪隊に分かるように、今見えている情報をそのままあかりは伝えた。
「倒されたトリオン兵はバムスターですね。
ここ最近襲撃してくるもので間違いはないかと。
残ったトリオン兵の残骸から計算して、倒されたのは三十分から一時間前。
それを考えると倒すのに放たれたエネルギーは……」
探さずともそれはすぐにあかりの目に留まる。
その残っているトリオンにあかりの眉間に皺が寄った。
「察するに一撃。
火力は確かにメテオラやアイビスに並ぶ…いやそれ以上かもしれない」
あかりの言葉に二人は驚く。
「一撃でこれって事は…最早、天羽レベルなんじゃねぇ?」
「持ち主のトリオン量が多いのか、トリガーが優れているのか分からないけど、
少なくてもボーダーのトリガーじゃない」
「つまり近界民のものか」
「うーん、どこかの企業が秘密裏に開発していなければそうだと思います」
忘れないうちに採取しなくちゃと、
あかりは残骸の回収と、
視たものを忘れないように紙に書き留めて行く。
少しくらい乱雑でも読み返せるならそれでいいのだ。
そしてそれは他の人間が見ても謎の数字と記号で埋め尽くされている。
エンジニアなら分かるかもしれないが、
それは三輪と米屋の領分ではなかった。
「一応本部に戻って詳しい解析と、一致する情報がないか照合はしてみますけど、
あんまり期待しないでください」
あかりは眼鏡を掛け直す。
もう他にやることはないと安易に告げていた。
そしてあかりの言葉からこれ以上の情報は得られないという事も二人は分かった。
回収班であると同時にエンジニアに所属している彼女は、
自身のサイドエフェクトと付き合うために力を使いこなす訓練をしていた。
それがきっかけなのか元々持っている性分なのか、
目に見える情報…トリオンに興味を持ち始め、気づけば仕事と趣味が同一になっていた。
トリオンとかトリガーとか大好き人間の出来上がりである。
そのため、トリオン、トリガーに関するありとあらゆる情報は熟知している。
トリオンバカな彼女が、自分の記憶で引っかかる情報はないと言っているのだ。
つまり、ほぼないという事を意味する。
「相変わらずスゲーな、何があったのか全く分かんねーや」
その記憶力も相当凄いものだが、
米屋は何度見ても彼女の調査方法は不思議でしょうがない。
あかりはそれに苦笑しながら、
さっさと帰り支度を始める。
「私は本部に戻りますけど、三輪先輩達はどうしますか?」
「引き続き巡回に戻る」
「照合するだけなので、それまでに書類出しておきます」
「ああ、頼む」
「あかり、寄り道せずに真っ直ぐ帰れよ」
「分かってますよー」
三輪隊が再び防衛任務に戻っていく。
それを見送ってからあかりは本部へ直行した。
彼等の任務が終わるまでに仕事は済ませると言ったのだ。
彼女の中で有言実行は絶対なのである。
ボーダーとは、
異世界から現れた近界民から人々を守る防衛機関である。
その中でのあかりの仕事は、戦闘員のサポートが中心だ。
今日もあかりはトリオン兵の解析とトリガー技術に貢献すべく、
開発室に足を運ぶのであった。
20151008
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