番外編
試されるもの

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ヒュ〜ドロドロ〜…

聞こえてくるSEから察してほしい。
あかりは香取、鳥丸、佐鳥、染井、照屋、時枝、別役でお化け屋敷に来ていた。
どうしてこのメンバーになったのか…それは別役の一言が発端だ。
強制的に佐鳥とあかりが仲間になり、
そこからあかりが香取を頼った。
誰の目から見ても不安しかない面々に保護者役として、烏丸、時枝、そして染井と照屋が付き添うことになった。
完全に巻き込まれ事故だ。

「ーという事で目的のお化け屋敷到着!!」

ノリノリの別役に乗っかる感じで佐鳥は盛り上げに徹する。
煩いわねと悪態を吐いたのは香取だ。
基本、止めるという事をしないあかりもどちらかというと別役達に乗っかる側なので、
香取を窘めている。

「そんなにお化け屋敷に行きたかったのですか」

溜息を吐いたのは染井だ。
香取がいなければ絶対に参加しないだろう彼女は、
こういうのに盛り上がる人間の気持ちがあまり理解できない。

「ほ、ほら、ここ怖くて評判いいみたいだからさ〜」
「賢、急に歯切れ悪くなったけどどうかしたの?」
「そんな事は…」
「とっきー知らないの?
ここ、男女一緒に入ると結ばれるっていう話」
「は?」
「え、」
「へー」
「…なっ!?」
「そんな訳ないって何度言わせれば気がすむの!?
馬鹿らしいわ」
「葉子ちゃん、それを確かめるために私達今日ここに来たんだよ?」

保護者役として烏丸と時枝が同行する事になった時、
男子が大勢だと可哀想だから女子も誘おうと焦っていたのはそういう事か…と、
鳥丸と時枝は思った。
冷静だ。
その隣でお化け屋敷で結ばれるってただの吊り橋効果なのではないかと思った染井と照屋も冷静だった。

「それで組み合わせどうする?」

ノリノリの別役を止めても周囲に迷惑を掛けるだけなので、
早く入って終わらせようと思った保護者組。
染井は持ってきていたスケジュール帳の紙を破り、
1から4の数字を二つ書いてくじを作った。

「入る順番を紙に書いているから、
同じ数字の人とペアになって」
「華…もしかしてノリ気?」
「わたしは早くこの茶番を終わらせたいだけよ。
ほら、取りなさい」

染井に言われて思わずくじを引く香取。
引いたくじには3と書かれていた。

「な、なんでアタシが…!」
「時間が惜しいわ。皆も引いて」

催促され次々とくじを引いていく。
1組目:時枝・照屋
2組目:烏丸・あかり
3組目:佐鳥・香取
4組目:別役・染井
組み合わせと順番は決まった。
かくして係員の指示に従ってそれぞれがお化け屋敷に入る事になった。
混まない様にするために、
前の組が中間地点まで進んだら次の組が入る仕組みになっている。
2組目に入る事になっている烏丸とあかり。
あかりは香取達に行ってきます!と元気よく言って入って行った。


「私、お化け屋敷初めて入るよ!」
「…そうだろうと思った」

だから別役の発言に気にすることなく、
香取を誘ったのだろう。
あかりは別役が言っていた事を検証するというよりは、
自分が行ってみたいというだけだった。

「おお、暗い!」
「そりゃお化け屋敷だから暗いだろう」
「んー…見にくくて歩きにくいね!」

未だ暗闇に慣れていないあかりは歩くのを戸惑っていたが、
これもお化け屋敷を楽しむ醍醐味の一つだと認識したらしい。
あかりがズンズン歩き出したので、
烏丸もその後に付いていく。

「とりまるーここから音が聞こえる!!」
「おおぉぉぉおぉお化けだぁ!」
「出たぁ!!はー吃驚したよー…」

「あかり、随分楽しそうだな」
「うん、お化け屋敷凄いね!!」

目の前ではしゃぐあかりを鳥丸は大人しく見ていた。
このお化け屋敷が有名な理由の一つは、
人間がお化け役をしているため、
臨場感があるところらしい。
笑ったり感動したり妙なリアクションを取ってはいるが、
一応怖がったり驚いたりしているあかりは誰の目から見ても楽しんでいるようにしか見えない。
リアクションの良さにお化け役も脅かし甲斐があるのだろう。
ポーカーフェイスな烏丸よりはあかりが狙われていた。

「楽しいのも分かるが少しは大人しくしないと転ぶぞ」
「大丈夫、暗さで目が慣れたからへい…うひゃあぁっ!?」

言っているそばからこれだった。
話している途中だったからか、
それとも予期しないところから脅かされたからか、
驚いて思わずあかりは転んでしまった。
それに烏丸は手を差し伸ばそうとして…ふと、考える。

「あかりだけが楽しんでいるのもズルイよな」
「ん?とりまる何?」

言うと烏丸はあかりの目の前に手を差し伸ばした。
それを見て、烏丸の手を取ろうとあかりも手を伸ばすが、
何故か急に手を引っ込められ空振った。
一体何なんだとあかりが首を傾げる瞬間、
烏丸はあかりから眼鏡を奪った。
つまり、お約束展開だった。

「ひぃ、ぃやあぁぁ!!」

あかりは裸眼に映った対象が持つトリオン情報を読み取ることが出来るサイドエフェクトを持っている。
それは数値の羅列であり、
トリオン量の多さに比例して白く発光していく。
目の前にいる烏丸のトリオン量は中々のもので、
心構えしておかないと眩しさのあまりあかりは平気で叫んでしまう。
叫ぶあかりを見てこれだこれと烏丸が思っているともしらず、
あかりは目を押さえている。
暗闇の中で見たからいつもより衝撃がでかかったようだ。
そんなあかりを見て驚いたのは脅かしに来たお化け役の方であった。
彼女のサイドエフェクトを知らないお化けスタッフからしてみれば、
それはもう奇妙な光景だった。
大丈夫かと善意で声を掛けるお化けスタッフにあかりは素直に振り向いて見てしまった。

「ぎゃああぁああぁぁああ!!」

鳥丸の時と比べようもない悲鳴にどうやらお化けスタッフのトリオン量は一般のそれよりも…鳥丸よりも多いらしい。
とんでもない悲鳴にお化けスタッフが驚いた。

「とりまるー眼鏡、眼鏡!!
暗いとこは駄目だよ!!」

烏丸にしがみつき必死にあかりは訴えた。
少し涙目になっているあかり。
どうやら涙が眼鏡と同じように遮蔽物扱いになるらしい。
そのまま鳥丸を見る事が出来たようだ。
別に良心が痛まないわけではないが、
烏丸はあかりを見て良心よりも悪戯心の方が勝ってしまっているらしい。

「あかりだけ楽しんでいるのはズルイ」
「え、とりまるは楽しくないの!?」
「お化けよりあかりの方が面白い」
「それってどういう事なの!?」
「あかり、進まないと迷惑になる」
「う、じゃあ眼鏡を返し…」
「お化け屋敷は怖がるのを楽しむものだ。
眼鏡掛けたらお前喜々として進むだろ?」
「え、関係ないよね!?
寧ろ眼鏡なかったら見れないから怖がれないよ!」
「つまらないから却下」
「なんでぇ!!?」
「いいから行くぞ」

進みだす鳥丸の背中にしがみつきながらあかりも進む。
先程のスタッフのトリオン量が効いたのか、
お化けではなく、スタッフが持つトリオン量にびくびくしている。

「出口に辿りついたら、返す」
「本当?じゃあ、早く進もうよ」
「そうしたら楽しめなくなるだろ?」
「う…!とりまる楽しいの?」
「…ああ、そうだな」

烏丸は呟いた。
その声はあかりの耳にも届いた。

「楽しい」

彼の後ろにいるあかりは、
烏丸がどんな顔をしてそれを呟いたのかは知る由もなく…。
その言葉を受け取って、必死で出口に辿りつくことだけを考えていた。




因みに、今回のお化け屋敷でカップルが誕生する事はなかった。


20160903


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