分岐点
空閑遊真A

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オサムといいあかりといい、昨日から変な奴に出逢うな――…。

遊真は思った。
修は自身がボーダーだという事を学友に知られたくないらしく、
隠そうとしていた節があったが(今日モールモッドの襲撃でバレタが)
あかりは違うらしい。
彼女は遊真がボーダーかと尋ねれば正直に答えた。
木虎のように正隊員だからかと考えてふと気づく。

「そういえばオサムに近界民である事を誰にもしゃべらない約束だったな」

ボーダーの目につかないように行動するつもりが、
早速、修以外のボーダー隊員にバレルという事実にどうするものかと遊真は考えた。
そもそもあかりは遊真のを一目見て近界民ではないかと気づいていたようなので、
今回は不可抗力だと思う事にした。

「オサム?他にも近界民がいるの?」
「違う違う。オサムはこちら側の人間。
学校の…友達――…?」

流石に修がボーダー隊員だという事を教えるわけにはいかない。
今日の出来事でどうやら修は咎められるらしい。
その事を知っているからこそ、
これ以上修に迷惑を掛けるわけにはいかなかった。
修とは昨日今日の付き合いだが、
不思議と彼は目が離せず、迷惑を掛けたくないと思わせる何かがあった。

制服姿の遊真を見て、修は学校の友達という事で信じてくれたのかあかりは言及する事はなかった。
ただ、この世界の住人は近界民はトリオン兵の事を指すのが一般的だ。
だから、“オサム”はボーダーの人間なのだとあかりは察した。
遊真の常識とこちら側の常識は違うのだ。
ここで遊真がボーダーの誰かと繋がりがあるとバレたとは知る由もない。

「分かった。私は今日空閑くんに逢ったことは誰にも言わない。
それで大丈夫そう?」
「うむ。その方が助かる」

遊真の言葉にあかりは苦笑した。
本来ならば近界民を見つけた時点であかりは本部に報告しないといけないのだ。
協力してくれる人間を流石に売るような性根ではない。
あかりにとってある意味これはボーダーに対する裏切り行為になるのだが…。
あかりは数年前の大規模侵攻、そして自分の親が行方不明になった時の事を思い出していた。
被害を抑えるには形振り構ってられない。
それが今日までボーダーとして過ごしてきたあかりの極論だった。
「近界民にもいいやつはいる」そう言っていた玉狛支部を思い出し、
目の前の遊真を見る。
遊真は目の前の少女の本質を見極めようとじっと見ていた。

機密事項になるのだけど…という前置きの元、あかりは話し始める。

最初は誘導システムにバグがあったのかと考え、
システムチェックをしたが見当たらず。
次に誘導システムの穴を抜ける何かを近界民が見つけ、
実行しているのかと考えたが、
誘導区域外に門が開いた共通点はないかと探し始めた。
本当は開く瞬間を目撃できれば
あかりとしては楽な展開なのだが、
それは自身の能力を話す事になるので何も言わなかった。

「たまたまボーダー隊員がいるところに門が開いたから被害はなかったけど、
私はそこが引っかかるんだ」
「……と、言いますと?」
「民間人を攫うのが目的なら、敵の近くに開くのはおかしいよね?
まるで倒して下さいと言っているようなものでしょ。
だから場所や時間には関係ない何かがあるという事になる。
ボーダー隊員近くで開く必然性は何か。
今、それを考えているところなの」

ま、ボーダーに奇襲をかける事が目的ならこの前提は崩れるのだけど。
と一言付け加えられる。

「それで、もし知っているなら教えてほしいの」

ここまでの話を聞いて、
遊真は先程木虎からちらっと聞いた情報を思い出す。
確か木虎はエンジニア総出で探っていると言っていた。
また、防衛隊員は市民を守るだけよとも。

「あかりはエンジニアなのか?」
「そうだよ。…主に現場直行担当だけど」
「現場直行?」
「うん。エンジニアは今、今までのデータから分析しているけど、
それだけじゃ情報が足りないから。
今まで門開いた現場を見に行ったりしているけど、何も残っていないの。
あ、今日発生した三門中はまだ見てないけど」

何でそんな事を聞くのだろうかとあかりは首を傾げる。

「(ユーマ、今までの話を聞くに一つ思いつくことがある)」

遊真の首元でレプリカがしゃべる。
それに遊真は反応した。

「(本当かレプリカ)」
「(ああ。だが確証がない)」
「(それじゃあ、あかりには言わない方がいいな)」
「(変に混乱させないためにも、その方がいいだろう)」

あかりの視線が刺さる。
遊真は彼女の方に向き直って答えた。

「残念だけどおれは知らない」
「そう――…」
「ボーダーがそこまで分かっているなら解決するのも時間の問題だと思うけど
おれの方でも調べてみるよ」
「え、いいの?」

近界民なのにと続くあかりの言葉に遊真は笑って返す。
先にその近界民に助けを求めたのは誰なのだと。

「ありがとう」

あかりは言う。
そこでもう暗くなるし…という事で、遊真とあかりは別れた。



「なあレプリカ」

遊真が言わんとしたことが分かってレプリカは答える。

「三門中はまだだと言っていたな。
まずはそこを調べてみるのがいいだろう」
「うん、そうしよう。
オサムも凄く気にしていたみたいだし…いい時間潰しになりそうだ」

夜はまだ始まったばかりだ――…。


この後、遊真とレプリカの働きのおかげで、
次の日にはイレギュラー門を開いていたラッドの一掃作業が始まるのであった。


20151008


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