分岐点
玉狛支部
しおりを挟む
[ 7 / 27 ]
「たっだいま〜」
「迅さんお帰りーって、あかりちゃん!
玉狛に来るの久しぶりじゃん!会いたかったよー」
パタパタと駆け足で出迎えてくれたのは、
玉狛第一のオペレーターをやっている宇佐美だった。
宇佐美はオペレーターでありながら、エンジニアの心得もあるので、
彼女が本部にいた時から仲良くして貰っていた。
二人揃うとトリガーやトリオン兵等技術に関する話に花を咲かせる。
宇佐美は気さくだし、美人だし、頭もいいしでモテるのだが、
専門分野についていける同世代は残念ながらあまりいなかった。
「今日はどうしたの?
エンジニアの交流会って今日じゃないよね?」
「うん、迅さんに玉狛の新人に逢って欲しいって言われて――」
「へー皆が特訓中にいなくなったと思ったら、
迅さんあかりちゃんのとこ、行ってたんだ」
興味津々に宇佐美は頷いた。
あの迅が新人スカウトをするのは初めてだ。
ボーダーにいる者なら皆、何かあるのではと思うのはしょうがないことだ。
ま、入隊式はまだなのでその事を本部メンバーが知るのはまだ先になるのだが。
「あかり?何で玉狛にいるんだ?」
「迅さんに呼ばれたの」
最初に部屋に入ってきたのは烏丸達だった。
眼鏡の少年があかりに初めましてと挨拶をする。
そして、烏丸にこの人は誰かと聞く。
当然の流れだった。
――この子が三雲くん……。
あかりは修を見る。
見た目は平凡というのか、頼まれたら断れない真面目な人間。
そんな風に見えた。
とても強そうには見えないし、規則は守って当然という風貌に見えるのだが、
人は見かけによらないなとあかりは思った。
修を凝視するあかりに、
意味が分からず修は反射的に冷や汗をかく。
烏丸も眼鏡を掛けたままでこんなにも凝視するあかりを見るのは珍しく、
迅をちらっと見る。
あかりを連れてきたという事はそれに何か意味があるという事だ。
「京介、あまり遊ぶなよー」
迅が言うのと烏丸が行動に移すのはほぼ同時だった。
迅はその先にある確定した未来に同情した。
理解しやすいように説明するためには避けられない未来ではあったのだが――。
あかりも久方に行われるその行為に反応が遅れた。
多分、あかりがこれを防ぐには烏丸よりも先に動かないと防げない。
…つまりほぼ無理だった。
烏丸があかりの眼鏡を外す。
「あかりは眼鏡を外すと人が変わる」
――なんて下手な嘘を…!
思ったのは修だ。
対するあかりは修を見て、ボーダー隊員にしては少ないトリオン量に驚いていた。
数値、発光具合を見てもあかりの目にダメージはない。
それくらい目に入れても痛くない(トリオン)状態だった。
防衛隊員になるために必要なトリオン量ギリギリだ。
よく、採用されたなーと考えるくらい余裕だった。
…言葉を言い換えるなら油断していたと言ってもいいのかもしれない。
「修くん、休憩?」
「ああ、千佳も今からか?」
入口から現れた女の子を視た。
視てしまった。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ――!!!」
飛び込んでくる膨大な情報、何よりその眩しさに、
まるで太陽を直視しているかのような…いや、それ以上の感覚に眩しいなんて言葉は生温かった。
これはもう災害レベルといってもいい。
それほど痛かった。
反射的に目を抑えしゃがみ込む。
あの眩しさは目に焼き付いてしまったのか、已然と元に戻る気がしない。
そんな本人の心境とは別に、
突然悲鳴を上げてしゃがみ込むあかりを見て、
久々にそれを見た烏丸も一瞬呆け、
そして反省した。
知っている人間がそんな反応をするぐらいだ。
修や、自分の姿を見た瞬間叫ばれた千佳に関しては状況がついていけなかった。
とにかく、何か苦しんでいる人が目の前にいるので心配して近づいたくらいだ。
ただ、それはあかりにとって毒にしかならず、
指の隙間から差し込む光に、本気で目が焼かれるのではないかと思った。
おかげで頭がぐらぐらする。
「無理、死ぬ、無理!
とりまる、眼鏡、眼鏡返してっ…!」
目の前の惨状に烏丸は素直に眼鏡を返す。
オドオドする千佳に宇佐美は大丈夫だからと言い、
あかりと距離を置くようにソファに座らせた。
いつの間にか入ってきていた木崎にふざけすぎだと烏丸に小言を言ってから迅を見る。
「迅、視えていたんだろう」
何故止めなかったのかと安易に言えば、
返ってくるのはここで避けても本部で同じ事が起こるよという言葉だった。
それが本当ならあかりには悪いが今この場で済んだという事で、
水に流してもらう他ない。
「ちょっと、今の悲鳴は何よ!?」
遅れてやってきたのは小南達だ。
仰々しい悲鳴を聞いて、訓練を中断して駆けつけたようだ。
つまり、玉狛支部全体にあかりの悲鳴は響き渡ったという事だった。
「あ、この前の変な人……何をやってるの?」
最後に入ってきた遊真はあかりを見て、
周りを見渡すが状況がよく分からないと首を傾げた。
20151018
<< 前 | 戻 | 次 >>