分岐点
レプリカ

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あかりの視力…もとい、精神が回復した。
久々だったので回復までに時間が掛かったと心配掛けてごめんなさいと謝るがその時間は一分も満たなかった。
その後に自己紹介とともに説明されたあかりの持つサイドエフェクト。
未来が視える。
襲ってくる近界民が探知できる。
嘘が見抜ける。
これ以上に本当なのか分かり難く、そして信じ難いものだったが、
遊真が特に反応しない事から本当の事だと判断ができた。
だから初めて逢った時、
遊真が近界民である事が分かったし、
傍にいたレプリカの存在にも気づいたのかと遊真は一人合点した。
そして隠れる事に意味はないと判断したレプリカはしれっとあかりの目の前に現れる。
その存在を直に見たあかりは、
先程の苦行を忘れ、たしかな満足感に浸っていた。
眼鏡を外して視れば情報の波に押し寄せられるだろうが、
それでもずっと眺めていてもいいくらいあかりは目の前のトリオン兵に興味を持っていた。
レプリカを見た時、修も千佳もその存在に驚いていたがその反応には納得はできた。
逆にあかりの変わった反応に遊真は益々あかりに対して変な人という認識が強くなるばかりだった。

「やっぱり近界民の技術って凄いなー」
「星海先輩はトリガーに興味があるんですか?」
「うん、自分が使うものだし興味持たない?」

あかりの返事に修は言葉を詰まらせた。
ボーダーになって、やりたい事。
守りたいものはあって、どうやったら自分は強くなれるかとしか考えていなかったので、
トリガーに興味を持つという事はなかった。
千佳は玉狛で入隊手続きをしたばかりだからあまり知らないだろうし、
他の先輩方は…と顔を見ると、
反応したのは宇佐美くらいで、
烏丸も小南も武器としてどう使うかとしか考えておらず、
あかりが思うような興味とは少し違うものだった。

「ならば、私が説明しよう」

言ったのはレプリカだった。

「いいの!?」
「ああ、あかりには前回の恩がある。
私が知る範囲でしかないが、伝えよう」
「寧ろ、恩があるのはこっちなのに…!
でもありがとう!お言葉に甘えます」

レプリカの本体から一部が分離する。
チビレプリカがあかりの元に飛んでいく。
この場だけでは話しきれないと判断しての事だろう。
あかりが頼めばいつでも話せるように携帯サイズになってくれた。
これであかりは知りたい時にレプリカから情報を得る事ができるという事だ。
あかりは素直に喜んだ。
今は千佳をはじめとするトリオン能力が高い人間がいるので眼鏡を外して情報が視れないが、
家に帰って心行くまで堪能しようと心に決めた。


あれよあれよといううちに、いい時間になった。
流石に今日は帰らないとまずいらしく、
修、千佳に並んで遊真も今の住居に戻る事になった。
あかりも今住んでいる家…ボーダー職員専用の寮に帰る事にした。
実質独り身になってしまっているあかりはボーダーが提携している寮に住んでいる。
未成年という事もあり寄付金がわずかながら出ており、家賃は免除されている。
一人暮らし用なので少し狭いかもしれないが、
今のあかりには有難い住居に違いなかった。

帰り際、ふと迅に聞かれた。

「そういえばあかりちゃん、冬島さんいつ帰ってくるの?」
「三日後。今、それに向けて遠征艇の整備とトリガー解析の準備中です」
「確定だね」
「何がですか?」
「こっちの話」

特に隠す必要もないので素直に言う。
そもそも未来視のサイドエフェクトがある迅はわざわざ聞かなくても分かるはずだ。
それをあえて口にするという事は確認しなくてはいけない何か。
確定したい未来があるという事だ。

「あかりちゃん、あまり無理しちゃダメだよ」


迅の言葉に思い当たるものは何もない。
これから起こる未来の事を言っているとしたら、
それはその時になってみないと分からないので約束はできない。

「努力はします」




家に帰り着いたあかりは早速レプリカと話し始めた。
まるでパジャマパーティーをしているノリだ。
久しぶり自室で一人じゃない夜を過ごすあかりにとって、
寂しさを感じないならどんな話でもよかったし、実際レプリカの話はためになっていた。

「トリオンの視覚情報化か…
あかりは今、眼鏡を掛けていないが大丈夫なのか?
今までの情報から考えて、相当辛いものだと認識したが」
「うん?最初は痛いけど見慣れれば大丈夫だよ。
あとレプリカはトリオン兵だから眩しくはないかな」

不思議な事にあかりの目に映るトリオン情報は生きているものとそうでないものとでは少し見え方が違う。
簡単にいうとトリオン兵等はどんなに大量のトリオンを使用していたとしても、
発光したりしないのである。
他の人間が見えているトリオンキューブやトリオン兵と同じようにあかりも視えている。…とあかりは思っている。
そうはいっても発光具合のみなので、眩しいかそうでないかだけだ。
数列は見慣れているため、あかりは苦には思わない。
その事をあかりは伝えた。

「生きているものとそうでないもの、か――。
そういえばあかりは初めてユーマを視た時、痛いとか眩しいとか言っていたな」
「あー痛かったのは心の準備ができていなかったというか……
情報処理が追いつかなかっただけというか…そんな感じ?
空閑くんのトリオンは黒く光ってたかも。
あまり視ない感じだったから近界民かなーって思ったの」
「そうか、ユーマは光っていたのか」

心なしか、レプリカがふっと笑ったような気がした。

「あかりに話しておきたい事がある――」


20151018


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