未確定と確定
ボーダー・デスマッチ

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※『勝手なアンケート』で三位を取った太刀川のバトル話。
※残念…というよりは可哀想な太刀川さん。
※下っぽい表現、残酷表現あり。



それはある夕方の出来事だった。
いつもならまだ隊員はいるはずなのに、
その日、その時はあまりいなかった事に問題があった。
ランク戦の気分だった太刀川は問答無用で誰彼捕まえて戦おうとしていたのだが、
珍しく捕まらなかったのだ。
仕方がない。今日は諦めるか。
…そうならなかったのは戦闘狂の太刀川だからである。
自分がやりたいときにやる!をモットーにしていた太刀川は、仕方なくある部屋に向かう。
それは、近界民に攫われた経験を持つ桜花の部屋だ。
彼女は本部にある自室で生活をしている。
防衛任務で生計を立てている桜花は遠出することはほぼない。
何か用事があれば彼女の部屋を直接訪ねれば会えるのは、
太刀川みたいな戦闘狂には有難い話だった。


ドンドンドン

桜花の扉を遠慮なくノックする。
しかし返事は返ってこなかった。
「おーい、明星いないのかー」

ドンドンドン

さっきより強く叩くが返事はない。
そこで諦めて帰ればいいものの…何故か太刀川は帰らなかった。
――というのも桜花には前科?があり、
相手を見て居留守を使う事がある。
その相手が太刀川や迅だったりするのだが、
物凄く悪意を感じる。
「うん、明星はここにいる。と、俺のサイドエフェクトが言っているーっと」
迅の台詞を真似ながら言う。
念の為に表記するが、太刀川はサイドエフェクトを持っていない。
これはただの直感だった。
どうせ、トリオンで後で直せるからという理由だけで、
太刀川は桜花の部屋の扉を蹴破った。
「入るぞー」
扉こそ、壊れはしなかったものの、間違いなく鍵は壊れただろう。
そんな感じの音が聞こえたが太刀川はお構いなしだった。
そして、扉を開けた直後、
探し求めていた人物が部屋のど真ん中にいた。
やっぱり、いるじゃないかと心の中で思いつつ、
太刀川は桜花に言う。
「ランク戦やろうぜ」
扉を破って入ってきた男に桜花は思考が一瞬停止した。
自分の部屋の扉を(鍵)を壊された。
何してくれてんだ此奴…と憤る。
折角、汗を流そうとシャワーを浴びたのにー…と。
そうなのだ。
桜花は丁度、シャワーを浴び終わり髪を拭いている。
つまりはバスタオル一枚だ。
なぜ、洗面所で着替えて来なかったのか?という問いに関しては、
自分の部屋なんだから放っておいてよというヤツだ。
鍵を掛けていなかったら自業自得だが、今回はそうではない。
バスタオル身体に巻いているからいいじゃんとか、
そんなレベルでもない。
太刀川の言葉に我に返った桜花はワナワナ震えていた。
手元にトリガーが無かったことが悔やまれる。

「ふっざけんじゃないわよー!!」

叫んだ後の桜花の行動は速かった。
テーブルにあったグラスを太刀川に投げつける。
相手が隊服を着ているため、トリオン体なのはすぐに分かった。
怒りに任せてそのまま殴りに行かなかった自分を褒め称えたいくらいだ。
身体能力が向上している太刀川なら、
グラスをキャッチするか叩き割るか何かしらアクションを取ることは折り込み済みだ。
その隙に桜花は自身のトリガーに駆け寄り、起動した。
そのまま太刀川に斬りかかった。
勿論、太刀川はそれを孤月で受け止めた。
「明星、気が早いって。
私闘は隊務違反だ」
「どの面でそんなこと言っているのよ!?
表に出なさい!!」

かくしてランク戦が行われた。
…無論、桜花はちゃんと着替えてトリガー起動してのブースへ直行だ。

戦闘なんて太刀川へのご褒美になるんじゃないのかと誰もが思うだろう。
だけど桜花は我慢できなかった。
自分のこの手で斬り刻まないと、気が済まなかった。
…どうやら日頃からの鬱憤が溜まっているらしい。
勝率も五分五分…もしくは少し負けるくらいだが、今なら負ける気などしなかった。
最初は嬉々として戦っていた太刀川だがだんだん危機感を感じてきたらしい。
これはマジでヤバいヤツだと思った時は時既に遅し…だ。
「本気で怒ってる?」
「は?何言ってるの」
寧ろ反省もしていないのか。
桜花の怒りレベルが上がる。
怒りはそのまま力に…
――という事で太刀川の腕を斬り落とした。
そのまま壁際まで追いやる。
「楽に殺してなんかあげないわよ」
それこそ、暫く無理矢理ランク戦に誘わないようにするくらいまで痛めつける権利は私にはあるはずだと桜花は主張する。
孤月二刀流である太刀川が他の武器を登録していないのは分かっている。
もう反撃ができないのを知っていてのこの状況。
ランク戦をモニターで見ている者にとってはまるでサスペンス劇場だ。
どうしてこういう経緯になっているか知らないのもあり、
桜花が太刀川を痛めつけているようにしか見えない。
…いや、実際その通りなのだが。
何せ、太刀川の喉元には桜花のメイントリガーの孤月の刃が向けられいつでも首を落とせる状態になっている。
そしてサブトリガーにはアサルト型銃トリガー。
その銃口が男の大事なところに向けられているわけだ。かなりえげつない。
「無残に斬られて死ぬのと、精神的ダメージを受けて死ぬのとどっちがいい?」
血も涙もない選択だ。
因みに太刀川のトリオンも大分露出している。
時間を掛けすぎると自動的にベイルアウトするのは分かっているので、
太刀川の返答を待たずに桜花は既に片足を斬り捨てた。
言葉では言っているが最早、選択させる気は皆無である。
「痛覚オフよね?だったら大丈夫よ」
「何がだよ」
太刀川の言葉に桜花は笑って引き金を引いた。



「……なぁ、弾バカ。お前のとこの隊長なにしたの」
「今来たばっかりの俺が知るわけないだろ」

学校が終わりボーダー本部に直行した米屋と出水は目の前の惨劇を目撃してしまって後悔していた。
これはやられた太刀川もトラウマものだろうが、
見ている方もトラウマだ。
それくらい強烈な印象を与えるものだった。
研究のため対戦ログを見ている隊員も結構多い。
グロさ…というか精神ダメージ的にR-18指定にしないと危ないレベルだ。
寧ろ削除レベルだ。
いつものように何、痴話喧嘩しているんですかーとふざけて言えないくらいの状況なんだと察するのは難しくなかった。
本当にうちの隊長は何をしでかしたんだと出水は頭を抱えたくなった。

モニターにはベイルアウトした太刀川と、その後の試合を全て棄権したのか、
勝敗が表示されていた。
それを合図にある部屋から物凄い勢いで飛び出してくる太刀川の姿と、
その後ろから太刀川を仕留めんとする桜花の姿もあった。
グラスホッパーを使い一気に加速した桜花は、
太刀川の首根っこを捕まえ、地面にダイブさせた。
「どこ行く気ー?」
まだ私の気が晴れてないんだけどと桜花は睨んだ。
「出水ー米屋ーいいところに!!」
助けを求める太刀川に二人は全力で見ない事にした。
人間誰しも自分の命が一番可愛いのである。
「予定は狂ったけどしょうがないわ。
風間さんに突き出してやる」
そしてそのままお勉強コースだ。勿論お説教付きで。
そんな未来が視えたのか太刀川が必死に抵抗する。
「いや、割りに合わないだろ。たかが部屋の扉(鍵)を壊したくらいで!」
「たかが部屋の扉?人の部屋無断で踏み込んできておいてそれ?」
「……お前、タオル巻いてたじゃん。寧ろここまでするなら見せろよ!!」
「やっぱり死に足りないみたいね」
二人の会話を聞いてなんとなく想像がついたらしい。
「太刀川さん覗き?命懸けすぎでしょ」
最低だーと二人は太刀川を見る。
ただでさえ精神的にダメージを喰らっているのに、
後輩からも蔑んだ目で見られたら…効果倍である。
「安心して。ちゃーんと迅に嵐山。あと加古さんと月見にも言っておくから。
良かったわね沢山死ねるわよ」
勿論精神ダメージでの話だ。
やっぱりこの人、えげつないなと米屋と出水は思った。

そして宣告通り、
太刀川への精神攻撃は暫く続いたのである。


20150910


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