未確定と確定
ボーダー・デスマッチ2
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※60000キリリク「太刀川にキレる主人公と風間によるデスマッチ第二弾」
※かっこいい太刀川さんは存在しません。いるのは馬鹿な太刀川さんだけです。
ボーダーには共有スペースと呼ばれる部屋がある。
ある隊員は寛いだり、
ある隊員は他の隊員と談笑したり、軽食をとったりと平和に過ごすのだが、
ただ一か所だけ…寛ぎスペースはどこへ行った…。
暗雲立ち込める空気を漂わせる者がいた。
彼女の名は明星桜花。
自称今回の被害者だが、本当の被害者は彼女を相手にしている出水公平だった。
「あの馬鹿、見つけたらただじゃおかない…!」
目の前の桜花は物凄く不穏な事を言っている。
言葉だけでなく殺気付きで。
相当怒っている証拠である。
こういう時の桜花は手が付けられなくなるので、近寄らない方がいい。
出水だって関わりたくてかかわったわけではない。
不可抗力だった。
何せ、今回は夜の防衛任務だった。
そして基本フリーの桜花は夜に任務が入っている事が多い。
その時点でいろいろ不可避だった。
任務が終わって軽食をとろうと座ったのが間違いだったと出水は思った。
こんな事になるなら素直に帰っていれば良かったと。
「出水、本当に太刀川がどこに行ったか分からないの?」
「知ってたら突き出してます」
事の始まりはなんだったか…いや、積み重ねてたものが今日爆発したという感じだ。
爆発スイッチを押したのはこの場にいない太刀川隊の隊長太刀川だ。
桜花は本部に住み込んで働いている隊員なのは皆周知している。
暇な人間で強敵を探している人間ほど彼女の元に訪れる。
割と桜花も来るもの拒まずのところがあるため、
特に何もなければ大体ランク戦に付き合う。
勿論相手を見てだが…。
桜花が怒っているのはそれが原因だった。
前回も桜花の部屋の鍵をぶっ壊し、
(アン)ラッキースケベで桜花の裸(バスタオル巻いてます)を見た太刀川に桜花が怒り散々な目に遭わせたのはここ最近で有名な話だ。
普通は誰も人様の部屋を無断で入る事はしないが、
これを機に戦闘民族もどんなに戦闘がしたくてたまらないと発狂しても、
ある程度のマナーは守って行動をするようになっていた。
礼儀は大事である。
しかし太刀川は前回の出来事を忘れたのか未だに桜花の部屋に入る。
勿論扉を蹴破るというおまけつきで。
恐らく太刀川が前回で学んだ事は桜花は怒らせると怖いという事だろう。
反省していないのかと問い詰めれば「お前が素直にランク戦してくれればこんな事にはならない」と返された。
こいつは餓鬼か…と大の大人を見て桜花の怒りゲージが溜まった。
それが何度も繰り返されると怒りゲージは徐々に溜まる。
蹴破られる度に修復するのにトリオンを使う。
鬼怒田から「トリオンは有限なのに無駄遣いしおって!」と小言を言われ、
桜花の怒りゲージが溜まる。
しまいには「こんなに壊されるなら一層ない方がいいんじゃないか?」と冬島に言われ、
プライバシーの侵害にもほどがあるとおじさんを一度絞めたのもここ最近の話だ。
で、新しい扉と鍵ををつけたのが昨日である。
極めつけは今日だ。
防衛任務が終了して桜花は自室に直行した。
睡眠、食事、息抜きは大事である。
しかしどういう訳か扉が開いているではないか。
桜花はもう嫌な予感しかしなかった。
部屋を除けば案の定鍵諸共壊れているし…もう誰が犯人なのか確定した。
更に歩みを進めると例の男が人様のベッドで寝ているではないか。
「起きなさい。…おい、起きろ」
殺気を飛ばせば男…太刀川は勢いよく飛び起きた。
流石戦闘狂。自分に向けられる殺気には敏感らしい。
しかし太刀川は相手が桜花だと知ると日常モードの太刀川に戻った。
「なーんだ明星じゃないか」
その言葉に桜花の額に青筋が立った。
「一応言い訳聞くけど、なんでいるの?」
「え、息抜きしようと思ったんだけど誰もいなくてさーブース空いてるしやらない?」
やっぱり緊急の連絡事項とかそんなものではない事を確認すると桜花は迷わず太刀川を斬りつけた。が、そこに耐性はあるようで太刀川は見事な白刃取りでそれを防いだ。
「私闘は隊務違反だって。怒られるだろ」
「怒らせてるのはアンタでしょ。昨日直したばかりなのに……!」
「そうなのか?確かに今回のは少し硬かったなー」
はははーと笑いながら言う太刀川に桜花はもうなんと言っていいのか分からなかった。
思考が停止した桜花を見て動くなら今しかないと思ったのか、
太刀川は桜花の間合いから離れると「とりあえず落ち着けよ」と言われて冷蔵庫を漁られる。
マナーとして人の家の冷蔵庫を開けるのはどうなんだと突っ込むところだが桜花はそれどころじゃない。
思考停止、頭痛、若干眩暈さえ覚える状況だ。
だから太刀川の言葉に素直に返事をした。
「お前なんにも入ってないなー」
「は?夜食が入ってるけど」
「そういえば入ってたなーやべ、食っちゃった」
桜花はその言葉に一連の流れを一気に理解した。
この男、人の部屋に無断侵入しただけでなく、
お腹が空いたと人様の冷蔵庫を開け、桜花の唯一の食料を全て食し、
暇だーと言いながら待っていたら勝手に人のベッドで寝たとそういう事である。
よし、此奴殺そう。桜花が思うのも無理がない話だ。
桜花の殺気に気付いた太刀川はこれはやばい奴だと本気で感じ取ったらしい。
一目散に逃げだした。
…それができるなら、そもそもこんな事をするなという話だ。
そして見つけ次第殺すと息巻き、太刀川を探し回っているが見つからず。
バックワーム装着しているせいかレーダーにも映らない。
そんな頭があるなら……
と、桜花は続けた。
前回に引き続きなんとやら…桜花は食事には物凄く重要視している。
自分の裸を見られるよりも根に持っている。
食べ物の恨みは恐ろしいというのを体現していた。
一通りの話を聞いて出水も自身の隊長に思う事はいろいろあったが、
とりあえずリアルで殺人を起こしかねないこの人を何とかする方が先だった。
空腹で殺気立ってるなら対処できるのは一つしかない。
「よかったら、これ、どうぞ」
「ありがとう」
桜花は遠慮なく出水から差し出されたパンを口にする。
育ち盛りの出水は軽食といいつつも量は沢山ある。
パンの一つや二つ分けてもどうってことはない。
出水は情報を整理する。
日が変わっているので昨日というべきなのかもしれないが…
今回の夜の防衛は太刀川隊が受け持っていた。
それが太刀川が任務に参加できない事情があり、
代わりに桜花がシフトインしたわけである。
本来ならば太刀川が桜花の部屋にいるなんてありえないのだ。
それが起こっているという事は……
出水が危惧していた事は彼の後ろから現れた。
「今の話は本当か?」
まさかの風間の登場である。
「本当じゃなかったら私ただの怒り損じゃない!」
口をもごもごしながら怒りを露わにする桜花に普段なら「はしたない」「食べ終わってからしゃべれ」と言う風間も今回は何も言わなかった。
何せ風間も今怒っているのである。
ポーカーフェイスなんて関係ない。
ひしひしと伝わる殺気に桜花は何事かと目を細める。
風間が怒っている理由について出水は想像がついていた。
本来はいるはずの防衛任務に太刀川がいなかったのはぶっちゃけると大学の課題のせいだ。
それが間に合わないと嘆く太刀川のフォローに入ったのは風間だった。
提出期限を聞いていっそのこと死んで来いと風間は思ったが、
本部長直々に頭を下げられたのなら受けるしかなかった。
夜通し目を光らせていたのだが、
太刀川が飲み物買ってくると言って隊室を出たのだ。
確かに太刀川隊の隊室には飲み物などなく、買いに行くしかなかった。
「風間さんの分も買ってきます」なんて言われれば、
それなりに申し訳ないとか感謝の念があるのだなと思い、行かせた。
それがそもそもの間違いであった。
太刀川のレポートのために頭を捻りながら考えていたが気づけば飲み物を買いに行った太刀川が30分経ったのに戻ってこない。
これは……と思ってこちらも鬼の形相で太刀川を探し回った。
しかし見つからず、現実を見れず逃亡したのかと風間は憤慨していた。
「まさか明星の部屋にいたとはな…」
盲点だったと風間は言う。
「課題で人を使っている事も忘れ、
息抜きと称し明星の部屋に侵入し、あまつさえ寝たか」
事実を淡々と口にする風間が怖い。
出水から見ると桜花も風間も怖いが、
労働時間、精神疲労を考えると風間の方が重い。
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが…」
「本当あの馬鹿。いい加減学習してほしいんだけど」
「太刀川に学習機能があれば、そもそもこんな事にはならないがな」
「確かに」
今、桜花と風間の怒りがシンクロした。
(これは太刀川さん死んだな)
同情の余地はなかった。
そしてなにが馬鹿なのかというと二人が捜していた人物が二人に追われていた事を忘れ、
普通に声を掛けてきたことだ。
「おー風間さん、明星、出水!なんか珍しい組み合わせだな」
その声を聞いて反射的に風間と桜花は動いた。
正面から堂々と太刀川を襲う桜花を見て、
太刀川踵を返そうとしたが、
それをいつの間にかカメレオンで姿を消した風間が容赦なく太刀川を迎撃(拘束)する。
桜花は太刀川の顔に銃口を向ける。
彼女は最近脅す時に銃型トリガーを使う傾向があるが、これは脅しでもなんでもないだろう。
目の前で見事な連携を見せられて出水は思った。
(太刀川さん、本当に馬鹿だ)
「よくも人の貴重な夜食を食べてくれたわね」
「それくらいで怒るなって」
「あぁ?」
悪役が務まる顔で桜花が睨みを効かせる。
「お前は人に課題を押し付けて寝てたらしいな」
「それは…!だ、だって明星の部屋が何にもなくてつまんなかったから…明星が悪い!」
「は?」
「さっさと戻ってくればいいだろう」
「いやだって!」
素直に認めてしまえばまだ酌量の余地はあったのに…太刀川はなんとかならないかと自身の頭をフル回転して逃げ道を探していく。
それが逆に自分を追い込んで行く事に彼は気づいていない。
「そ、そうだ!お腹膨れて眠くなって…生理現象だからしょうがな」
「「くはない!!」」
「布団に入らないと風邪ひく…」
「「(勝手に)入るな」」
二人に攻められ絶体絶命。
口をパクパクしながら苦肉の策だと言わんばかりに太刀川は言う。
「し、かたないだろ!明星の布団いい匂いだったからつい……!」
太刀川のその言葉に桜花は発砲した。
銃口はずれて太刀川の頬を掠めるだけになってしまったが、
逸れてしまった時点で彼女の事を知る者は気づいた。
今の太刀川の言葉に動揺した事を。
戦闘面なら頼りになるが日常生活になるとダメダメ人間とまではいかなくても、
桜花はどうすればいいのか分からなくなる事がある。
特にこういう悪意のない素直で?突発的な言葉には少し耐性がない。
太刀川はそれがこの状況を打破するチャンスだと思ったが生憎それを許す風間ではなかった。
スコーピオンで太刀川の身体を貫いている。
「明星も馬鹿の言葉に耳を貸すな」
「違…ドン引きしただけです」
風間の怒りの矛先がこちらを向いたと焦ったのか桜花は言い返す。
多分風間が言いたいのはそういう事じゃないと傍で見せられていた出水は思ったが、
口に出す暇はなかった。
「気が変わった。少し殺そう。行くぞ」
トリオン体の換装が解けた太刀川の首根っこを捕まえて風間は言う。
因みにこの行くぞには桜花に言ったものだ。
桜花も怒りが収まったわけではないので、素直に風間の後についていく。
向かうのは模擬戦を行う訓練室。
あそこならトリオン無限設定ができるので憂さ晴らしには都合が良かった。
「やだあ――!」と風間にずるずる引きずられながら太刀川は悲鳴をあげるが、
皆自分の命が可愛いので見ないふりをした。
出水も目の前の出来事に暫く呆けていたが、
とりあえず朝食をとって帰って寝る事にした。
馬鹿な隊長を持つと苦労するが仕方がない。
次に会う時は生きててくれればもうそれでいいやと出水は思った。
20151031
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