近界と玄界
少年の尋問
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捕虜として2日目…いや、
桜花が目を覚ましてから2日が経った。
治療して貰ってるし、三度の飯が出るしで、捕虜待遇の良さに正直、驚きを隠せなかった。
ここまでくると余程、治安がいい国で、戦力の蓄えもあるのだろうなと桜花は思った。
待遇の良さは国の豊かさ、余裕に直結する。
逆に切羽詰まっているところだと意外と早く戦争に出されたりする。
捕虜にした者の国とまだ戦争中の場合は見せしめにして、絶望を与えることも少なくはない。
今、そうなってないなら戦争中でもないのだろう。
僅かでも在籍していた国を思う。
…あれは多分、堕ちる。
もしかしたら堕ちたのかもしれない。
あの状況から察するに今の桜花は少しばかり命が永らえた事になるが、それもこれから次第だった。
「あー…」
声が出る事を確認する。
出された食事も食べるくらい食欲は出てきた。
後はどこまで動けるか把握したいところだ。
「…!」
桜花はベッドから降りた。
足が地に着く感覚が久しぶり過ぎて耐えきれなかったらしい。
自分が思うよりも先に身体は正直に現実を教えてくれた。
上手く立てなくて崩れ落ちる。
体力が回復していないだけなら有難いのだが…。
――筋力が衰えていたら嫌だな…。
立ち上がろうとするが思った通りいかないので、
ベッドを支えに立ち上がろうとしたところで扉が開いた。
「……」
「……」
お互い目が合う。
昨日の男とは違う小柄な男。
寧ろ少年と思わせる風貌だ。
油断をさせるつもりなのか何なのかは知らないが、
少年に見下ろされるのはなんだかムカつく。
桜花は意地で立ち上がった。
それもそのはず…この少年はあの時、桜花に斬りかかってきた人間だ。
昨日の男に比べ、殺気は感じないが目が冷たい。
感情の動きが分かりにくくて困る。
足は大分立つ事に慣れたようだが、動くのはまだ少し難しい。
相手に弱っているところは見せたくない。
下手に出る事もしないし見られたくもない。
逆に相手がこちらに警戒心を剥き出しにさせるくらい堂々とする事に努める。
そのためにバランスを崩してかっこ悪く倒れてしまうところを見せないようにするために、
桜花は自然にベッドに腰を下ろした。
「それで用は何?」
少年を見れば、返ってきたのは「食欲は出てきたようだな」だった。
勿論それは心配しているわけではない。
「それだけ元気が出てきたなら、今日は答えてもらう」
そう言っているように見える。
つまり桜花のその堂々とした態度がそういう意思だと捉えられたということだ。
昨日は初日だから許された事も、二度繰り返せば…というやつだ。
少年が聞いてきたのは昨日の男が聞いたのと同じだった。
国の名前。内政、軍事力…
正直に答えるべきなのか?
桜花は少し考えた。
あの国にいたということは、大体のことは知っているはずだ。
そういう考えに至った。
本当に聞きたいことは何かは知らないが、とりあえず答えることにしよう。
桜花は正直こういう腹の探り合いは苦手だった。
試みて上手くいった試しがない。
だから皆が知っている事だけ答えると決めた。
「お前がいた国は?」
「プロディティオ」
「身分は?」
「一応、兵士」
「相手の国は?」
「マルム」
「なぜ戦争することになった」
「後ろめたいことでもあったんじゃない?」
「黒トリガーはいくつある」
「世間に知られてる通りよ」
「いくつある」
「……三本はあると思うけど」
「随分曖昧に答えるんだな」
「下っ端が知る情報なんて世間一般に知れ渡っているのと同じ。
そう思わない?」
「ほぅ。あれで下っ端か」
「……なに」
要領得ない質問に、本当に正直に答えてしまった。
下っ端と答えたのはまずかっただろうか。
生かす価値はないと判断された?
読めない。読もうとしても全く読めない。
目の前の少年の表情が読みにくくて桜花は何も判断できなかった。
これが斬り合いなら良かった。
剣を交えた方が相手の力量や性格が分かるし、手っ取り早い。
しかし残念ながら桜花の手元にトリガーはない。
一瞬襲い掛かろうかとも思ったが、先程上手く立てなかったことを思い出す。
そんなことしたら次の瞬間、地に堕ちてしまう。
それだけで済めばいい。
下手すると殺されてしまうかもしれない。
先日の尋問が甘かったからといって今日も甘いとは限らない。
まだ情報が足りない。
この少年から得られるものは何もない事が分かると、
桜花はそれからの質問に何も答えなかった。
知らぬ存ぜぬで通した。
ちなみに計算して答えなかったのではない。
本当に事実を知らないから答えられなかっただけだ。
だが、少年の眉間に皺が寄っているところを見ると、
これは相手にとって良くなかったらしい。
目と眉間を見て判断するなんて難易度が高すぎだと桜花は内心悪態をついた。
相手が溜息をつくが、こっちだと溜息をつきたいくらいだった。
「これ以上続けても何もでてこないようだな」
それが今日は終わりにするという合図だった。
やっと解放されることに、僅かながら安堵した。
少年がいなくなったら体力回復に努めよう。
まずは足腰を戻すために動き回って…
桜花がそう考えている時だ。
「あと3日だ」
急に言われた数字に思いつかない程、桜花は愚かではないつもりだ。
寧ろ少年にあんな表情をさせたばかりだ。
今、逝かない事に自分でもびっくりするくらいだ。
それを勘違いしたのか少年は言う。
「死にたくなければ、次はもう少し答えるんだな」
扉が閉まった。
部屋はまた静寂に包まれる。
「なら、答えられる質問してよ」
ベッドから降りて足を地に着ける。
先程立ったおかげで足が感覚を思い出したのか今度は転ばなかった。
とりあえず、歩いてみようと思って一歩、二歩…足がぐにゃりとバランスを崩した。
これは壁伝いに歩き慣らさないとダメだなと桜花は思った。
壁を支えに立ち上がる。
そして一歩、また一歩と桜花は踏み出した。
「あと3日か」
20150412
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