未確定と確定
トラップ☆チェンジ

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目撃した隊員は言う。
「凄かったな。あの動きと剣捌き。
それが急に転けたんだよ、あの二人。
分からなかったな、何が起こったのか。」

目撃した隊員は言う。
「いやー凄かったぜ。あの二人攻撃手のトップクラスじゃん?
二人とも立ち上がろうとしたけど上手く立てなかったみたいでさー必死で立ち上がろうとしてたんだぜ?
で、また転んでさ。相手が相手だし、思いっきり笑えねぇのがなぁ……」

目撃した隊員は言う。
「立ち上がれなかった二人?
暫くの間、動かなかったなー…。
なんか二人の間でやりとりがあったみたいでさ、その後、
風間さんが明星さんを真っ二つにしたんだよね。
んで、その後続く予定だった試合は全てキャンセル。
ランク戦終わっちゃったんだよね〜あー残念」


件のランク戦。
桜花と風間は十本勝負をしていた。
引き分けていた二人は七本目の勝負に入った。
機動力が高い二人は己が瞬発力にものをいわせ、剣のやりとりをしていた。
そこでイキナリ意識が飛ぶような感覚になり、
気づいた時にはお互い足の踏ん張りが効かず、転倒した。
何が起こったのか分からなかったのは当事者である二人だ。
戦場での経験のせいか、お互いそのまま停止するのは死を意味すると認知している。
そのため身体が勝手に立ち上がろうと動いたのだが、力加減が分からず立てない事態に陥った。
支えがないといけない状況だという事が分かった二人は己が手にしている剣を地に刺し、立ち上がろうとした。
距離感もおかしい……そう認知し、対戦相手の顔を見たところで二人とも思考が停止した。
目の前にいるのは自分だ。
何が起こっているのか……そう思った瞬間、やはり力加減が上手くいかないのか再び転倒した。
今は立てないという事が分かった二人はまずは状況を把握するのが先だと判断した。

「誰?」
「誰だ?」

同じ問い。揃った声。
自分が発したはずの声が自分のものではなく、
そして目の前には自分の姿をした人間が自分と同じ疑問を口にした。
今まで対戦していた相手や状況を考えるとそれは誰なのか……簡単に分かる事だった。

「風間さん?」
「明星か?」

その瞬間、答え合わせは終了した。
どうしてそうなったのか?
……二人はこうなるまでの流れを思い出した。
「風間さんが、スコーピオンで斬りかかってきたのを捌いて、
一度距離をとったわね」
「その後お互い間合いを詰めて技を出そうとしたところだったか」
お互い一歩を踏み出した。
その刹那、意識が飛び、気づいたらこうなっていた。
どうやら相手も同じ感覚らしい。
「トリガーに何かしらの不具合が起こった……というのは無理があるわよね」
向こうの世界にいた時こんな事体験した事ないと呟いた桜花は、
何だかんだでボーダーに来て日は浅い。
そしてトリガーもしくはトリオン体に問題があればすぐにエンジニアに言えばいい…という発想に結びつかないのも、
今までそういう問題があっても自分で何とかする事しかなかったからだ。
対する風間は眉間に皺を寄せながら心当たりがあると言う。
それを聞いて桜花は元凶をとっちめようと思い立ち、風間も同意する。
まずはこの仮想空間からでないといけないので試合を終わらせる事にした。
登録されているトリガーを見て、見た目だけではなくトリオン体自体が入れ替わっている事を実感した二人。
トリオン体の身体の操縦が上手くいかない今、
手っ取り早く試合を終わらせられるのは、
変化自在であるスコーピオンを登録している風間のトリオン体だ。
桜花はスコーピオンを選択し、問答無用で目の前にいる自分(風間)の身体を真っ二つにした。


待機室に戻った桜花は部屋を見渡した。
待機室番号を見て、この部屋は本来なら自分が対戦していた相手がいるべき場所だ。
設置してあるパソコンのモニタには今の戦績結果が載っている。
先程の試合も風間が桜花を倒したとシステムは認識しているようだ。
トリガーオフしようとしたがそれができない事も確認した。

――とりあえず目の前の事から片づけよう。

まずは桜花は全ての試合をキャンセルする事にした。
その操作をするには設置してあるパソコンまで行かないといけない。
じたばた足掻いてやっと間隔が掴めた桜花はまず、モニター越しに風間に話しかける。
返ってきた声が自分のものなので変な感じがするが、
今は仕方がないと割り切るしかない。
どうやら風間が認識しているのと桜花が認識しているのは同じようだ。
桜花は動けるが風間の方はトリオン体の操縦状況があまりよくないらしい。
何とか歩けるレベルになった桜花とは違い、風間はまだ感覚が掴めず立てないという事だった。
(風間さん、背が低いからなー…)
リーチの違いで余計に感覚が掴みにくいだろうと桜花は考えた。
当たらずとも遠からずだが、
本当のところは桜花が捕虜としてこちらに来た時のように、
久々に身体を動かさないといけない状況に何度かなった経験があるため、
感覚を掴むのが早いだけだ。
まさかそんな経験がここで活かせるとは思ってもいなかっただろう。
――で、桜花が自分の姿(風間)がいる部屋に行くと、
そこには床に倒れている自分の姿が……。
なるほど、これは確かに無様である。
少し前までこの姿を皆に晒していたのかと思うと…思わず桜花は頭を抱えた。
見た目は風間なので他人から見たら風間が頭を抱えているようにしか見えないが。
トリガーオフできない今、こんな状態の自分(風間)を放置するわけにもいかない。
元に戻るにはどのみち一緒にいた方が効率的に違いない。
桜花は自分(風間)を担ぎあげた。
もう少しで感覚が掴めそうな気がしたが仕方がないと風間は妥協したらしい。
動ける桜花に全てを託した。
「冬島のところに行け」
どうやら犯人は彼らしい。
道中、理由を聞けば、
彼はトラップ開発も担っており、大変有り難い開発をしてくれるらしい。
そしてそれは隊員にとっては物凄く迷惑な事が多い。
開発した罠を試してデータを取りたかったのかもしれないが、
いつもなら依頼したりするのだがその工程を吹っ飛ばしたことを考えると徹夜漬けか、
今回の試作内容を考えて承諾してくれる者がいないと思ったのだろう。
それが事実なら……やはり斬ろうと桜花は思った。


「冬島!」

呼ばれた冬島、そして隣にいた当真はぎょっとした。
いつもなら冬島を敬称付で呼ぶ桜花が何故か呼び捨て。
振り返ってみればそこには風間が桜花を担いでいる。
その何ともいえない光景に冬島は遂に臨界突破したのかと思ったくらいだ。
しかし同じように当真が珍しく驚いているため夢ではない。
彼等の「元に戻せ」という言葉を聞いて二人は状況を理解した。
「まさかお前さん達がなー……」
次の瞬間、風間(桜花)がスコーピオンを伸ばした。
生け捕りにする気、満々だ。
冬島は咄嗟に当真を盾に…盾にされた当真は思わず相手の攻撃を防ぐためにシールドを展開する。
「隊長〜酷くねぇ?」
「だって、アイツ等本気だ」
「隊長の自業自得っすよ。ってか、俺、巻き添え…」
担ぎながらの行動に不便を覚えたのか、
風間(桜花)が自分(風間)を投げ捨てる。
風間の方もようやく桜花のトリオン体の操縦になれたのか、
なんとか着地に成功する。
だが、思ったように素早く動けないのは大分ストレスだ。
(こんなもの登録していたか)
ランク戦中に使用されなかったそのトリガーを風間は迷わず使用する事にした。
慣れたとはいえまだまだ動きがぎこちない。
選択する行動は限られてくる。
「明星。スコーピオンの使用を薦める」
今の身体では使いにくいと言う桜花(風間)の孤月から鞭のような斬撃が繰り出され、
風間(桜花)はスコーピオンを伸ばして追い討ちをかけた。
「今後の参考にするわ」
実際罠として使われたら苦労する事を身に沁みた桜花は結構本気でスコーピオンの使用について考えた。


「え、なんなのアレ」

冬島隊と風間・桜花が本部の通路で堂々と交戦している現場を目撃してしまった隊員は言う。
女言葉の風間といつも以上に逞しい……いや、粗暴な桜花に、
見てはいけないものを見てしまったと後悔する。

戦闘の果て、意図して戻せないと白状された冬島に当真も同情した。
その後二人がどうしたのか……というと、
冬島に張り付き早く何とかしろと精神攻撃を仕掛けたとだけ言っておこう――。


20160306


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