過去と現在
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ボーダー本部会議室。
ここに城戸、忍田、沢村、太刀川、冬島、風間、嵐山、三輪、東、迅がいた。
「最近、汎用型トリオン兵とは別に新たなトリオン兵が目撃されている事は皆も周知の事実だろう。
その結果、開発室にいるエネドラから新たな国が攻めてくる可能性が示唆された」
以前のガロプラとの防衛戦でも使用したレプリカが残した軌道配置図をみると、
接近してくる国家はない。
エネドラの話が本当だという前提で考えると、
接近してくるのは軌道が決まってない…つまりは乱星国家だという事だ。
こちらの世界に捕虜になる前、
エネドラはアフトクラトルの戦闘員だった。
彼は国々の下回りはしないが、
本国に攻めてきた敵や、
遠征に参加した時の国の記憶ぐらいは持っている。
興味がなければ忘れるエネドラがこの国の事を覚えていたのは、
ハイレインに似て陰湿という事だった。
…私怨が入っているため本当かどうかは大分怪しいが、
今回はエネドラの記憶に残っていて有り難いといったところだ。
勿論、前回の協力があったからといって、
エネドラの情報を百パーセント信じる事はしない。
その情報を確定づけるために、
ボーダーは迅に働いてもらっていた。
そして今日、迅からの報告を兼ねて今後の対策を練る事になっていた。
緊迫した雰囲気の中、迅は静かに告げた。
「近界民からの襲撃があるのは確定しました」
迅の言葉に周りの雰囲気が更に緊張したのが分かった。
「確定したという事は、何か視えたのか?」
「ああ、ボーダー隊員が何人かやられている。
街への被害も幾つか視えた」
「…近界民の狙いはトリガー使いという事か?」
「恐らくは」
迅が視えた未来で確定しているのはボーダーへの被害。
その内容は生死が関わるものだったり、
向こうへ連れて行かれるというものだった。
誰がどうなるかと具体的には言わなかったのは、
まだその情報は不必要なものだからだ。
ここでやるべき事は対策を練る事。
そのために不必要な情報または不確定なものを伝えると余計に混乱する事もある。
流石にそこは弁えていた。
「エネドラが言う乱星国家かどうかは情報が足りないのでなんとも言えないけど…」
「確かに襲撃があるだけでその国だと決めつけるのは早いな」
「迅が視たものをはっきりさせるために、
一度カニ野郎と擦り合わせした方がいいんじゃないの?」
「確かに具体的な対策はそれからでも遅くはないでしょうね」
迅、風間、冬島、東が続いて発言した。
因みに東が言う具体的な対策とはその国の侵攻にあわせた防衛策の事である。
無論、本当に攻めてくる敵がその国とはまだ決まっていないので、
いろんなパターンの防衛戦術は考える必要がある。
それは迅が視た未来の情報から推測して用意するのが常であった。
「迅、他に提供できる情報は何かあるか?」
「確定しているのは敵は何日もかけて攻めてくるって事ですね」
「長期戦か」
「…でも、トリオン兵を送り込むにも結構なトリオン使うんじゃねぇの?」
「トリオン供給の源があるって事でしょ。
今回はそこを潰さないといけないって事ね…こりゃ、エンジニアも調整しないとやばいな」
「今回が三門市に起こる三度目の大規模侵攻となる。
皆、文字通り一生懸命働いてもらう」
次に起こる大規模侵攻の対策会議が行われていると知らない隊員達は、
各々に過ごしていた。
「行ったぞ槍バカ」
「りょーかい」
聞こえてきた声とともに、三体のトリオン兵がこちらにやってくる。
一体目を米屋がトリオン兵の懐に飛び込んで槍で一突きした。
続いて二体目を桜花が孤月ではなく、
トリオンキューブを出してそのままトリオン兵に撃ち込んだ。
どうやらアステロイドらしい。
真っ直ぐ飛ばして相手にダメージを与えるが、
その攻撃だけでは仕留めきれず、もう一度アステロイドを放った。
三体目は彼女の間合いにいるので、
いつもなら桜花が倒す予定だった。
だが、慣れない武器のため少しもたつきがあるというか…
このままではノーダメージは無理だと判断した出水が、アステロイドを放ちトリオン兵を倒した。
自分が使用している武器を至近距離で見て、
桜花は純粋に感心した。
本日の防衛任務は桜花、出水、米屋の三人だった。
ある程度気心が知れているため、
楽だし、お互いが愛用している武器も、戦闘スタイルも知っていた。
だから二人が彼女のメイントリガーである孤月ではなく、
射手用トリガーのアステロイドを使用した事に純粋に驚いた。
…なんというか合ってないのである。
「桜花さん、なんでアステロイド?」
「気分?
そろそろ違うネタを使えるようにしておこうと思って」
彼女の言葉に二人の脳裏には太刀川の姿が過った。
…というのも、
最近連日のように行われている桜花と太刀川のランク戦は戦闘狂でなくても耳に入ってくる。
無論ランク戦の勝敗も耳に入り、
桜花が連敗していた。
毎回負けているのにそれでもランク戦をするなんて馬鹿じゃないかと発言したどこかの隊員が、
桜花にぼろ負けし、ポイントを奪われたというのもよく聞く話しだった。
だからだろうか。
彼女の言葉を聞いて、太刀川に勝つための技を模索中なのだと二人は思ってしまった。
「――にしても、下手すぎでしょ。
桜花さんのあの距離、完全に攻撃手の間合いですよ。
別に駄目じゃないけど、あれはそういう場面じゃないですよね」
「そうね、拳銃型トリガーと同じ感覚だったけど、大分違うのは分かったわ」
「――という事は桜花さん、今初めてアステロイド使ったって事?」
「そうだけど?」
「うっわー桜花さん、今、防衛任務。
何かあったらどうする気ですか」
「このメンバーだから余程の事がない限り大丈夫でしょ」
桜花の言葉を聞いて、
それだけ信用しているのかと感動しそうになった二人は、
続けざまに言われた彼女の言葉に我に返った。
「それにこっちに戻ってくる前は、
渡された武器でいきなり戦争に立たされた事もあったし」
米屋は前回、遠征に行った時の事を思い出す。
確かにあの時も、使用した事ないトリガーを起動させてそのまま戦っていた。
桜花はそういう人間だった。
「でも、練習する時間も空間もあるのに、
わざわざリスクを犯す必要はないですよね。
そんなに太刀川さんに勝ちたかったんですか」
「(ん、太刀川??)
ま、いきなりでどれくらい出来るのか知りたかったね。
射手系トリガーって自由度はあるけど補正効かないし、面倒だわ」
「何言ってるんスか!
自由度が高いのが射手の醍醐味でしょ!!」
「流石、弾バカ」
「うるせぇよ槍バカ!
腕が落とされてもベイルアウトさえしなければ戦い続けられるのも射手系トリガーの強みだろ!」
「確かにそうなのよね。
そういう意味ではスコーピオンもそうなんだけど」
真剣に考える桜花の姿を見て、奇策を用いてでも太刀川に勝ちたいのかと二人は思った。
だけど本人が考えているのは、
左腕の操縦が上手くできないタイムロスをカバーするにはどれがいいかという事だった。
動かさなくても自分の意思で戦う事が出来る射手系トリガー、
そしてスコーピオンは今の桜花にとって都合がいい武器だった。
迅に忠告された今、
できる手を増やす事は、
桜花にとって必要なことだった。
なぜならば――…
(まただわ)
桜花の左腕に走る痺れ。
心臓を鷲掴みされたかのような首の締めつけはトリオン兵を倒す度に起こっていた。
見覚えがあるトリオン兵は嫌な予感を確信に変えていく。
(近づいている敵はあそこか…)
空中を旋回する飛行型トリオン兵を出水がアステロイドで撃ち落とした。
「何もしてこないところを見るとこのトリオン兵は偵察専用という事か?」
「バドだっけ?あれも一応攻撃してくんのにな」
「トリオン兵にもそれぞれの用途があるんだからしょうがないんじゃない?
なにはともあれ、落とした方が助かるし」
「確かに」
いつも通りの防衛任務、いつも通りの会話をしながら、
無事に任務が終了し、
桜花達は本部へ帰還した。
「そうだ、久々にランク戦しね?」
急に言いだしたのは米屋だ。
確かにそれもいいかもなーなんて返事をする出水に、
ため息交じりに突っ込んだのは桜花だった。
「アンタ達、この後学校でしょ。
ちゃんと行きなさいよ」
「やべー、桜花さんがまともな事言ってる」
「私は割とまともな事言ってるわよ」
桜花は米屋に蹴りを入れる。
本気ではないとが、トリオン体なため威力はそこそこある。
蹴りを受けた方もトリオン体なので支障はないが…
この中で一番年上である桜花だが、
前科があるせいか説得力は皆無であった。
「そんなこと言わず桜花さんもやらね?
ジュース奢るし」
「仕方ないわね、一本だけなら付き合ってあげるわよ」
「……毎回思いますけど、
桜花さんって案外単純ですよね」
「そんな事言うならやらないわよ」
「余計な事言うなよ、弾バカ。
被害受けるのオレなんだけど」
こうなったら断る前に…と米屋はすぐそこにある自販機にダッシュしてすぐさまボタンを押した。
出てきた缶ジュースをそのまま桜花に投げつけた。
反射的に桜花は左手でそれを受けとめた。
「これでランク戦!」
「槍バカそんなに飢えてんのかよ…」
「最近マスタークラスの攻撃手捕まんないんだって!
チャンス逃してられっかよ」
「マスターって8000ポイント以上だったわよね?
悪いけど私そんなに持ってないわよ」
「桜花さん明らかにマスタークラスじゃん?」
「マスタークラスでもB級やっている奴いるし、
ポイント減点されてマスター以下の人もいる。
強い奴が必ずマスターポイントを持っているとは限らないですよ。
ま、強いかどうかの一つの基準にはなるけど」
出水の説明を聞きながら、
桜花は米屋に渡されたジュースに口をつける。
向こうの世界では強い人間ほど弱く見せたり、
隠すのが上手かった。
要はそれと同じだろうと納得した。
ランク戦分前払いされてしまったので、
付き合ってやるかと個人ランク戦ブースに向かっているところ、
桜花は忍田に呼び止められた。
「明星くん、少しいいか」
こちら側の世界に来た時何度か顔を合わせた人だというのは思い出したものの、
どの立場の人間かは思い出せず、
すぐに返事が出来ずにいた。
隣から忍田本部長だという言葉を聞いて、
物凄く偉い人だという事が分かったものの、
なんでそんな人間から呼び出されなくてはいけないのか理解できず…いや、
思い当たるとすれば遠征の事があるが、
それくらいである。
正直、このタイミングで偉い人とは関わりたくない桜花は逃げ道がないかと探すが、
組織に属している時点で無理な話だ。
「あー…米屋、ご馳走様」
「白チビといい…オレ呪われてねぇ?」
「まー運は悪いよな」
「桜花さん、次は絶対だぜ」
「その前に、射手の動き勉強した方がいいですよ」
「はいはい。また今度」
軽く言葉を交わして、
桜花は忍田の後についていった。
「随分馴染んだようだな」
忍田の言葉に桜花は少し警戒の色を濃くした。
こちらに来てまだ半年は経っていない。
その間忍田と接点がまったくなかったわけではないが、
残念ながら冗談や厭味を言う様な仲にはなっていない。
呼び出しを喰らうという事は仕事なのは間違いない。
問題はどの程度のものかという事だ。
「お陰様で。
それで?用件はなんですか?」
米屋達と談笑していた時とは違う雰囲気に忍田は思わず苦笑した。
「警戒しなくてもいい。…と言いたいところなんだがな」
バツの悪そうな顔を見せる忍田を見て、
桜花は素直で誠実な人なんだろうと思った。
だけどボーダーの上層部にいる人間がただの善い人ではない事は分かっている。
…こういう組織は善い部分だけで動かすのは難しい事を知っている。
恐らく忍田は良くも悪くも厳しく律する事もできる人間なのだろう。
「入ってくれ」
忍田に促され部屋に入る。
そこには所謂偉い人が座っていた。
今から何が始まるのかは知らないが、
良い事ではないのは確かだった。
「…本部長直々に出迎えていただけて待遇が良すぎるんですけど、どういう事?
単刀直入でお願いします」
丁寧語を使っているとはいえ、言葉の端々からトゲトゲさが滲み出ている。
桜花の態度に一つ笑い声が聞こえた。
「いや、以前は上の空だったからどうかと思ったけど、
今回はちゃんと空気を読んでいるみたいだね」
「私は常々思っていましたが、
唐沢さんそういうところを楽しまれるのはどうかと思いますよ」
「性分なんですよ」
その声の方を振り向けば、
以前嵐山隊の広報活動に参加する事になった時にいた人間だという事を思い出す。
そこは世間話のようになっているが、
それだけでこの場の雰囲気は変わらない。
そうさせないのは城戸の雰囲気だけでなく、
これから話す内容のせいなのだろう。
なんとなくそれを感じ取った桜花は、
自分が巻き込まれているはずなのに、
まるで他人事のような感じで一歩離れた所から見ていた。
こういう場で感情で動くのは得策ではない。
桜花は静かに息を吐いた。
それを見計らったかのように城戸が言葉を放った。
「先程、A級部隊及び特定のB級部隊の隊長との間で会議を行った」
低い声が嫌に響いた。
冷たく淡々と喋る声は事実だけを伝えた。
「近々、近界民による大規模な襲撃が行われる事が確定している。
これは後日全隊員への通達する事になった。が、
その中でも特定の隊員には別に通達した方がいいという話になり、
明星隊員、お前を呼んだ」
「それは私に死ねという事?」
桜花の言葉にその場にいた根付、忍田が息を呑んだ。
鬼怒田はエンジニアのシフト調整と今後の対策のために席を外している。
林藤はいつもの飄々とした雰囲気はなくいつになく真剣な面持ちだ。
戦争に程遠そうなポジションにいる唐沢はこの場に似つかわしくない程の営業の顔だった。
「死ね、ね…随分簡単に言葉が出てくるな」
「大規模な襲撃がある事を全隊員に通達する以外で、
特定の隊員に用があるんでしょ?
それって特攻、囮、何か隠密に行動しないといけないって事じゃないの?
少なくても今までならそうだったけど」
だからはっきり言えという桜花の言葉に唐沢は理解が早いと笑うだけだ。
林藤も今までの彼女の経験を理解しているため、
一息ついて頭を切り替えた。
本人が解かっているならこちらがどう気遣っても意味がないと理解したようだ。
…そもそも通告する時点で気遣いも何もあったものではないが…。
それは忍田も同じだったらしい。
ただ一人、根付はなんとも微妙な表情をしていた。
理屈では分かるけど、理解はできないといったところだろう。
これから起こる戦争の意味、そして自分の立ち位置を理解している桜花に一から十まで説明しなくてもいいのは楽ではあった。
だがそれがイコール気が楽になるとは違う。
何せ大事な事はここからなのだ。
「解かっているなら話は早い。
明星隊員。
お前にはボーダーのために命を懸けて働いてもらう」
「嫌よ」
桜花は即答した。
そこにはなんの躊躇いもなかった。
あまりの潔さに林藤が噴き出した。
「そりゃ、そうだよな。
素直にはいと答えるよりはよっぽど真理に近い」
「ご理解していただいてありがとうございます」
「ボーダー隊員として任務は絶対であり、遂行する義務があるはずだが?」
「あー私、ここの直属だから命令は絶対だったかしら?
でも拒否権はあるでしょ。
それにその気になればボーダー抜ける事だってできる」
「除隊したところで、お前に行く宛てはないだろう」
「そこなのよね。
今になって思うけど正直やられたわ。
最初は最低限の生活と権利は守るって言われてそれだけでいいと思ったけど、
ここで過ごす事を決めたらそれじゃ駄目なのよね。
玄界では明星桜花は近界民に攫われたまま行方不明。
私は今ここにいない人間だもの。
ここでの生活は保障できないわよね」
元の世界だから逃げる必要はない。
そう分かって一度、ここで過ごす事の覚悟は決めていた。
二度目の覚悟もここで生き抜くための足掻きに対してだ。
…だが、心の何処かでやばくなればここから離れればいいと傭兵時代から刷り込まれた認識がここにきて仇となった。
信用が得られるだけの程よい距離感を保つ事を心掛けていたはずだった。
なのに、ここまで依存するとは桜花は思ってもいなかった。
それは良い事なのか悪い事なのかは分からない。
問題を先送りにした結果、
桜花にとって悪い方に働いているのは間違いなかった。
今回も失敗した…。
麟児の事を言えたものではないなと桜花は思った。
あの男は自分よりも賢いから、
この意味が分かって、自分よりも上手くやり過ごすのだろうと考えると少し苛々した。
「そう思うとボーダーからしてみれば私は都合のいい駒よね。
私が消えても損はしない」
「そこは謝ろう。すまない。
正直我々はきみが信頼に値する人間だと最初は思ってもいなかった。
だが、共に戦う隊員達の方がきみを受け入れるのが早かった。
その時点で我々は然るべき対応をしなくてはいけなかった。
本当にすまない」
「…私は謝罪が欲しいわけじゃないんだけど」
命令をきかないというならトリガーを没収してのボーダー除隊、または監禁するのが濃厚だ。
桜花は今、敵陣に一人でいるようなものだ。
いつ仕掛けられてもいいように神経を張り巡らせていた。
「ボーダーにいる限りどんな命令でも従ってもらう。
それができなければその場でトリガーを没収及び監禁させてもらう」
予想していた言葉に桜花は笑う。
「随分穏やかじゃないわね。
トリガーがなくなった私にそこまでしてくれるの?
ボーダーは今回の防衛は物凄く余裕があるって事?」
「はは、明星は大胆すぎるからなー。
城戸司令には目について痛いって事さ」
トリガーに手を掛ける桜花に忍田が反応する。
その隙のなささから相手が相当な手練だという事が分かる。
それに、例え忍田をかわしたとしても、
他の隊員が待機していないとは限らない。
この世界の実力者達の力を知っている桜花は、
数で攻められたら遠征艇奪っての逃亡は難しいなと考えた。
「明星くんにとってこの状況でトリガーが手元からなくなるのは避けたいところだろう」
あがった声に明星は一瞬黙ったが、素直に返事をした。
「当たり前でしょ。
敵が来ると分かってて武器を持たないなんて選択肢はありえないわ」
「私達も同じだ。
使える駒をみすみす遊ばせておくわけにはいかない」
「その通りだ。
他の隊員と同じように働いてもらう。
見返りとして、
明星隊員を正式にこちら側の世界に戻ってきた者とし手続きを行う。
無論、最低限の生活と安全の保障は引き続きすると約束しよう」
今回はこれだけを伝えたかったようで、
話は意外にもここであっさりと終わった。
「通達は追ってする。
それまではいつも通り過ごして貰おう」
一体何なのだと突っ込むよりも先に、
桜花はその言葉とともに部屋から追い出された。
丁度、部屋の外に菊地原がいたようでばたりと会った。
「何で菊地原がここにいるのよ」
「アンタと違って僕は仕事」
「は?私だって仕事だったわよ(多分)」
「遠征の時も思ったけどアンタさー…」
「何?」
「……別に。
僕達に迷惑掛けなければそれでいいよ」
「それってどういう…」
桜花の質問を避けるように、
菊地原は会議室に入って行った。
その姿を見て、菊地原も自分と同じ用件なのか、
それとも別件なのか…と考えて、
桜花は息を吐いた。
いつも通り、だ。
向こうにいた時と変わらない。
既に感じている戦場の空気に桜花は拳を握った。
20160816
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