過去と現在
任務
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「心音を聞く限り、
少し苛々していたけど割と平常心というか…興味がない、
慣れている、もしくは知っていた。
そんな感じですよ」
菊地原の言葉を聞いて上層部の反応は様々だった。
「それでは迅くんが視えたという未来の解釈はどうとでもとれますね」
「確かにこれだけの情報では対処を決めかねるね。
もう少し判断材料をそろえないと」
「その暇があればいいんですけどねー。
ま、臨機応変に対応しましょうや」
近々、近界民の侵攻があるというのに…
目の前に話しあわれているのは桜花の今後の対応だ。
(僕達に迷惑掛けないでよって言ったのに…)
菊地原は静かにため息をついた。
「はぁ!?」
時と場所は変わってボーダー本部のラウンジ。
突如聞こえてきた桜花の声に、
思わず三輪は凝視してしまった。
三輪がそこにいたのは偶然ではなかった。
そこは何の変哲もない日常の一コマで、
恐らく桜花の反応もいつも通りの反応なのだろう。
目の前には桜花と月見が何かを話していた。
自分の隊員とはいえ、全員の動きを把握しているわけでもないし、
人間関係も把握しているわけでもない。
だが、三輪の記憶が正しければ、
月見と桜花の仲は悪くはないが良くもなかったはずだ。
三輪隊でいうなら彼女を慕っているのは米屋だったと認識しているが、
単純に米屋のコミュニケーション能力が高いだけなのかもしれない。
かくいう桜花も最低限の場を読むことはできる人間のようで、
それなりに人付き合いはあるようだ。
特につるむのは戦闘能力の高い隊員や、
自分が生きる上で必要だと認識した者がほとんどだったりする。
最初の接触が最悪だった三輪にとって、
明星桜花は行動が無茶苦茶で、
他人の命なんてなんとも思っていない非情な人間…という認識しかなかった。
それは今でもあまり変わらない。
彼女の行動が無茶苦茶なのは相変わらずだ。
だが、先日近界遠征に一緒に行って、
彼女の行動の原理がなんとなく解かった。
それが明星桜花という人間の認識を改めるきっかけになった。
…なったのだ。
なのにその矢先、近々近界民が攻めてくる未来が決まっており、
その侵攻の対策の鍵(まだ確定はしていない)と考えられる桜花を監視するのだから、
正直、三輪の戸惑いは、
近界民である遊真の存在をボーダー上層部が認め、受け入れた時と同等、
もしくはそれ以上のものだった。
彼女の監視はこれが初めてではない。
初めて桜花を監視していた時は、
彼女がこちら側に来た…戻ってきたばかりで、
スパイ容疑が強く、ボーダー…いや、こちら側の世界に害なす者かもしれない。
その線が濃厚で、常日頃から警戒するのに躊躇いはなかった。
だから必要最低限でしか関わる気はなかった。
それがボーダーが彼女を信用し、
そして共に戦ってきた周りの隊員が彼女を信頼し始めた。
三輪だって少しだけ意識を変えた。
…あの時と状況は少し違ってきていた。
歩み寄ろうとしていた気持ちを止め、
再び距離を取ろうとするのは意外と難しいらしい。
任務だというのに完全に割り切れていない三輪は、
気付かれないようにという意味も込めて、
遠巻きに監視対象を視ていた。
しかし、こういう時の桜花の勘は鋭いらしい。
桜花は三輪の方に視線を向けた。
二人の目が合う。
見つかってしまった…そうなるともう終わりだ。
桜花はあの時と同じように躊躇いもなく三輪に話しかけてきた。
しかも三輪には理解できない言葉で…。
「三輪じゃない。どうせ任務なんでしょ。
めんどくさいから一緒にどう?」
「は?」
任務でめんどくさいから一緒にという列挙された言葉に繋がりがない気がするのは気のせいか?
そして何を一緒にするのか目的が分からない。
一応極秘で行われている任務で警戒心が上がっていることもあり、
何言っているんだこの女…と思わず睨みつけた。
その視線を正しく汲み取ったのか否か、
あ!と気付きましたーというリアクションをして何食わぬ顔で桜花は言う。
「月見が奢ってくれるって」
つまりは食事のお誘いらしい。
親しくもないのに何故誘うのか…余計に理由が理解できなかった。
「そうね。夜に防衛任務入っているし、三輪くんがよければいいんじゃないかしら?」
月見の言葉で三輪は我に返り、冷静になるように努めた。
確かに三輪隊はこの後、防衛任務になっている。
三輪の極秘任務というやつはそれまでで、
そこから先は何かあった時、
彼女を処理できる力を持っている別の隊員がやる事になっていた。
そこで先程の桜花の「どうせ任務なんでしょ」という言葉の意味を三輪は理解した。
では、こちらに気付いたのはたまたまなのかもしれない。
そう思う事にした。
だからなのか、その後に続く彼女の言葉に何も気づかなかった。
「あ、そうなの。
夜の任務ってあと二時間くらい?
早く食べに行くわよ」
「別に二人の食事代を出すのはいいけど、
あなたはもう少し遠慮する事を覚えた方がいいんじゃないかしら?」
「遠慮してもいい事なんて何もないでしょ」
「他の人ならそうかもしれないけど、あなたは別よ。
明星さんはちゃんと集団行動を意識する事と、
指示をちゃんときく事を徹底した方がいいと思うわ」
「そんな正論、余計なお世話よ」
「あら、正論だという事は認識しているのね」
「…顔に似合わず結構言うわね、お嬢様」
「そう思うなら行動を改めるべきね。
あなたとはきちんと時間を作って話そうと思っていたからちょうどいいわ」
「え、そんなに…」
「ええ。このままだと太刀川くんの二の前になりそうだもの」
「え…」
太刀川という言葉に桜花は少し動揺した。
「あんな奴と一緒にされるなんて心外なんだけど」
「私からしてみれば、二人共似たようなものよ。
戦闘しかできなくておまけに興味も持てない。
その他がだらしがないところもそっくりね」
「ちょっと止めてよ」
目の前で行われる言葉の応酬に、
また別の意味で戸惑った。
この流れは三輪には覚えがある。
あれは太刀川が月見に戦術を教わる事になった時か、
それとも自分が戦術を教わる事になった時か…。
「もういいから、行くわよ」
桜花の言葉に月見はため息をついた。
そして、三輪に「一緒にどうかしら?」と普通に誘った。
桜花の言葉には躊躇ってしまうが、
今まで共にしてきた仲間の言葉はすんなりと聞けるもので…、
三輪は一瞬躊躇ったが、
あと二時間の極秘任務だと自分に言い聞かせて、
渋々承諾し、同行したのだった。
20160919
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