過去と現在
ランク戦
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※ランク戦解説サイドから見た話です。
※スタアメーカーのマーカー時間は原作には明記されていないご都合設定となっています。
※原作の先である六月のランク戦です。
きっと彼等は上位グループ入りしたと思ってみて下さい。
ボーダーでは各隊員の実力向上のためにいろんな催しをしていた。
狙撃手の合同訓練や個人ランク戦。
それだけではなくチームランク戦というものを年に三回行う。
ソロで動いている桜花は無関係そうに見えるランク戦。
そのランク戦で解説係として任命されたのは一週間程前、
月見の口から伝えられた。
ランク戦の解説はボランティアのようなもので、
収入が得られないなら、正直やる意味がないと桜花は思っている。
その間、防衛任務なり訓練室で技を磨くなりできるはずだ。
…その中にランク戦の試合模様を見るという選択肢が存在しないのは、
実戦に勝る訓練はないという考えがあるからだ。
観戦する事で戦術を盗む事ができるのも分かっているが、
ボーダーのB級部隊から得られるものに期待していないというのと、
自分が置かれている状況を考えてそれどころではないというのが本音だ。
前者のような考え方をしているのは、
B級でも強い人間がいる事を彼女が認識していないからだ。
桜花の日常というものは、
腕を磨くために強いA級隊員と戦い、
なくなったポイント補給するために弱いB級隊員を相手にするという極端なランク戦しかしていない。
A級隊員とつるむのはボーダーに入隊した経緯が関係しているし、
強い者大歓迎という考え方をしている一部の隊員の厚意に、
丁度いいから甘えておこうという感じで絡んでいる。
先の大規模侵攻で隊員の実力を知った桜花は、
B級で強い隊員は遊真みたいな存在(近界民)や、
A級からB級落ちした二宮達みたいな存在しかいないと考えている。
他にも何人か手合せして上手いなと感じた隊員もいたが、
強いと思える隊員はそんなにいなかった。
桜花が重要視しているのは相手を殺せるかどうか、
活路を見出せるかといった戦争においての戦術で、
戦いが上手い人間ではなく強い人間だ。
だからランク戦という公的な試合において自分には不必要なものだと判断している。
その他のB級隊員は皆変わらないでしょと大変失礼な事を思っている。
そんな事を風間の目の前で言えば拳の一発二発どころでは済まないだろう。
…分かっているので言わないが。
それだけA級とB級の間には実力の壁が存在すると思っている。
桜花は知らない。
B級にはソロよりチームで動いた方が倍の実力を出せる人間がいる事を。
そしてB級上位グループはA級予備軍と言われるほどの猛者である事を。
…これらはA級と玉狛支部の人間くらいしか付き合いがない桜花には知る由もない話だった。
そんな桜花の事情はさておき、
ボランティアのはずなのに拒否権がなく、
不本意ながらも解説役として参加することになった。
彼女お得意の逃走も披露する事にならなかったのは、
上層部とのやり取りがあったため、
暫くは大人しくしておこうという考えからだった。
あれだけ啖呵をきっていても、
彼女の中で今は様子見で、動くべき時ではないと思っている。
勿論、根拠はない。
ただの勘だ。
そしてもう一つの理由として、
同じく今回の解説役としてよばれている嵐山に直に捕まったのだ。
…本人は厚意で迎えに来ただけだろうが、
桜花にとってはそうではない。
軽く連行されている気分だった。
誰の差し金か…とも考えたが、
嵐山なら普通に行動しそうなのでその線はないだろう。
「桜花ここだ」
「あーはいはい」
嵐山に引っ張られ桜花は座った。
会場前には大画面があり、
そこには今回のランク戦の対戦する各隊名とその隊員が映し出されている。
どの隊が戦うのか興味がなかった桜花は今、対戦する隊員達を知る。
今から戦うのは影浦隊、鈴鳴第一(来馬隊)、香取隊、諏訪隊。
どうやら四つ巴らしい。
その中で桜花が知っているのは、
先日玉狛で飲み会をした諏訪と堤と来馬だ。
あと、遊真と練習する時に一度ログで村上の戦い方を見たくらいで、
他は皆知らない隊員だ。
「おお〜二人とも時間ぴったり!
全員揃ったところで本日の夜の部のランク戦開始しま〜〜す。
こんばんは〜実況の国近で〜〜〜〜す!
今日の解説は嵐山さんと明星さん!
何気に初の組み合わせだね〜。
今日はよろしくお願いします〜」
「ああ、よろしく頼む!」
「…誰?」
実況を務めているのは見知らぬ少女。
自分の名前を知っているようだが、初めて見る顔に桜花は目を細めた。
「あ、そういえば明星さんとは実際は初対面だね〜。
わたし、太刀川隊でオペレーターやってる国近です。
いつもうちの太刀川さんがお世話になってます」
「あー太刀川のとこの」
「そうそう、この前太刀川さん凄くご機嫌だったからまた遊んであげてね」
まさかのランク戦の実況中に太刀川の話題になった。
連日太刀川にやられている桜花だが、
対戦相手である太刀川はご満悦らしい。
…あまり嬉しくない。
桜花の顔が一瞬にして不機嫌になった。
口にはしていないが誰が遊んでやるかとその空気が語っていたが、
今は公の場であり、実況と解説は国近と嵐山だ。
ポジティブな二人はこういう類の空気を読むのが苦手な人種なため、
華麗にスルーした。
軽く話しているうちに、大画面には今回のマップが表示される。
「諏訪隊が選んだMAPは市街地A。
ランク戦でよく選択される標準MAPです。
天候も雨で視界が少し悪いね〜」
「攻撃手、銃手に有利なMAPだな。
天候は狙撃手への軽い嫌がらせだろう」
「狙撃手…て、あー諏訪さんのとこ狙撃手いないのか」
「お、明星さん今隊員とポジションを知った感じだね」
「正直どうで…っ!?」
言葉を言い切る前に後ろから衝撃を受けた。
恐らく後ろの座席に座っている誰かが蹴ったのだろう。
文句を言おうと振り返れば、何故か腕を組んでいる風間が桜花を見下していた。
その目は言う。
向上しようと勉強しに来ている隊員に対して配慮して物を言えと。
言葉にしていないが、そう言われているような気がして桜花は黙って前を向き直した。
「…誰がどのポジションでも叩き斬れば済む話でしょ」
「明星さん、太刀川さんみたい〜」
国近の言葉に桜花は頭を抱えた。
先日月見にも同じような事を言われたが…アイツとは違うと声を大にして言ってやりたかった。
そんな桜花に対して、
ログの見方を知らないから見ていないと嵐山は判断したらしい。
「ログを見るのもいい勉強になるからな。見方が分からないなら教えるぞ」と、よく分からないフォローが入った。
そして嵐山の言葉に会場が一瞬ざわついた。
…何故だ。
この数分でたくさんの事が一気に起こった感じがして、
始まってもいないのに桜花はどっと疲れていた。
「それではB級ランク戦、全部隊転送開始!!」
ランク戦は実に滅茶苦茶な展開だった。
諏訪隊が固まって敵の攻撃手を一人ずつ潰していくと桜花は思っていた。
だが、マップ上には三人の居場所が分からず、
位置が分かっても姿が見えない者が三人いた。
ランク戦をしている彼等には誰がバックワームをつけて、
誰がカメレオンを起動しているのか分からないかもしれないが、
観戦席にいる者は誰がどれでどこにいるのか分かる。
バックワームは分かりやすいかもしれない…北添と絵馬と別役の三人が使用。
そしてカメレオンを起動しているのは笹森、三浦、若村の三人だ。
カメレオン組は奇襲するのかと思えばそういう動きにはみえない。
影浦隊は各々で動いている印象だ…というか影浦が他の隊員に興味を示さず村上に向かって一直線だった。
対する鈴鳴第一の方は村上を援護するためか、来馬と別役が村上と合流しようとしていた。
「この黒いの、来馬さんとこの隊員に一直線じゃない。
因縁でもあるの、それともやりやすいの?」
「影浦は好戦的だからな。
攻撃手ランク四位の村上から倒したいんだろう」
「そうだね二人とも仲が良くて、
お互いの手の内を知っているからっていうのもあるね〜。
この試合で勝つには倒さなくちゃいけない壁ってやつだね!」
「でもこれ削り合っているところを倒すって感じの動きじゃないでしょ」
諏訪隊、そして香取隊の動きは明らかに二人を避けている。
違うところから潰す感じの動きだ。
頭の悪い桜花にはさっぱりな展開だった。
しかし事態が動くのは早かった。
突然の砲撃がそれぞれの隊員目掛けて放たれた。
皆当たっていないようだ。
「出ました〜ゾエさんの適当メテオラ」
「は、何それ」
「影浦隊の戦術の一つだな。
影浦隊は隊長の影浦を中心にした攻撃的な戦術を使う。
戦況のメリハリをつけるためにああやって銃手の北添がレーダー頼りにメテオラを放つのが主流だな」
「レーダー頼りってヤル気あるの?
…というか、仲間巻き込みかねないんじゃない?」
仲間の犠牲を厭わないヤリ方は、
「割と近界民寄りの戦法よね」と言おうとしたところで、
桜花は口を噤んだ。
この場で近界民という言葉を使うのは正しくない気がしたのだ。
三輪の件があってから一応考える努力はしていた。
その賜物である。
大画面を見る。
北添の攻撃は無論、影浦と村上の方にも飛んでいっていた。
影浦と村上の近くに落ちた砲弾。
二人に直撃はしなかったものの、
近くにあった民家が吹き飛んだ。
砂埃が舞う。
そんな中でも剣を交える影浦と村上の集中力は凄まじいものだろう。
そこで遠方から村上に向かって弾が飛んできた。
影浦隊の狙撃手である絵馬が村上を狙撃したものだった。
だが、その攻撃が村上に当たる前にシールドが張られる。
これは援護に駆け付けた来馬によるものだ。
「あーゾエさんの適当メテオラからの絵馬隊員の狙撃!
だけどこれは来馬隊長がシールドで防いだ。
どうやら影浦隊の攻撃を読んでいた様子!」
「いいフォーメーションだったのに惜しい」
「でも今ので動くわね」
桜花の言う通り大画面に映るレーダーと各場所にいる隊員が映し出される。
「今ので絵馬と北添の場所が割れたからな。
分かっているうちにとりにいくのは定石だ」
「笹森隊員、そして香取隊がゾエさんと絵馬隊員を狙いに行った!」
「狙撃手面倒だから早く消したいところだし、
さっきの適当撃ちが主流ならあの攻撃も水を差されて鬱陶しいから、
狙うのは当然ね。
そういう意味でもう一人の狙撃手はよく我慢したわよね。
位置的に黒いの狙撃できるポイントにいたのに撃たなかったおかげで狙われずに済んだ」
「…普通ならそうなんだが、影浦には狙撃は利かない」
嵐山の言葉に純粋に桜花は疑問を持つ。
あの場面なら影浦隊の狙撃手だけでなく鈴鳴第一の狙撃手にとっても絶好の狙撃タイミングだったはずだ。
だけど撃たなかった。
結果的に危機を脱した形になったはずだ。
嵐山の言葉の意味が分からず「なんで」と桜花は聞き返した。
「影浦には感情受信隊室というサイドエフェクトがある。
自分に向けられた意識を全て感知できるんだ」
「は、何それ。
狙撃手じゃなくても狙ってたらバレルじゃない!」
「そうなんだよ。
だからカゲくん乱戦はもっと強いよ」
「ああ。乱戦は運と勘、そして反射神経がものをいう。
影浦にとって他の隊員に比べるとそれが優位に働くだろう」
「だとしても攻撃しなかったら落とせないでしょ。
本気で潰す気があるなら、大勢で攻めるか、乱戦に持ち込まないと無理なんじゃない?」
「明星さんの言う通り。
っとここで諏訪隊長が動いたー!」
影浦に向かって射撃する諏訪。
それにあわせて村上が一度距離をとり、来馬は諏訪にあわせるように影浦に射撃した。
しかし最初から分かっていたかのように影浦は攻撃を全て避けると、
一番近くにいた来馬に向かってスコーピオンの刃を伸ばす。
来馬の元に辿りつく前に村上がそれをレイガストで受け止めた。
その隙に別役が影浦を狙撃する。
一対多数の乱闘だが、全て影浦は捌いていく。
恐らく彼が捌ききれないくらいの攻撃をしないといけないのだろう。
周りが協力体制に入り攻撃をする前に、
また北添の砲撃が入り、場が乱された。
その隙を誰も見逃さなかった。
まずは香取が砲撃で隙ができた北添を落としにいった。
影浦が諏訪を狙いスコーピオンで攻撃する。
その最中で村上が影浦に不意打ちを喰らわせるが避けられ、
逆に影浦が村上の左腕を落とす。
逃げる事ができた機会をものにしようと諏訪が射撃したところで、
横から香取と離れて動いていた三浦が諏訪を斬りつける。
既にそこまできていたのか、堤が三浦に弾を撃ち込む…と、
戦場は動き続けている。
お互い何度もやりあっているからこそ対策に迷いがないのだろう。
…という事は一瞬の判断の遅れが命取りになる。
僅かにできる隙をどれだけつけるかが勝敗の分かれ目だった。
再度舞い上がる砂埃。
その隙になんとか避けれた三浦がカメレオンを起動して逃れようとするが、
どういう事か、諏訪隊には動きがばれていた。
先回りされ、先程のお礼だと言わんばかりに諏訪が三浦を落とした。
「堤隊員が撃ち込んだスタアメーカーで三浦隊員の位置がバレタ!
ここは諏訪隊上手い連繋で一ポイント」
「スタアメーカー??」
「ああ、銃手系オプリョントリガーの一つで、
命中した箇所にマーカーをつけることができる。
マーカーがつけばレーダーに映るから、相手を追うのに最適な弾だ」
「あーだからカメレオンで姿が見えないのに的確に対応できたのね」
「そうだよ。対隠密戦闘用に開発されたものだね」
「攻撃用の弾ではないからダメージは与えられないが、当たると衝撃は受ける。
ああいう乱戦や、他の弾と一緒に使えばスタアメーカーを使用したとは気づかれにくい。
堤さんはいいタイミングで撃ちましたね」
「それってカメレオンだけじゃなくて、
バックワーム使用されても分かるってこと?」
「そうそう。トリオンにつけられているからね。
以前、対近界民戦でも使用した事があるけど、
対象がトリオンである限り有効だよ。
時間が経てば消えるけど最短で一日くらいはマークついたままかな」
「直接ポイントに絡まないから人気はないが、
上手く使えば今の諏訪隊みたいに綺麗に決まる。
場をちゃんと見極めれば、便利なトリガーだ」
「へー(私にはあわなさそうなトリガーね、忘れよう)…」
ランク戦は佳境だ。
疑問に思った事を桜花が聞き、それを嵐山が答える感じで、
戦闘に不慣れな訓練生にも優しい感じの解説になっていたのは不幸中の幸いか。
当の本人は全く意図していないので何とも言えないが…。
途中で「上手い殺し方ね」等物騒な言葉が飛び出てたが、
それもゲーマーである国近がゲーム流に変換してフォローしてくれていた。
そんなこんなで、
このランク戦は、影浦隊の勝利で終わった。
20160920
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