未確定と確定
マナーモードになれない人

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※かっこいいボーダー隊員はいません。
※女性隊員が悪乗りしています。
※男性隊員も悪乗りしています。
※→を匂わせるような発言がありますがお遊びです。
※全体的にキャラ崩壊しています。





とある町のとある旅館にてとある有名なご一行様が宿泊に来ていた。
民間防衛機関ボーダー。
三門市にある近界民から民間人を守る機関だ。
いつも街の平和を守っている彼等のために、たまには…という事で、
急遽、慰安旅行的なノリで行われることになった。
全員で行けたら良かったのだろうが、
そんな事してしまったらその間の防衛ができないので仕方がない。
数度に分けられて開催することになったこのイベント。
今回は記念すべき第一回目として非番の隊員が集められた。
その中には桜花の姿もあった。
希望したのではない。
強制参加である。
費用はボーダー持ちで気にする事なんて何もないように思えるが、
皆で温泉入って恋バナしましょうねーという女子最大級のイベント(らしい)を聞いて、
全力で参加を拒否した。
が、そうは女性隊員代表である加古が許さなかった。
自分の出自や、懸念している身体の傷とか込みで行きたくないと伝えたが、
今回の参加者はA級隊員の高校生、大学生がメインという事で彼女の事情を知っている者や口が堅い者で構成されているので、これを逃すと行く機会がなくなるらしい。
それはそれで桜花は良かったのだが、
それじゃあつまらないと押し切られてしまったのだった。


あれよあれよと流されて、
本当に一緒に入らないといけないのか…と、
脱衣所のところまで来ているのに、脱げずにいた。
「桜花ちゃんどうしたの?」
「やっぱり私一人で入りた…」
「あら。それじゃあ何のために皆で来たのか分からないじゃない!」
「そうそう、一緒に入ろうよ〜」
「なぁ、明星さんってこういうの苦手なのか?」
「さあ?」
加古と国近が桜花に迫る一方、
遠目で見ているのは仁礼と氷見の二人。
今回参加の女性隊員はここにいる全員だ。
人数があまりいなくて寂しいとか良かったとかそういう感情の前に、
目の前に迫ってきている二人に桜花はどう反応すればいいのか戸惑っていた。
「何で二人して迫ってくるの」
「桜花ちゃんが脱がないからよ?」
「もうここまできたら女子トーク楽しんじゃおうよ」
「温泉と女子トーク関係ないわよね?」
「えー裸の付き合いしたらそのまま女子トークに発展しないかな?」
「しない」
「もう、桜花ちゃん我儘ねー。
可愛い後輩達を待たせて可哀想だと思わないの?」
思わない…が、桜花はちらっと仁礼と氷見を見る。
「早く入ろうぜ」と言う仁礼と氷見はどうでもよさそうだ。
一緒に入る事を重視しているのは目の前に二人だけだ。
「いい加減にしないと脱がすわよ」
「自分で脱ぐわよ」
「あら、つまんないわね」
諦めて皆と入る事を選択したらこの反応…
つまりどうすればいいのだと突っ込みたくなったが、
自分が楽しめればそれでいいという加古に言うだけ無駄だろうと桜花は諦めた。
悲しいかな…加古との付き合いはボーダーの中で割と長い方である。
「おーやっと終わったのか?」
「仁礼ちゃんひゃみちゃんおまたせ〜入ろう入ろう」
「っていうか、何でそんなに時間掛かってんだ?」
ここは温泉で女湯で、女性しかいない。
何を躊躇っているのかという仁礼の尤もな言葉に答えるなら身体を見られたくないという事か。
「あら、あなた何かコンプレックス持ってたかしら?
…胸が小さい、とか?」
「それは別にどうでもいい」
日頃の訓練の賜物で、一般女性に比べると桜花の身体は引き締まっている。
ボディラインを気にすることはないだろう。
では、何をそんなに気にしているのだと逆に興味を持たれてしまい、
嘘でもいいから胸が小さい事を気にしていると言えば良かったと少しだけ後悔した。
言うまで離してくれない人間に囲まれ、桜花は呟いた。
「……傷」
タオルを巻いて胴体は隠れているが、腕の傷は隠せない。
近界ならいざ知らず、
戦争にあまり縁がないこちらの世界でそれらを出すのはどうしても人目を憚る。
「あなた傷を見られるの嫌なの、意外と繊細なのね」
「悪かったわね」
「明星さんのって戦争で負傷した時のものだろ?
ボーダーの奴なら大体知ってるから気にしなくてもいいんじゃないの?」
「……確かにそうね」
そういう設定だった事を皆思い出す。
氷見はある事情により二宮隊系列で事情を知っているが
仁礼だけは彼女の事情を知らない。
あの設定はこういう時に活かされるのかと桜花本人は少し感動していた。
そしてその後に続く仁礼の言葉に驚かされた。
「それに傷痕があってもなくても明星さんは明星さんだろ」
確かに、そうではあるのだが…。
仁礼がボーダー隊員だからか、その性格だからかは分からない。
だが、自分の事を何も知らない女の子にここまで言われたら、
いつまでもぐずぐずしているのはいかがなものか。
…というか自分の性にあわない。
加古も言っていたがそういうところで繊細でいる必要はないのだと、
いいのか悪いのか…桜花は開き直った。
「なら問題ないってことだね〜」
国近がふわっと丸く収めたところで女性陣は脱衣所を出て、
浴場へと足を延ばした。


対してこちらはむさ苦しい男湯。
太刀川たちが入っていた。
羽を伸ばして彼等の話は日常の話から好きな女性のタイプ、
身体の部位のどこが好きかという話までしていた。
この手の話が出た時点で既に辻はベイルアウトし、
ただでさえ無口なのに更に口を閉ざしている状態だ。
それでもこの場にいて付き合うくらい、
一応先輩を立てている…一応は。
「じゃあ、ボーダーでいうと誰が好みなんだ?」
「太刀川さんそれ本命でって事っすか?」
「本命いるなら言ってもいいけどお前等いるのかよ?」
「いねーわ」
「いねーな」
「なんでや、皆カワイイやろ!?」
そしてこんな感じで面白可笑しく話していた。
「それで君たち誰かいないの?」
「那須」
「熊谷」
「二人ともカワイイな」
「理由は想像つくけど理由は?」
「リアルタイムで弾道引ける」
「戦って楽しい」
「二人とも強くてヤバイな。カワイイわ」
「イコさんぶれないねー」
「何言ってるんや。女の子皆カワイイやろ!」
「じゃあお前加古とか明星にも言えるのかよ」
「カワイイやろ」
あまりのテンポの良さに若干流れに乗って答えているだけではないかと皆思ってしまった。
しかし、生駒は訂正する気もないようで、
寧ろ堂々と言い放った…ある意味かっこいい。
「加古は炒飯食わせて殺してくるし、
明星は平気で人体急所狙ってくるし…、
アイツ等を女使いするのかよ」
「女に殺されるなら本望や」
「生駒スゲーな」
「逆に太刀川さん何したんすか」
タイミング的には太刀川の発言に後輩たちが軽く引いている時だった。

「うわあぁあぁ!!?」

衝立の向こう…女湯から悲鳴が聞こえたのだ。
リラックス中に一体どういうことなのか…と、
皆して呆けてしまった。

「桶が命中したわね」
「誰だお前!?」
「今はここボーダーの貸切だよぉ?」
「国近先輩そうではありません。
男性がここにいる事が問題で…」
「た、すけてくれーー!!!」

何故か男の声が聞こえる。
聞こえてくる声から察するに女性隊員もいる事は彼等にも分かった。
状況を察するに覗かれてその男をとっちめている最中なのだろう。
「あれ、これヤベーやつじゃん?」
「ひゃみさんたち危な…」
「うーん、それより紛れ込んだ人が危ないんじゃない?」
犬飼の言葉を聞いて一瞬過ったのは桜花という近界育ちの強暴な女の存在だ。
彼女は男性に対して…というか敵と認識した相手に対して容赦がない。
女湯にいる彼女達よりも加害者である彼の方が危険だった。
「そりゃ、助けに行かなあかんやろ」
「いや、イコさんここは迂闊に動くと危ないんじゃ――…」
「国近〜大丈夫かー?」
「ちょ、太刀川さん、何声を掛けてるんですか!!」
「そこに誰かいるのか!?助けてくれ――!!」
覗き男の声が近づいてくるのが分かる。
完全に助けを求めている。
え、今どういう状況なの?
割と冷静な高校生組は思考を巡らせた。
そして衝立に向かって走ってくる男は女湯から脱出したい一心なのだろう。
衝立をバンバン叩いている。
そしてその衝撃に耐え切れなくなったのか衝立が倒れてきた。
「ぐえぇ」
「イコさ――――――っん!!!」
生駒が衝立の下敷きになる。
覗き男が男湯に向かって逃げ込む。
逃げる覗き男の頭部に桶が飛んでいき、物凄い勢いで男がぶっ飛び、桶が砕けた。
たった数秒の出来事だ。
あれ、桶って壊れるのとか、
…というか男倒して解決じゃないのとか、
それよりも生駒を助けなくてはとか、
一瞬でも考えなかったと言ったら嘘になるが、
肌に突き刺さるような殺気に、
彼等は自分の身が危険に晒されている事に気付いた。

「見たわね」

その一言が自分達を排除すべき敵だと認識したと告げる。
「不可抗力…」
「お前タオル巻いてるのに見えるわけねーだろ」
「ちょ太刀川さん!なんでマジで答えてるんすか!?」
「加古さん」
「太刀川くん、あなた本当にバカなのね」
しれっと加古は桜花に桶を渡した。
そして桜花は容赦なく桶を投げつけた。
「君のとこの隊長バカなの」
「弾バカ、お前の隊長何してんだよ」
「おれのせいじゃない!!」
「お、これはよくある温泉イベントだね〜」
「柚宇さーん!呑気に見てないで部屋に戻ってください!お願いですから!!」
声と桶が飛び交う中、
加古は見られたことよりも完全に楽しむ方向へシフトしたのか、
桜花に桶を渡している。
桶を投げつけるより直接殴ってしまった方が早いのでは…と考えていた桜花だが、
反射的に渡される桶のおかげでその場に踏みとどまっていた。
「避けるな」
「避けるだろ!」
「お前等騒がしいぞ」
ガラッと開けられた扉。
投げられた桶を避ける太刀川。
桶はそのまま後方へ飛んでいき…ゴンッと何かにぶち当たった。
桜花と加古は動きを止め、
二人のそのリアクションのせいか、
男湯にいた男性陣も動きを止め、そして扉の方をみた。
温泉にいるはずなのに…おかしい。
絶対零度がこの場にいる全ての者を襲う。
「明星!太刀川!これは一体どういうことだ?」
桶がゴトンと落ちる。
声から分かってはいたが…恐る恐る顔を見る。
…間違いない。
風間だった。
「よ、避けた太刀川が悪い…!」
「投げた明星が悪いだろっ!?」
「お前たち!今すぐ外に出ろ」
「「……」」
名指しされて、外に出ろとまで言われてしまった…。
もう逃げる事はできないと二人は諦めてしまった。
これから長々と始まる説教に二人は息を揃えて項垂れたのだった。

因みに覗き男は警察に引き渡され、
慰安旅行中でも市民の安全を守るボーダーとしてニュースでちらっと報道されたが、
市民たちは知らない。
その小さな事件には大の大人がやる事と思えないはしゃぎ様で、
旅館に迷惑を掛けていたという事に――。

温泉は心と体を癒す場です。
周りの人の迷惑にならないようマナーを守って入りましょう。


20170101


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