過去と現在
戦場を駆ける

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※※以下の事に関して捏造しています※※
※現在明確にされているのは狙撃手の弾丸だけですが…トリオンキューブの流れ弾に関して。
※バムスターに捕らわれた人に関して。



見えた。

根付が嘆いている。周りが動揺している。
そんな未来が飛び込んできた。
場所、時間、周りにいる人間、そこから推察するにその未来は近い。
「嵐山……」
知らず知らず呟いた言葉に反応したのは目の前にいた根付だ。
「迅くん、嵐山くんがどうかしたのかね?」
一応聞きはしたものの、この状況で名前が出てくるってことの意味が分からない程、
根付も愚かではない。
慌ててはいけない、狼狽えてはいけないと自分を抑えている。
根付の分野は戦闘ではないので隠しきれてはいない。
だけど自分よりも年齢が下の子どもたちが必死で戦っているのだ。
戦闘員ではないが自分の仕事はメディアそして戦いが分かっていないからこそ別視点からものを言える。
その役目を忘れたりはしていない。
敢えて迅に聞いたのはそれが共有してもいい情報なのかということだ。
「嵐山隊が危ない……どこかの隊を援護に向かわせるか、
一時撤退を――」
「沢村くん」
「はい」
忍田が指示を出す。
沢村が周りの状況レーダーから読み取る。
嵐山隊の近くにいるのは諏訪隊、荒船隊、柿崎隊だ。
各隊、既に交戦状態ですぐに合流できる隊はない。
ならば撤退の方がいいと判断した。
しかし、まだ――……まだだ。
周りを見る限り未来は変わっていない。
他にできることはないか、何か見落としはないかと迅は考える。
そういえば……
迅は思い出す。
先日、玉狛支部で飲んだ時、誰かの未来が見えたではないか――。
倒れている嵐山とそれを見下ろしていたのは桜花だった。
それは危ない選択なのかと思ったが、
未だに未来が変わっていないのなら、それを選択することに賭けてみようと迅は思った。
迅は回線を繋げる。
「桜花」
『は、迅?』
凄く嫌そうな顔をしている彼女の姿が浮かぶ。
進むかどうかは自分で決めると言っていた彼女に迅はボーダーのために彼女を進ませることにした。
「嵐山を助けて」
『座標は?』
「今、送る。
沢村さん!桜花……明星隊員に嵐山隊の位置情報を送ってください」
「迅くんそれは――」
「ここは皆を信じよう、沢村くん」
「分かりました!」
「桜花、命の使いどころを間違えるな」
『は?』
「嵐山に伝えてほしい」
桜花に位置情報が送られる。
その後に彼女が舌打ちしたのを迅は聞いていた――。


「ふー」
トリオン兵を一掃し終わり、木虎は一息ついた。
「疲れたか?」
「い、いえ、まだまだ余裕です」
「はは、頼もしいな。
もう少しで交代時間だからそれまで頑張ってくれ」
「大丈夫ですよ。
何かあったらまたさっきみたいにオレがスナイプするんで」
「別に撃つのは構いませんけど、
告知なしだと遊んでいるようにしか見えないので止めてくれません?」
「え、木虎酷くない!?」
「まぁまぁ。賢のおかげで擬態中のトリオン兵に気付くことができたんだから」
「とっきーー!」
木虎の遠回しに褒めているのかよく分からない言葉が指す出来事は数十分前に遡る。
防衛任務中、各隊員が自分達の担当地区のトリオン兵を一掃するために動いていた。
その中にいた新型トリオン兵はすでにボーダーが認知しており、
全長2メートルくらいで、周囲の風景に溶け込む擬態のような能力がある。
そして攻撃する時に姿を現し襲ってくると言う行動パターンも既に報告されていた。
だから存在自体は知っていたが、運がいいのか悪いのかまだ鉢合わせたことのない嵐山隊は、
戦闘中、新型のトリオン兵が擬態して潜んでいる事に気付かなかった。
このまま誰も気付かなかったら大変な事態になっていたかもしれない。
だけどそうならなかったのは狙撃手である佐鳥がスコープ越しに異変に気付いたからだ。
どうも近くにいるより遠くから見ている方が擬態がはっきり分かるらしい。
怪しいと思い佐鳥が告知するよりも先にトリガーを引いた。
急に飛んできた流れ弾に木虎は佐鳥に何、遊んでいるのだと怒ったがその弾が何かにヒットした事で、
そこに何かいる事に気付いたという事だった。
口で言わなかったのはなんとなくだったらしいが、
恐らくそこの風景が可笑しいですと発言したところで、
何言ってるんだと返されたはずなので、
結果から言うと行動に移してよかったという事だろう。

基地への帰り道。
先程本部から指示が入り、嵐山隊は帰還することになった。
不思議に思わなかったわけではない。
だけど、自分の未来を知っている嵐山がその理由に気付くのは早かった。
今が迅の言う未来の分岐点だ。
自分の役割が分かっている嵐山はボーダーの指示通り撤退するしかない。
道中何かあれば対処しながら進んでいくと嵐山隊はまたバムスターとモールモッドの集団に遭遇した。
「迎撃します」
先陣を切ったのは木虎だ。
そして彼女をフォローするように嵐山、時枝が対処していく。
汎用型トリオン兵の倒し方はいつも通りで、
嵐山隊の連係もいつも通り機能していた。
倒れたバムスターの腹部に亀裂が入っている。
その間から蠢く影が見え、新たなる敵の追加かと嵐山隊は緊張の色を濃くした。
しかし、中から這いつくばるように出てきたのは少女だ。
「…たすけて」
そう聞こえて咄嗟に身体が反応してしまう。
バムスターの中から出てきたという事は今まで捕まってそのまま収納されていたという事だ。
その間記憶があったかどうかは分からないが、
少なくても捕まるその時に怖い思いをしたはずだ。
嵐山は皆に合図を送る。
「もう大丈夫だ」
だから安心してほしいと嵐山は少女に声を掛けた。

ドドドドドドッ

急に降って来た銃撃に嵐山は咄嗟に少女にシールドを張った。
そして嵐山を時枝がシールドを張り、攻撃を防ぐ。
飛んできた方向に皆一斉に警戒をする。
「邪魔」
飛び降りてきた桜花の姿を見て皆一瞬呆けるものの、
そのまま突っ込んで孤月を振りかぶろうとしている彼女を木虎がスコーピオンで受け止めた。
「明星さん!?なんのつもりですか!!」
「私、人型倒し回ってるんだけど」
「人型?この子はバムスターから出てきた…救助が必要だ」
「たすけて……」
「ああ、そういう事」
バムスターから出てきた少女がふらふらになりながら手を伸ばしてくる。
それに反応して嵐山が保護しようと少女に近づく。
イライラした。
桜花は凄くイライラした。
その苛立ちの原因は分からないが、彼女の剣を受け止めている木虎はそれを肌で感じ、
そして、彼女が事情を聞いても剣を納める気はない事を知る。
「人命救助が第一です。明星さん剣を引いて下さい」
木虎の言葉は正しい。
バムスターの中から出てきた少女は救助を必要とする人間だ。
ここにいる皆がそう思っていても桜花はそう思わなかった。
桜花の首から鳴っているブザー音を聞く限り、
目の前にいる少女は完全に黒だ。
この首輪の事を話さないで理解を求めるのは難しいし、
話して理解を求める時間も惜しい。

がくっ

急に桜花の力が抜けた。
ほんの一瞬だけ木虎の態勢が崩れた。
「なっ」
そして気づいた。
桜花の足元から小さく分割されたトリオンキューブがあった事を。
発射されたトリオンキューブの行く先は間違いなく少女だ。
「嵐山先輩っ!!」
木虎が叫ぶ。
桜花は再び自分が握る孤月に力を入れ、木虎を押し込み、剣を弾いて後方に下がる。
そのままグラスホッパーで飛び、少女に向かって突進する。
追いかけようと木虎も反応し、拳銃からスパイダーを放つも、
桜花のシールドにより防がれてしまう。
木虎の声に嵐山もシールドを展開し防ぎ切ろうとする。
「ハウンドか」
それを見越していたのか、
トリオン追尾型と目線誘導の二種類の弾の誤差による攻撃。
トリオンキューブは細分化されているため、
シールドは大きく展開するしかないため防御力がどうしても低くなる。
その穴を狙われいくつかのトリオンキューブが少女の身体を貫く。
少女が倒れる。
その姿を見ても桜花は止まることなく突進する。
明らかに止めをさしに来ていた。
今度は嵐山が突撃銃を横に構えて桜花の孤月を受け止める。
突撃銃が真っ二つにならないところをみると、その中にスコーピオンを仕掛けていて、
実際受け止めているのはスコーピオンの方だと分かった。
油断させて斬りに掛かる攻撃の方法。
初見だったら気づかないかもしれないが、
残念ながら今まで風間、迅、遊真といったスコーピオン使いと戦った事のある桜花にその騙しは通用しない。
いつ突撃銃からスコーピオンの刃が出てきてもいいように警戒をする。
「桜花!人命をなんだと思って…!?」
「ボーダーの弾丸は流れ弾防止があるんでしょ?
本物なら死なないわよ」
「だからといってこんな…」
「嵐山、命の使いどころを間違えるな」
「え」
それは迅から言われていた言葉だ。
彼女がそれを口にする理由は一つ。
それはすぐそこまで迫ってきているということだ。
嵐山の背後にいる少女が起き上がろうとするのを見えて、
桜花は孤月を振りかぶる。
それを受け止めようと嵐山がシールドとそして抑えつけるためにスコーピオンを桜花の身体に向かって伸ばす。
「アンタは連れて行かせない」
「!?」
壁から物凄い勢いで伸びてきたトリオン壁…エスクードにぶつけられ、
嵐山の態勢が崩れた。
それと同時にスコーピオンの刃が桜花の孤月に傷を入れた。
スコーピオンが孤月に推し勝つことはない……とすれば、
今桜花は孤月の選択をオフにしているという事だ。
エスクードと同時に何か別のトリガーを使用している……それはなんなのか。
答えは嵐山の後方にあった。
嵐山は倒れる最中、少女が上空後方に飛んだのが見えた。
桜花は少女にグラスホッパーを踏ませたのだ。
少女がバムスターの残骸があるところまで吹っ飛んだ。
「しっかりして下さい……!嵐山さんっ!!」
「あなた、何考えてるんですか!」
後方から聞こえてくる声を無視して桜花はハウンドで少女を撃つ。
バムスターの残骸が壁代わりになっている。
後方に逃げることは可能性として低いだろうが、
もしも本物だった時のために逃げられないようにシールド固定モードで囲んだ。
簡易版トリオンの牢獄の完成だ。
「アンタ達は分かってないからそんな事言うのよ」
「迅さんから言われたからですか?
――にしてももう少しやり方が...…」
その時だ。
桜花が張ったシールドの中から爆音がしたのは……。
何が起こったのか確認する間もなく、佐鳥の声と狙撃によりできなくなった。
『嵐山さん!例の新型現れたっすよ!!』
佐鳥の狙撃がヒットし、そこから姿を現したのは新型トリオン兵だ。
ここにいるメンバーは四方に散って各々の間合いを取る。
桜花は割られたシールドから少女が逃げ出したのを確認すると、
他には見向きもせず追いかける事を選択した。
「明星さん!」
このまま桜花を一人で追いかけさせるのは危険な気がしてついて行こうとするが、
トリオン兵がそれを阻んだ。
「木虎、今はトリオン兵を倒す事に専念しよう」
「時枝先輩!…分かりました」
嵐山隊が再びトリオン兵と対峙する。
誰も自分を追いかける者はいない。
邪魔をする者はいない。
今度こそ…!
少女は先程の爆撃で自身にダメージを負っているらしく
桜花が追いつくのは簡単だった。

「逃がさない…!」
桜花は追いつくなり少女に斬りかかる。
だけど剣を受け止めるだけで反撃をしようとはしなかった。
いや違う。
溢れ出すトリオンを見る限り、少女は使い過ぎたのだ。
逃げる事を優先にし、反撃にトリオンを使うのがもったいないと思っている程に。
桜花はそれが分かると剣に力を籠める。
相手を力で押していくが少女は押し返そうとはしなかった。
逆に柳のように力を引いて、桜花から距離をとろうとする。
「お姉さんはなんであたしのジャマするの」

あたしと同じなのに――。

少女がそれを口にする前に桜花は少女の腕を斬り落とした。
溢れ出すトリオンにトリオン体がもう持たない事を察した。
「ひどい」
少女の身体にどんどんひびが入っていく。
「そんなのお互い様よ。……アンタは違うの?」
桜花は自分の首元を指す。
それを見て少女は呟く。
「お姉さんも同じだね」
換装が解けるのと同時に、上空にいたコウモリ型のトリオン兵が急降下してきた。
そして少女の胸を貫き、再び空へと昇っていった。

「あーイライラするわね……」

近づいてきたトリオン兵を桜花は斬った。
やっとトリガー使いと接触できるかと思っていたが、
そうなる前に事が終わってしまった事に桜花は苛立ちを覚えた。
自分と同じ立場の人間に少しくらい同情はしたかもしれない。
だけど罪悪感はなかった。
誰しも自分が一番大事なはずだ。
ここまできたのだ。立ち止まるわけにはいかなかった。
門が開くのが見え、桜花は走り出した。


桜花は走った。
走って走って斬って走って走り続けた。
門から出てきた敵は人型だった。
それを目指して桜花は走り続けた。
目視できる距離まで近づいて、他の隊員が人型と対峙しているのが分かった。
対峙している隊は見覚えどころか馴染みがあった。玉狛第二だ。
しかし何故か動きが少しぎこちない。
少なくても近界育ちの遊真が攻めに行かないのは珍しい。
何かあるのかと思った。だけど今はその理由を考える必要はない。
桜花は容赦なく近界民を斬ろうと踏み込んだ。
「桜花さん!?」
いきなり現れた知人に修は素直に驚いた。
「何、遊んでるの」
彼女の一言に桜花が今、何をしようとしているのか分かる。
「待って下さい!その人は……!」
修の制止を振り切り桜花が人型を斬ろうとするのを遊真がスコーピオンで受け止めた。
人型が攻撃しようと弾を発射するが、
それを修がシールドで遊真と桜花を守った。
あっという間に割られたシールドに桜花は唇を噛みしめた。
「邪魔」
「隊長命令だ。桜花さんに斬らせないよ」
「玉狛は何を企んでるのよ」
「別に何も!」
遊真は切り返し、桜花を本気で斬りつけてきた。
「遊真!」
「珍しく感情的だな」
だからこそ攻撃が読みやすいと遊真は桜花を払いのける。
それでも人型を斬りかかろうと、桜花は遊真を避け突っ込もうとしているところ、
遊真がグラスホッパーで桜花の身体を宙に打ち上げた。
逆にそれを好機だと桜花は自身のグラスホッパーで人型に近づこうとした。

ズドン

撃たれたのが分かった。
足は急に重くなりそれ以上進めない。
自分の足が鉛弾を受けたのだと知るのは難しくない。
桜花は地に落ち、膝をつく。
これが流れ弾でたまたま当たったわけでない事は分かる。
人を撃つのが苦手でも射撃の技術がないわけではない事を桜花は知っている。
だが、敵を斬るこの局面で、
身動きが取れなくなるよう攻撃をしてくるとは思ってもいなかった。
「ちょっとなんのつもり!?千佳!!」
桜花は自分を撃った隊員の名前を思わず呼ぶ。
いくらなんでもこれは敵に斬られてしまう。
どう責任をとるつもりだと桜花の殺気は消えることはない。
「ちか…」
人型が反芻するように呟く。
そして何か指示でも飛んできたのか人型は一瞬だけ何かに反応し、戦闘離脱する。
普通ならこの機を逃す事はしない。
だが玉狛第二は追わなかった。
寧ろ、玉狛第二は完全に敵が逃げるのを待っていたようにさえ思える。
周囲に敵はいなくなった。
桜花はもう一度言う。
「どういうつもりか説明してくれるんでしょうね」
「桜花さんが攻撃を止めなかったからだろ?」
「遊真、この状況でそんな事言う?」
「まー気持ちは分かるけど。おれ、玉狛の人間だからな」
にかっと笑う遊真に一発殴ってやろうかと思ったが残念ながら未だに鉛弾の拘束は解けていない。
足を斬り落とすのはトリオンを消費するだけだ。
こんなところでトリオンの無駄遣いなんてしてられない。
それは玉狛第二の考えも同じらしく、だから手足を斬り落とすのではなく鉛弾で桜花の動きを止めた。
「桜花さんすみません、でも千佳が今の近界民を攻撃しないでほしいって」
「なんで?千佳に近界民の知り合いなんているの?初耳なんだけど」
「それは……」
「青葉ちゃんは近界民じゃありません!」
千佳が狙撃ポイントから離れ、桜花の前に姿を現した。
そして自らの意志で鉛弾を解除し、桜花の拘束を解いた。
いつもならこのタイミングで胸倉を掴み殴るくらいはする桜花も、
戦争中、無駄な事はしたくないようで拳を握るのに思いとどまった。
まずは弁明を聞く。
それからどうするかを決めよう。
ボーダーとしての桜花にその権限はないが、
それでも状況を把握しない事には何もできない。
一応聞いてくれるらしい桜花に、千佳は続けた。
「青葉ちゃんは…近界民に攫われたわたしの友達です」

第一次大規模侵攻が始まる少し前、
千佳の話を信じて守ってあげるといってくれた友達。
春川青葉。
今の近界民がそうだと千佳は言う。
だから攻撃しないで欲しいという千佳の言葉を聞いて、
桜花は益々面倒になる事だけが分かった。


20170227


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