過去と現在
首輪

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※オリジナル国家、トリオン兵の名前出ます。
※所謂説明話なうえ、
ご都合設定満載なのでさらりと流していただいてかまいません。



ボーダー本部、開発室のとある一室。
もうお馴染みとなりつつある遊真、修、千佳、鬼怒田、寺島、エネドラがいた。
今まで攻めてきていたトリオン兵の情報から、
どの国が攻めてきたのか明らかになった。
敵国は乱星国家テラペイアー。

「――ていうか、これくらいの情報ならヒュースの奴が知ってるだろ」
「うん、知ってたよ。
でも知ってたのは国名と、トリオンを医療に代用できないかを研究している。……だったか?
基本情報しか知らないし実際に戦ったことはないって言ってたな」
「っけ。犬っころの分際で犬の仕事ができてねーじゃねぇか」
「だからエネドラッドに聞きにキマシタ」
「誰が教えるか調子に乗るな」
「エネドラ。そんな事言わずに…来週新作の映画が入るから……」
「…しょうがねーな」
以前、エネドラに会った時も割と玄界の生活に馴染んでいたとは思っていたが、
それ以上に最近は一部のボーダー隊員と仲良くなっているようだ。
エネドラからしてみれば死して敵対した相手と友情が芽生えるなんて皮肉だろうが、
見ている側としては微笑ましい。
複雑な状況ではあるが、エネドラ自身が割と現状を気に入っているようなのでいいのだろう。
エネドラの機嫌がいいところで本題に入る。
国の概要は遊真が言った通りだ。
ボーダーが聞きたいのは敵の戦術と戦力、そして捕虜を奪還するための糸口だ。
戦いが始まって本日で2日目。
終わりが見えない戦いは地味に精神を削ってくる。
そして隊員が数名捕らわれている以上、長引かせるのは隊員の士気に関わる。
一刻でも早く流れを変える必要があるのだ。

「無知な玄界様に教えてやる」

乱星国家テラペイアー。
大体の国が戦争に勝つために近界技術と呼ばれるトリガーや汎用、運用性を重視したトリオン兵の開発を行っている中、
彼等は同時にトリオン兵の使い回しや、
トリオンと人体のつながりについて研究していた。
人体にある失われた神経を自身のトリオンを使用して代用できないか。
トリオン器官の移植は可能なのか。
外部から対象トリオンに関与できないか。
その幾つかを研究するために彼等が対象にしたのは、
トリオン供給を目的として捕らえた捕虜だった。
彼等の研究がどこまで発展したかは他国の者は知らない。
だが、この数十年の動きを見るに、
彼等は捕虜の思考や行動をデータ化し、
対トリガー使い用に人型のトリオン兵を作り上げ、
自分達に被害が及ばないようにすることに注力するようになった。
彼等はまず捕虜を戦えるものか、否か。
どこになら使えるかを見極める。
戦えると判断された者は人との戦い方、
トリオン兵との戦い方を訓練を通して仕込ませ、
実践で戦わせ生き残る術を身につけさせる。
全てを通して徹底的に鍛え上げていく。
生き残らせるために何度も何度も死を経験させ、
感覚を磨き上げていく。
そうして彼等は戦闘データを蓄積し、人型トリオン兵を構築していく。
今回出てきた人型がトリガー使いかトリオン兵なのか分からないのは、
ただのAIにしては動きが人間らしいからだ。
トリガー使いを殺すことは黒トリガー化させる可能性がある。
黒トリガー一つで戦局は大きく変わるのを知っている玄界は、
トリガー使いを殺したくはないのだ。
だからどうしても人型に対して慎重になってしまう。
この考え方は玄界だけでなく近界も同じ。
彼等は玄界に比べて幾度となくトリガーで戦争を行っているため、その意識が根強くあるのを知っている。
トリガー使いを積極的に殺さない考えを逆手に取ったのが今回、敵が投入してきた人型トリオン兵だった。
劣勢になっても相手がトリガー使いだと思って止めをささなければ、
トリオン兵は隙を見て相手を倒すという流れだ。
エネドラの話を聞いて、件のトリオン兵がどういう経緯で作られたかを知った。
だったら違いが分かる何かがありそうなものだが……という修の言葉に、
寺島は現在調査中だよと言葉を返した。
エンジニアが奮闘している間、
できるのは目の前にいる近界民から少しでも手掛かりになりそうな情報を得ることだけだろう。
クッションの上でゆったりと猫のように寛いでいるエネドラに修は目を向けた。

「エネドラに聞きたいことがあるんだけど、
捕虜をそんなに鍛え上げて、やっぱり彼等は脱出しようとは思わないものなのか?」

先程の会議、桜花に敵に助けを求めるか聞いた時、
あの場では詳しく聞かなかった捕虜が逃げ出さないようにするためのシステムに、
修は引っかかっているらしい。
彼女の言葉に納得はできた。
だけど皆、彼女みたいな考え方ばかりではないはずだ。
中には試みた者がいるのではないか。
無論、近界民がその対策をしていないはずがないことも分かっている。
この確認は近界民がとっている対策からヒントを得られないかというただの希望だった。
そこから千佳の友達を助けられる何かが見つけられれば……!
修の意図が伝わったのか……いや、どちらかというと必死さが伝わったのだろう。
エネドラは吐き捨てるように言い放った。
「捕虜をみすみす逃がす様な間抜けな事をすると思うか?
逃げたり刃向かわせないようにしっかり対策は取るだろーが」
「例えばどんな?」
「テメェらが戦っている相手なんて顕著なものだぜ?
残骸から見つけてねーのかよ?」
エネドラの言葉に首を傾げるのは修と遊真。
逆にエンジニアである鬼怒田、寺島は心当たりがあるのかあまり反応がない。
2人を見てエネドラがにまりと笑う。
「見つけたようだな」
「何かあったのか?」
「首輪だよ」
「首輪?」
「ああ、ステルス機能がついているから装着時……いや、正確には起動中というべきかな。
その間は基本見えないようになっている」
「そいつが装着者の位置情報をはじめとした幾つもの情報を管理をしている」
「それを外すのは――?」
「正しい手順で外さなかった場合プロテクトが作動するみたいだね」
因みにそのプロテクトの作動とは死を意味する。
今回の戦時中にあったように上空に飛ぶコウモリ型のトリオン兵ニュクスによってトリオン器官を抜き取られる。
「ああ、それを知っているからアイツラは自分達で外そうとしないし逃げようともしない。
極稀に捕虜になる間抜けがいるが、そいつらも情報を話したりはしねーよ。
プロテクトを作動させるだけだからな」
作動条件は他にも装着した支配側の任意や、任務に反するような行いをすると作動することも分かっている。
まだ解析途中ではあるが、話を聞く限り救出するにはその首輪をなんとかしないと、
彼女達は助けを求めるどころか玄界と戦う選択しかできないだろう。
「ぼく達が彼女を助けるにはその首輪をなんとかしないといけないということか……」
「なんだァ?捕虜になった奴でもいたのか?
だったらそうだな。潔く諦めるんだな」
「エネドラッドは桜花さんと同じ意見か」
「へーお優しい玄界様にしては珍しい奴もいるんだな。
そいつとは気が合いそうだな」
「いやいや、エネドラッドと桜花さんは合わないと思うぞ」
2人が会う機会なんてないだろうが、
念の為にと遊真が軽く否定しておく。

「あのー…皆さん桜花さんへのあたりが強かったけど……何かあったんですか?」

ふと、今まで黙っていた千佳が口を開いた。
桜花の名前が出て今まで疑問に思っていたことを聞いてみたのだ。
「確かに今日の会議は桜花さんの誘導尋問みたいな感じだったけど……。
城戸指令達が怪しむ理由って何かあるんですか?」
「ああ、防衛隊員なら見てもらった方が早いかもね。
これは監視カメラに映っていたものだよ」
寺島がモニターに映したのは本日行われた戦闘。
映っていたのは桜花だ。
「明星隊員が先行して人型を倒し回っていたのを知っていると思うが、
わしらが明星隊員が何かを知っていると思った根拠はこれだ」
流される映像は桜花が迷いもなく人型を斬りつけ、奮闘している姿だった。
別に怪しむべきものは何もない。
何が言いたいのだろうかと玉狛第二は鬼怒田を見る。
「次にこの戦闘を見てほしい」
次に流されたのはちょうど嵐山隊と合流してのものだった。
こちらも迷うことなく真っ先に斬りつけに行っている。
どちらも同じようにしか見えないし、
寧ろバムスターから出てきた人型を敵だと判断して斬りかかる方が人としてどうなのだろうかと思うが、
それは会議の場で桜花が理由を話している。
彼女の意見は戦時においておかしいものではなかった。
首を傾げる修と千佳をよそに、隣にいた遊真が反応した。
「あ」
「そういうこと」
正解だと言わんばかりに寺島が返事をした。
「どういうことなの?」
「間が違うな。
人型を相手にしている時の桜花さんの動き。
トリオン兵が相手の時とトリガー使いが相手の時と違う」
「間合いということか?それは相手の使う武器や戦い方で変わってくるものじゃ」
「うーん……間合いというか、隙と言った方が近いのか。
桜花さん、不自然な隙があるんだよ。
特にトリガー使いが相手の時は多い。
まるで何かを待っているかのような――…」
遊真の言葉に修はもう一度映像を見る。
トリガー使いの少女との鍔迫り合い。
相手に戦う気力がないことを知っても桜花は斬り込まなかった。
何よりトリオン漏洩させるだけで止めをささなかった。
あの桜花が、だ。
今までの彼女を知る者からしたらこれは正直ありえなかった。
「他のも大体同じ。
一見相手の出方を伺っているように見えるけど明星の実力なら伺うレベルの相手ではない。
それは俺よりランク戦している空閑の方が分かるんじゃない?」
「うん。それに戦いは数が多い方が有利だと分かっている桜花さんが、
時間を無駄にするとは思えないな」
「ああ。解析中に明星の戦闘を洗い直していたけど、
接触したトリガー使いを追いつめるまではしても止めはさしていないみたいだね。
どれもニュクスがトリオン使いの胸を貫いて戦闘が終わっている」
後に続く映像ではトリガー使いと言葉を交わしているところがある。
そして首元を示しているのは恐らく首輪のことだろう。
「別に桜花さんを責めたいわけではないですけど、
映像で確認できるなら、なんであの時これを使わなかったんですか?」
「迅が言ったんじゃ。
それは悪手だ。明星隊員を外に出さないのは攫われた隊員達を救う機会が失われるとな」
「桜花さんがどう動くかで今後が決まるってことか?
最悪なパターンだな」
「全くだ。どこまで好きにさせていいか分からんから、
わしらは明星隊員に制限をつけることができん」
「ふーん、もしかして今まで桜花さんを監視していたのってこれを危惧していたってこと?」
「……知っておったのか」
「うん、本人が言ってた」
「頭が痛くなる話だな」
「ここまで聞くとソイツとんだ問題児じゃねぇか」
ケケケと笑うエネドラはどこか楽しそうだ。
「室長たちが会議している間は首輪の解析をしている最中だったから、
首輪の機能についてはここにいるメンバー以外は誰も知らないよ」
「じゃあ、誰も知るはずがないんですよね?
なのに桜花さんは首輪のことを知っている。
――ということは、敵がどこの国なのか必然的に知っていたことになるけど、
桜花さんは敵のことを何も話さなかった。
それって桜花さんが関係者だという可能性が高いということか」
「しかもテラペイアーの捕虜だったということだろ?
そうなると先行して人型と戦っていたのは、敵だから倒すため。じゃないな。
接触しないといけない理由があった」

「失礼します」

ノック音の後に聞こえてきた声。
エンジニアが彼等の部屋に入ってきた。
そして告げる。
件の首輪の解析が終了したことを――。


20170423


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