隊服
恋のアトリビュート


※未来の時間軸。A級になった時のお話です。


「荒船ーこれどういうことなの?」

そうやって突き返したのは一枚の紙。描かれているのは盾みたいな形。その中に文字で書かれているのは“俺達らしさ”。
え、何それ。意味が分からないんだけど。
そう思った私って至って普通。一般的な感覚だと思うのだけど。
何が言いたいのか分からないなら直接聞くしかないでしょ?
それなのになんなの荒船。

「唯野デザイナーだろ?そこは汲んで調整してくれよ」

隊服やエンブレム。アシスタントという形ではあるけどそれらに携わってきた私は各チームの想いに触れてきた。
特にエンブレムは特別。
B級からA級に上がったチームにとっては凄く大事なもの。
絵が描ける人は多くないから原案も文字で指定されることはある。そこから形にしていくことはよくある話。だけど荒船のって抽象的すぎて形にするには難しい。
同期がA級昇格したのは私だって嬉しいんだから!
だからよく分からないで済ませたくないし適当にそれっぽいデザインをこちらで決めてしまうのは違うと思うんだ。だってデザイナーが決めてしまうのはこちらの好みであって荒船達のチームと関係なくなってしまう。そんな気がするから。
最終的にそれでもいいからやってくれと言われたらやらなくもないけど……私が納得できないだけなんだ。

「荒船の……チームのことを汲んだから聞きに来たんだけど」
「お前上手いこと言うな」
「感心しないで考える!」
「いくつか考えはしたんだが少し迷って、な……」

なんだ候補はあったんじゃない。
それを聞いて少しだけ力が抜ける。
荒船ってチームを作る時や今のポジションに転向する時もそうだったけど誰かに相談しているイメージがあまりない。多分自分の中で何をやりたいのかしっかりと持っていてそのために何をすべきなのか分かっているからなんだと思う。荒船の口から聞くのは自分で結論を出して決めたことだから私の耳に辿りついた時はほぼ事後報告みたいな感じだった。

「でも意外」
「何がだ?」
「荒船ってこういうのすぐに決めちゃうと思った」

そう思ってた。それも仕方がないのかなーって思うことはある。
荒船が相談をするとしたらどう考えても身近な人になるでしょ?
相談を受けるならそれは同じ学校の犬飼達であって同じチームの加賀美ちゃん達だ。
私は荒船と学校も違えば部署も違う。他の同期に比べれば圧倒的に関わる機会は少ない。
仕方がない。それで済ませるのは寂しい……。
だから今回、荒船から提出されたエンブレム案には何かの見間違いかって、自分の目が信じられなかった。思わず荒船のところへ突撃するくらいに私は少し動揺していた。
だって、それは私の知っている荒船となんだか違うから――。

「ノリノリでエンブレムも考案しているんだと思ったよ」
「…………たよ」
「ん、なに?」

目を逸らして呟く荒船の言葉が聞こえなかったから聞き直してみたんだけど、荒船は言い直すつもりがないのか腕を組みながら黙り込んでしまった。
い、今私何か不味いこと言った??
ノリノリで〜の件が不快に思ったってこと?それだけ真剣に悩んでたってこと?
なんだか今までの荒船のイメージと違って……ごめん。そうだよね、当事者の方がしっかり考えているに決まっているよね。凄く簡単なことなのにどうして思い至らなかったんだろう。

「……お前何落ち込んでいるんだ?」
「落ち込んでないよ!」

人が反省している時に何を言うんだよ。
思いっきり言い返したら「そりゃ良かった」なんて憎たらしく思えるくらいいい顔で笑うから!
完全に不意を喰らった感じで……もう、私どうすればいいんだよ。
私の気持ちを置いてけぼりにして荒船が話を続ける。
大人っぽいようでこういうわざと空気を読んでいないのか……ぐいぐい引っ張っていくのは本当リーダー気質だなって良い方に捉えておく。

「で、なら唯野に相談したらいいんじゃないかって皆に言われたんだよ」
「ん?」

あ、話ちょっと聞いていなかった。凄く大事なこと言われた気がするけどさっきのこともあるし……まぁいいか。

「相談したいならちゃんと呼んでくれたらいいのに」
「そうしようと思ったんだけど加賀美に言われたんだよ。この方がお前が飛びつくって」
「ちょっ、加賀美ちゃんの中で私どうなってるの!?」
「そう思われてるんだろ」
「小姑的な感じ?」
「違うだろ!俺達のこと考えてくれてるって意味で――」
「――!なんか照れるね」

そう思われているなんて知らなかった。
顔が少し熱くなる。
 
「でもいいの?荒船と私だけで決めて……私荒船隊のメンバーじゃないよ?」
「だーかーら、皆に言われたって言っただろ?俺が良いって思ったらそれで良いんだよ」
「そっか」

嬉しくて私はペンを持ってどんなのがいいか思い浮かべる。
荒船や加賀美ちゃん、穂刈に半崎くん。皆の顔や武器とか思い出せるもの全部。ぽんぽん思い浮かんできたなんだか胸が躍る。

「いつもは依頼されたことをそのまま形にするだけだったけど……こういうの楽しいね、まるで同じチームみたい」
「そうか」

荒船の声が優しい。
気になって顔を見たらちょっと失敗したって思った。
なんだろその顔ズルい!
予想していなかった表情に心臓が飛び出そうになった。顔は熱いのを通り越して頭が少し痛い。
さっきまで思い浮かんでいたものが一瞬で消えて……どうしよう。

荒船の顔しか出てこなくなった。


20180108


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