隊服
その隊服はおあずけで
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いた!
風間くんを見つけた私は小さくガッツボーズをとる。
青い隊服を身に纏っているということはトリオン体に換装しているということ。
遂に訪れたこのチャンスを逃すわけにはいかないと私は思わず忍足で近づく。
「唯野何してるんだ」
「はいっ!?」
風間くんの身体にもう少し届くというところで本人に気付かれてしまう。
ちっ。惜しい。
思わず声が出ちゃったけど仕方がない。今日ばかりは大人しくしておこうと無理矢理取り繕う。
「べ、別に何もして――」
「嘘を吐くにはお粗末すぎるな」
嘘が下手くそ?そんなことないと思うんだけど。ちょっといきなりだったからびっくりしちゃっただけで!
説明しようとする私の言葉を最初から聞く気がないのか。私が声を発する暇も与えず風間くんは威圧的に言う。
「で、何をするつもりだったんだ?」
何をしているではなく何するつもりなのかなんて……まるで私が風間くんにちょっかいを出すつもりだったみたいじゃない!まー実際はそうだったんだけど。
「言っても怒らない」というけど少なくても何かしらの反撃はありそうで正直には言えない。
あまりにも我慢強い私に痺れを切らしたのか風間くんの眼光が鋭くなる。
「言わなければ怒るぞ」
「え、嘘!?」
それはないでしょ風間くん!
私の魂の叫びは却下されたみたいなので大人しく……従うしか道はない。
「風間くんの隊服が気になっちゃって」
「は?」
お前は何を言っているんだと目が訴えてくる。
そういう反応をされるのが想像ついたから言わなかったんだよ。
理由を知りたいらしい風間くんに私はどうしようか悩む。ここで答えなかったら先程と同じで強制的に口を開かせるつもりに違いない。
だったら一層のこと話してしまった方がいいのかもしれない、のか。
呼吸するのも忘れて私はそれを音にする。
「……って」
「なんだ?」
「だから風間くんの隊服ってぴっちりしたスーツみたいな感じなのかそれとも全身タイツみたいな何かなのか素材が気になっちゃって」
「お前は馬鹿か」
「見て分からないんだもん!ダボっとした感じの服を着ない風間隊が悪い!」
ちょっと近未来的な感じが少しかっこいいと思って……なんて恥ずかしくて口にはできない。うん、風間くんが小さいけど見た目に反してかっこいい。そう私が思っていることを本人に知られるのは勇気がいるのです。はい。
風間くんただでさえ鋭いからこの段階で私の気持ち知られたくない。
もう少し仲良くなるまでは少しお茶目だなって思って欲しい。
今日は距離を縮めるための一歩だったりするわけですよ、はい。だからそんな目で見ないで欲しい。
「馬鹿だなとは思っていたが……それを聞いて俺が触らせると思っていたか?」
「思ってないよ!だからこっそり触ろうとしたんじゃない!」
「……」
だからその目痛いから!
ちょっとの好奇心も許してくれないなんて風間くん厳しいよ。本当に誰?風間さんは優しくて尊敬できるって言ったの!!
……まぁ少しは変なこと言っている自覚があるから全部風間くんのせいというわけではないけどね。
諦めて溜息をつくと、風間くんが光に包まれる。そして目の前に現れたのは私服姿の風間くんだ。
あれ、どうして換装解いちゃったの??
風間くんの行動に理解できない私に風間くんの表情は変わらない。ただ淡々と事実だけを伝えるように言葉を口にした。
「確かめたいなら自分で確かめればいいだろう」
「え、どういうこと??」
「どうせまた機会を見て触るつもりなんだろう?」
「触るなんてまるでセクハラみたいじゃない」
「事実だろう」
「う……」
そう言われてしまうと何も言い返せない。
自分のトリガーを私に手渡そうとするから思わず私はそれを受け取った。
風間くんにちょっかいを出すのは失敗してしまったけど仕方がないよね、変態扱いされたくないし。
……風間くんの隊服がどんな素材なのか気になっていたのも事実だし。それに風間くんのトリガーを私が起動してしまえば設定された情報を基に私はトリオン体に換装するから風間くんの隊服を確認するならそれで事足りる。
私はトリガーを起動した。
トリオン体は無事に風間隊の隊服を身に纏って換装された。気になっていた隊服のトップスを触ってみる。
なるほど。ぴちっとしている。リアルだったら息苦しさを覚えてしまいそう。
私が隊服をぺたぺた触ったり引っ張ったりして素材を確認している中終始無言である風間くんに違和感を感じて視線を向ける。
風間くんは黙ったままじっとこちらを見ていて……やだ、ちょっと恥ずかしい。
「な、なに?ちょっと怖いんだけど」
「唯野、お前は今後風間隊のトリガーを起動するな」
「え、なんで」
そもそも起動する機会なさそうだけど!
どういう意味なのか分からなくて理由を聞くけど風間くんは教えてくれない。
「とりあえず脱げ」
「え」
びっくりして変な声出た、恥ずかしい。
そういう意味じゃないって分かるのに過剰反応馬鹿なんじゃないの私!頭が沸騰する前に私は慌てて換装を解いた。
そんなに不愉快だったのかな。それはそれで凹む。
ショックを受けたことに気づかれたくなくて私は平然とトリガーを返す。
「お前意外と……」
「なに?」
風間くんは無言で私を睨み上げる。そして大きく溜息をつくと私に厳しい一言を放ったのだ。
「お前が馬鹿なうちは絶対に言わん」
ちょっとそれはないんじゃないの風間くん!!
20180204
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