隊服
あなたの服が着たい


「その恰好は何だ」
「見て分からない?」

二宮隊作戦室。
ソファに座る二宮の前でゆめは見せつけるようにくるりと回る。
スカートがひらりと舞ったりはしない。身体のどこかに見て欲しい装飾が施されているわけでもない。そこには可憐どころか女性らしい何かをアピールするものは何一つない。
それもそのはず彼女が着ているのはよくある黒のスーツ。だがただのスーツではない。女性にしては珍しくネクタイだってしている。
ゆめの姿を見て二宮は眉を寄せた。

「もう一度聞く。何故うちの隊服を着ているんだ」
「辻くんに借りた」
「借りた?奪ったの間違いだろう」
「酷いな〜私はただ着てみたいから貸してって言っただけよ。
それよりどう?私、似合うと思わない?」

彼女がどんな言葉を期待しているのか……考えれば分かりそうなものだが、二宮は考えることもなく自分の思ったことを容赦なく告げる。
「似合わん」と即答する二宮の言葉に分かりやすくゆめは頬を膨らませる。怒ったのかといえばそうではない。ならば不機嫌になったのかといえばそれとは少しだけ違う。
一番近いのは落胆……だろうか。
二宮が何と返すのか最初から分かっていた。そんな風にも見える反応だ。

「何がしたいんだ?」
「うーん、実際に着てみればイメージ沸くかなって。私を二宮隊にどう?」

一つの隊に所属できる戦闘員は四人まで。
現二宮隊の戦闘員は三人……空いた席が欲しいとゆめは迫る。が、二宮はゆめの提案に考慮することはない。何せ彼女の二宮隊への入隊希望は今回が初めてではないのだ。

「何度も言うが二宮隊はこのままだ」
「えー。私結構出来がいいと思うんだけど……二宮隊の基準には達してない?」
「そういう問題ではない。大体何故俺の隊に入隊したいんだ?」
「彼氏と同じ隊で一緒に戦いたいというのは理由にはならない?」
「……」
「何それ」

今度は本当に機嫌を損ねたのかゆめは二宮から視線を逸らす。
逆にその反応が意外だったのか二宮の目が僅かながら丸くなる。だが二宮を見ていないゆめは彼の珍しい挙動に気付くはずがなかった。

「何が不満なんだ」
「元部下のことをいつまでも気にしちゃうのが」
「お前が思っているようなことはない」
「知らないの?女って彼氏が他の女のことを考えているって知っていると嫉妬するの。無論どんな感情でもね」
「面倒だな」
「そうよ面倒なの。私匡貴には他の女のこと考える余裕がないくらい私のこと想っていて欲しいもの」
「止めろ。四六時中お前といると馬鹿になる」
「へーどういう意味なのか教えて欲しいんだけど?」

ゆめは二宮に再び視線を戻す。
先程に比べると少し目が輝いているように見えるのはその先にある二宮の真意が聞きたいからだ。
敢えて言わせるのかと二宮は目を向ける。ゆめも肯定するようにまっすぐと見つめ返した。
別に躊躇することはないが口にするのは今更な気がするが……と二宮は当然のように言い放つ。

「俺はゆめを誰かの代わりにするつもりはない」

二宮の言葉を聞いてゆめは自分の頬が、口元が、顔全体が緩むのが分かる。
自分の脳内がお花畑になっているのを感じながらゆめは返事をした。
知りたかった二宮の想い。それをきちんと言葉にして貰った以上、二宮隊の空席を望む必要なんてない。

「そもそも敢えて口にする必要はあったか?」
「大事なことだからこそ口にして欲しいのよ。匡貴は早く女心を理解しなくちゃねー」
「別にゆめ以外どうでもいい」
「そう」

ゆめは二宮の隣に腰を下ろした。

「じゃあ換装解いちゃおうかなー……もう一つの目的も確認できたし」
「もう一つ?」

今のやり取りの他にまだ何かあったのかと二宮は首を傾げる。
そんな彼の様子を見ることなくゆめは素直にもう一つの目的を口にする。

「実は他人のトリガーで換装した隊服ってどこまで再現されるのか知りたくて。サイズとか匂いとかどうなるのか興味ない?」
「は?」
「ほら、換装体の服って登録されているじゃない?私が起動したら隊服ぶかぶかになるのかなーとかその人の匂いとか再現されてたら面白いなーとか。
まー残念ながらそこまでは再現されてなかったみたいだけど」

ゆめの言葉に二宮の眉間に皺が寄る。
どんな感情を抱いているのか分からない程ゆめは二宮のことを知らないわけではない。
寧ろ彼の反応に安心を通り越し満足さえしてしまった。だからそれ以上を期待する。
ゆめは二宮の言葉を待つだけだった。

「……お前は辻のを着たかったのか?」
「まさか!」

ようやく音になった言葉にゆめは微笑む。

「私が着たいのは匡貴のだもの」
「はぁ……だからお前は嫌なんだ」
「でも好きでしょう?」

ゆめは自分の腕を二宮の首に回して押し倒す。
覆いかぶさった彼女のネクタイを引っ張り二宮はそのまま口づける。

「お前といると馬鹿になる」

ゆめは換装体を解く。
二人はもう一度口づける。先程よりも深く長く。二人だけの時間を堪能する――。


20180308


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