10.宝石色に輝く
兵器の燃料とされていた女性を救出したのは良いが、このまま置いて行く訳にはいかない。身体を起こして壁にもたれ掛けさせ、イリアが懸命に声を掛けながら軽く頬をペチペチと叩いて目を覚まさせようと試みる。二度三度と繰り返すと、女性はぴくりと反応を示した……が、まだ意識は混濁しているのだろう。うわ言を呟いている。
しかしその言葉は聞き逃して良いものではなかった。彼女は“センサス”という単語を口にしたのだ。その言葉が出るということは、やはり間違いなく転生者ということ。
もしかしたら転生者の話や聖女の情報を聞けるかもしれない。西の戦場では散々な目に遭ったが、ここは戦場とは違う。戦場でなければ襲い掛かられる危険は少ないかもしれない。完全に希望的観測のため不安は残るが、それよりもこのままだとまた兵器がやって来るかもしれない。
しっかりしなさい、とイリアが声を大きくすると女性はハッとしてパチリと目を開けた。目が覚めたばかりなのだから当たり前なのだが、いまいち状況が掴めてないので、辺りを見回して現状を確認しようとしているように見受けられる。彼女と一行の目線がかち合ったと思うと、どちら様かと尋ねられた。
説明をするため、ルカが腰を屈めてその人の目線に合わせる。
「ええと……僕達は転生者。ここに連れてこられてしまった聖女アンジュという人を助けに来たんだ」
「その人のこと、なんか知らない?」
「まぁ! きっと天の巡り合わせね」
イリアの問いに、女性は綺麗な瞳を輝かせて胸の前で手を組み喜びの声を零し、よいしょと言いながらすっくと立ち上がりぺこりと頭を下げ、名乗った。自分が聖女──アンジュ・セレーナだと。
優しく穏やかな笑みを浮かべる彼女の佇まいは聖女と呼ばれていることを納得させられるものがあった。一目見た時から素敵な人だと感じていたミルファは、一層そう感じたようだ。
ビンゴ! と指をパチンと鳴らし、一緒に来てとアンジュの手を取るイリア。脱出するため出口へ向かおうとするが、彼女の手からアンジュの白い指がするりと零れるように離れてしまう。
イリアは勿論、見守っていたルカやスパーダ、ミルファも立ち止まりどうしたのかと目を瞬かせていると、アンジュは立ち止まり動く様子もないままぽつりぽつりと話始めた。
「……助けて下さり、感謝します。けれど、一緒に行くべきかどうかは少し考えたいかな……」
「はぁ? なんでだよ、兵器として使われても良いってのかよ」
スパーダが不可解だと声色にすら表してアンジュに問い掛ける。そう言われたアンジュは、そういうわけじゃないけど……とどこか哀しそうな瞳をし、心に根付いた思いを口にした。──異質な力を持つ転生者は生きていてはいけない存在だと。自分の力に大きな迷惑を被っていると。異能の力のせいで多くの人も自分を嫌悪していると。
否定は出来ない、とミルファは思った。仲間と進むために、戦うために力が欲しかった。それ故、天術の力を忌むべきだとされている異能だと考えなかったが世の大半の人はこう思う筈だ。それがあるからこそ異能者捕縛適応法があり、人々も反発することがない。
法が敷かれているので帰るに帰れない状態なのは間違いないが、自分の中で帰りたいかどうかと言われれば答えに困る。家のこと、家族のこと、執事やメイド達のことを考えれば帰るべきだとは思っている。しかし、こんな形とはいえ外の世界に出られて友達もできた。彼らと共に居たい、力になりたいという気持ちがあるのも事実。
自分の身勝手さ、優柔不断さに後ろめたさを感じつつもアンジュの考えは痛いほどわかるつもりでいた。……皆に白い目で見られることを分かった上で、それでも戻らないといけないのか、生きないといけないのかと……自分が彼女の立場ならそう思っただろうから、と。
「力は人々の役に立ててこそ意味があると思うの。けれど、わたしの力は……そうじゃない。それならいっそこのままでも……」
「そんな……」
「……人と違う力があるから、誰かに利用されるのも人を傷付ける道具にされるのも仕方ないってことか? そんなのおかしいだろうがよ!?」
「ス、スパーダ、落ち着いて……!」
聖堂を崩壊させ、教会の信頼に泥を塗った自分の力、異端の者を見つめる目が恐ろしいのだろう。その時の光景が脳裏を過ったのか、もう何も見たくないというように顔を手で覆い隠した。
ミルファは、突っかかる様子だったスパーダの腕を掴んで諌める。頭に血が上った状態だったが、彼は踏み止まった。落ち着くために、ふーっと深く長く息を吐きアンジュに向き直る。
「なあ、転生者だからって何されてもいいってワケじゃねぇ。結局はアンタがどうしたいのかが大事なんじゃねェの?」
「……でも。わたしは、人を危険な目に遭わせてしまったから……」
絶望に濡れた瞳を伏せるアンジュの手をミルファはそっと包み込んだ。手も指も小さいく細いミルファでは包み切れなかったが、それでも懸命に、ぎゅっと。
アンジュと目を合わせ、逸らさず真っ直ぐに見詰めると、ラベンダーの瞳が少し戸惑いに揺れる。
「町の人たちはきっと嫌悪なんかしていなくて、突然のことに驚いてしまったんだと思います。あなたが人々のために祈って来たことは忘れられてなんていないですよ、絶対!」
「そうそう。絶対みんな感謝してるんだからさ、もっと胸張ってなさいって」
「人の目って怖いと思うけど、僕達もついてる。だから……一緒に頑張ろうよ」
各々が自分の考え、思いをアンジュに伝える。ひと足先に自分の考えを言ったスパーダであったが、後押しするように「堂々としていればいいんだよ」と笑って伝えた。
次々と自分に向けられる嫌悪ではない気持ちたち、前向きなものにアンジュは胸がいっぱいになった。そして困ったように、嬉しそうに微笑みを浮かべ始める。
「……だめね、わたし。生きていていいのか……なんてこと、教会に身を置く人間の言葉じゃなかったわ」
「生きていてはいけないなんて……そんなことないです。わたしは、みんな生きるために生まれて来たんだって思うから……」
「ええ、……ええ。そうよね」
くすりと苦笑したかと思うと、アンジュはミルファの手を包み返し、気付かせてくれてありがとうと言った。感謝を伝えられて照れ臭くなったミルファだったが、アンジュに自分たちの気持ちが少しでも伝わって、生きなくてもいいという考えが変わったのなら嬉しいことだと頬を緩ませる。
アンジュはにっこりと微笑み、「これからよろしくね」と言う。彼女は皆と歩みを共にすることを決めたのだ。
◇
「ミルファは前世の記憶がないということ?」
出口を目指し、王都兵に見つからないようにと慎重に来た道を戻る最中のことである。自己紹介の中でミルファだけが前世の名前を言わなかったことに驚いたアンジュが、目をぱちくりさせてそう訊ねた。
ミルファはこくりと頷き、前世の記憶はないものの天術はついさっき使えるようになったということを話す。するとアンジュはますますわからないというように首を傾げた。それに続くように、ルカもイリアもスパーダも、ミルファの前世と思われる人物に心当たりはないという。
一体どうなっているのだろうと唸る仲間を見つつ、自分だけが記憶を保持しておらず本当に転生者かどうかも分からないイレギュラー状態なことに居た堪れなさを覚えるミルファ。その様子を察知したアンジュは微笑み、ミルファの頭を優しく撫でた。
「でも、わたし……前世で貴女とお話したような気がするわ。初めて会った気がしないの。不思議ね」
「ア、アンジュさん……っ」
「あら。せっかく同性同士なのに、さん付けなんて余所余所しくて寂しいわ」
悲しそうに眉を下げられてしまい、ミルファはあうあうと慌てるしかない。自分の周りにいた家族以外の歳上の人間は執事のハルクスやメイド達くらいで、慣れていないのだ。だが、他でもないアンジュ本人が親しみを望んでくれている。ミルファは緊張しつつ、おずおずとアンジュを見上げ、別の呼び方で名前を口にしてみた。
「え、あ……えっと、アンジュ……ちゃん?」
「うふふ。素直で可愛いわね、ミルファ」
突然褒められて貰ってしまい、花が芽吹くように頬を桃色に染めて照れるミルファだったが、その姿にアンジュはとても機嫌を良さそうにはにかんでいる。敵の陣地の真ん中に居るという危険な状態であることを忘れそうになるくらいに和やかな空気が漂っていた。
歳上の女性に馴れ馴れしすぎたかなと思いつつミルファはアンジュの顔を見る。その時、ミルファの世界は突然止まり、別の光景が眼前に広がった。
いつも夢に見る女性と、男の人が微笑み合っている。その男性は白髪で、穏やかで利口そうな笑みをモノクルから覗かせ──アンジュがミルファに告げた「素直で可愛い」という言葉をその女性に紡いでいた。まるで、特等席で見ている大きな舞台のような夢は一瞬で終わり、ミルファは動揺するしかない。確かに起きていたのに、どういうことなのだろうか。まだ夢なのかと辺りを見回すが、まごうことなく現実だった。
「今の……?」
「どうかしたのかよ? ミルファ」
兵士や兵器がないかと少し先を確認していたスパーダがミルファの異変にいち早く気付く。いつにも増してぼんやりとする彼女の目の前で手をひらひらと振ってみると、呆然とした様子でどこか不安そうにスパーダへ自分に起こったこと、一瞬の夢のことを話し始めた。
仲間達はミルファの言葉に耳を傾けるが、話が進むに連れて様子が変わっていく。もしかして何かおかしなことを言ったのだろうか、病気なのだろうかと不安になりそわそわと騒ぐ心臓を落ち着かせるように胸元を抑える。
「ミルファの見たそれって、きっとオリフィエルじゃないかな。特徴が一致するし……。もしかしてだけど、さ。思い出しかけてるんじゃないのかなって僕思うんだ」
「その可能性は高そうだけどさ、自分のことをしっかり思い出した訳でもないじゃない?どうなってんのかしらね」
イリアの言葉を聞いた瞬間、ミルファはハッとした。
根拠も何もないが、もしかしたら。いつも夢に見る床に伏せるその女性が何か関係しているのかもしれない。その考え口にしようとした時、ウー、ウーと警報音がけたたましく基地内に鳴り響いて発言権が消えてしまった。
嫌な予感がしたミルファが仲間たちを見ると、皆も同じだったのか怪訝そうな顔をしていた。話は後だと頷き合うと、スパーダが出口まで走るよう先行して駆け出す。
長い通路を駆け抜けていくその途中、警報を聞きつけてやって来たであろう王都兵と鉢合わせそうになる。素早く身を潜める仲間達を余所にミルファは咄嗟の判断が遅れ、どうしようと周りを見渡す。すると、突如伸びて来た手に腕を掴まれ物陰に引き込まれた。
「何してんだよミルファ! こっち来い!」
「ひゃ……っ!?」
間一髪。ミルファが王都兵の視界に入る直前にスパーダが腕を引いたのである。
王都兵が通り過ぎるのを待ち、基地の奥地へと消えてから動き始めよう。そうするべかさなのだが不可解なことが起こった。王都兵は自分達と真反対の方へ行くと思われたが、隠れている侵入者達に気付くこともなくまたバタバタと足並みを揃えて出入り口の方へ戻っていくではないか。
足音が遠退く中、どういうことなのかと考えている余裕はミルファにもスパーダにもなかった。偶然とはいえ、二人の距離はゼロ。とてつもなく近く、密着している状態にあると気付いたからだ。
ミルファの腕はスパーダに掴まれたまま、腰には手が添えられており、その彼の胸に顔を埋めている……そんな状態。
(あ、あ、ど、どうしよう)
彼に触れられてるところが、彼に触れているところが、燃えてしまうかのように熱く感じる。
「ありがとう……その、ご、ごめんね、わたしがぼーっとしてたから」
「あ、いや、こっちこそ悪ィ……その、急に掴んだりして」
「……え、えと、今の人達……」
「っ、え? な、なんだ?」
「ななな、なんでもないよっ……!えと、ご…ごめん、ね」
お互いに謝りつつも、今下手に動くと見つかるかもしれないので離れるに離れられなくて、カーッと全身が熱くなって来ているのがわかる。幼馴染とはいえ今までこんな風に密着したことがなかったからか、すごく近くに感じるし、なんとも言えない恥ずかしさが二人にはあった。
「……ふぅ、どうやら行ったみたいね」
少し離れた場所に隠れていたイリアの声が二人に届く。それがスイッチになったかのようにスパーダはミルファに触れていた手を勢い良く離して彼女を解放した。
(……か、顔が熱い。心臓のドキドキもまだ静まってくれないし……)
幼い頃からずっと一緒に過ごしてきたけれどこんな症状に陥ることはなかったのでミルファは何が何だか分からずバクバクと鳴る心臓を抑えながら頭に疑問符を浮かべるばかり。そんな彼女でも分かることはただひとつ。あのまま彼の腕の中に居れば羞恥で爆発してしまいそうだったことだけ。
「王都兵の人達、ガラム軍が奇襲して来たって言ってたね。すごく慌てふためいてた」
これも聖女が仲間になったお蔭か、神様が味方してくれたように思うほど運が良い展開だ。騒ぎに乗じて逃げられる。好都合だとイリアはニンマリ笑って、敵が居ないことを改めて確認してから物陰から顔を出す。
……しかし、神はすぐ彼らを見放したのだろうか。やはり物事は思うようにいかないということを思い知る。
「……ここはテーマパークではないぞ、ガキ」
「……言われなくてもわかってるんですけど?」
イリアが目線だけで声の方を見やりその主を確認すると、見知らぬ人物ではなかった。西の戦場で見た全身を黒に包んだ長身の傭兵──リカルドだ。
西の戦場で逃して貰ったことを思い出し、ルカはリカルドに感謝を伝えようとしつつイリアを守るためにと彼女と傭兵の間に割って入った。
リカルドは面食らい、ほんの一瞬固まる。そしてルカとイリアが居る時点でなんとなく予想はついていたが、彼らの後ろにも戦場で相見えた少年少女達が視界に入り、相変わらず子供ばかり居ることに対して頭を抱えた。ふう、とわざとらしく呆れた溜息に次いでまあ良いと吐き、本題を切り出す。
「アンジュという女を知らんか?」
どきり、ぎくり。全員が身を小さく強張らせた。……知らない訳がない。
沈黙を保ちつつ、最後尾に居る彼女の名前を何故この傭兵が知っているのかと勘繰る。一応リカルドに対して恩があるのは確かではあるが、確か彼はガラム軍側の人間だった筈。
そもそもただの人探しでこんな場所まで偶然やって来る訳がない。ルカとミルファはお人好し過ぎる上に嘘が付けないため困惑が顔に表れ始めているが、スパーダとイリアは怪しい怪しいと疑いの眼でリカルドを見……否、睨み付けている。
じとりとした空気を変えたのは、アンジュがけろりと放った自己申告の一言だった。
アンジュが自分から名乗ったからか、自分の言葉を遮られたからか、イリアは明らかに納得いかないと言った様子で地団駄を踏む。仲間達の一歩前に立つ聖女に傭兵はただのお嬢さんという訳ではなさそうだと賞賛の言葉を贈る。そしてリカルドの目的は案外あっさりと明かされた。
「俺はリカルド。ある者から君の身柄を確保するよう依頼を受けている。同行願えるか?」
「彼らもご一緒してもよろしければ、ぜひ」
「……悪いが他のガキまでエスコート出来ないな」
リカルドが少年少女達へ目線をやって、暗に目的外のものはお断りだと示す。アンジュが情にでも訴えてくるかと彼は考えるが、彼女はにっこり微笑みを向け、はっきりと断りを入れた。
ざまあみろ! そう言いたげにスパーダが鼻で笑いリカルドに帰るよう促す。挑発しているとも言えるのだが。その挑発に乗ることもなく、リカルドは至って冷静に唇に薄らと笑みを浮かべた。
「甘い飴ばかり与えるのは子供の教育上良くないな。鞭も教えてやる必要があるか」
要するに、そう何度も退いてやる事は出来ないということだ。ルカ達がそれに気付いたと同時にリカルドの手にあるライフルが正解だというようにギシリと音を立てる。
恩のある人間相手に戦いたくないと考えるルカがどうにか退いて貰えないかと考えていると、スパーダがいち早く剣を抜きイリアもそれに続くように拳銃に手を掛ける。
仲間を連れて行こうとする人と依頼人からの仕事を邪魔する人、という対立になってしまうのか、彼らは武器を手に睨み合う。どちらかが一歩でも動けば、すぐに戦いの火蓋が切って落とされるような気迫に押し黙ってしまいずっと事の成り行きを見守るしか出来ないでいたミルファが何か声にしないと、と手に力を入れた瞬間。アンジュがミルファの方を見、任せてと小声で伝えてリカルドの方へと向き直った。
アンジュが自分に付いて来ることを選んだと思ったリカルドの眼前に現れたのは布で作られた小さな袋。そして、そこから覗く美しく輝きを発する宝石。その色が映ったリカルドの目の色が二つの意味で変わる。どうやらかなり価値のある宝石のようだ。
傭兵の変化をアンジュは見逃さず、にこりと微笑み彼女はある提案をした。──この宝石を売ったお金で契約を解消し違約金を払い、残ったお金でアンジュの護衛に付く契約を交わすという提案を。つまり、アンジュを狙う誰かの下に居たリカルドを彼女の護衛に雇うということになる。
「……フ。見た目によらず強かだな」
差し出された宝石を受け取り、返さないぞというようにグッと握り締めるリカルド。その行動は交渉が成立したことを意味した。
構わないよね? と今更な確認を朗らかな笑みと共に向けられ、ルカもミルファも戦わないで済むなら、と頷いた。
無理矢理連れ去ることも殺すことも出来ただろうにそれをしなかった。本当に悪い人ではなく、本当に仕事の一環で行動していたのだろう。ミルファは直感でそう思ったのだ。
みんなはどうだろう? とミルファは様子を伺ってみる。ルカはミルファ同様に大丈夫そうだったが、スパーダとイリアは納得がいっていないのが顕著に表れている。武器を納めはしたものの、怪訝そうに黒衣の彼を不審な物を見るようにジトリと真意を図るように見据えている。
「ホントに信用出来んのかよ? 金で寝返るような奴だぜ?」
「仕事熱心とは言うけど自称だしさぁ」
「でも、契約に入ってないからって僕らを見逃してくれたじゃない」
「そうだよ〜。優しい人なんだよ、きっと」
肯定的なミルファとルカの言葉に、二人は顔を見合わせ、まあいいかと言ってリカルドの仲間入りを認めた。イリアもスパーダも別にリカルドが嫌いな訳ではない。自分達にとって危険でないならば同じ転生者として、仲間として行動することに意義はないようだ。
改めて、よろしくお願いしますとミルファはリカルドにぺこりと頭を下げて挨拶をする。すると、ああ、と無愛想に返事された……かと思ったが、口元は判りづらくはあったものの弧を描いていたので不器用なだけで本当は優しい人だと感じた。仕事内容にないからと西の戦場でも助けてくれて、今もこうして仲間になってくれた人だ。悪い人じゃないと信じたい。そう思いミルファは明るく、はいっ! と返事をした。
「あ、ほら。日が差し込んで来てるみたい。きっと出口は近いよ」
「よ、良かったぁ〜……」
「お日様が恋しかったのよね……」
張り詰めていた緊張の糸が出口という終わりに近づいたことでだらりと緩む。あともう少しでこの薄暗い基地ともおさらば! ゴールテープが待ち受けているかのように意気揚々と駆け出す。しかし解放感を味わう手前で先導していたリカルドにより突然遮られた。
アンジュがどうかしたのですか? とリカルドに訊ねると、固まったまま動かない。訝しんだ彼女が前方に何かあるのかと覗きこもうとした時、やっと男は口を開いた──ライフルの引き金に手を掛けて。
「おい、なんだってンだよ?」
「……早速仕事の時間のようだ」
視線の先を辿ると、出口の前、差し込む陽光を背に男が立っていた。
「転生者共、逃がさんぞ。全員この場で死んで貰おう」
白髪に灼けた様な肌が特徴的だ。手にしている武器は槍のように見えるが、刃先が二股に分かれており珍しい形をしている。に灼けた様な肌が特徴的だ。手にしている武器は槍のように見えるが、刃先が二股に分かれており珍しい形をしている。そして……額に三つ目の眼を持っている。
その男が全身から放つ圧倒的な殺意に、場にいる異人以外の全員がザワザワと恐ろしさに身の毛をよ立たせた。