05.戦場のチェスピース
戦について無知のままだと、どれだけ強くても死は遠ざからない。故に、自分たちの置かれている状況、戦況を理解せねばならない。
──ガラムとレグヌムの戦争の始まりは、ガラムが交易路を一方的に封鎖したことがきっかけだ。一般には、山賊を装ったレグヌム軍がガラムの鉱物輸送隊を襲撃したからという話になっているのだが、実際はガラム側がそう宣言しただけである。ガラム軍がゲリラ戦に持ち込むために公道を早々に封鎖した──という話をスパーダが分かりやすく説明するが、勉学好きのルカはともかく、イリアはちんぷんかんぷんのようですっかり飽きてしまい欠伸をしていた。ミルファは既に耳にしたことがあるので再確認しつつ真剣に聞いている。
ミルファやスパーダのような貴族──王都の盾を担う騎士の家系であればそういう話が耳に届きやすいのだ。ミルファの家系は正確には騎士という役割を持ってはいないのだが。
(あ、そういえば……)
──無知といえば、とミルファは小さく胸に痞えていたことを口にした。
「わたし、みんなの前世とか……何も知らないけど、大丈夫かな?」
「知って貰ってた方が良いとは思うんだけど、簡易的に話すのも難しいのよねぇ」
「今は悠長に話していらんねェしな。……ほら、来たぜ」
幸運にも敵兵に遭遇することもなく奥へ奥へと進んで行く一行の前に、草むらからガラム兵が姿を現した。スパーダは腰にかけてある双剣を一早く抜き、ミルファもレイピアの柄に手をかける。彼女は特別な力である異能――天術は使えないため不利ではあるが、何も両軍共の兵全員が天術を使える訳ではない。
わたしは毎日剣の稽古をしていたのだから少しは役に立てるかもしれない、役に立ちたい、という思いでミルファは手に力を込める。その後ろでルカは自分を奮い立たせるため、暗示の言葉を繰り返し呟いていた。
「大丈夫……大丈夫……、僕ならきっと出来る。僕はアスラ、アスラなんだから……」
「……アスラだと!」
ある種祈りのようなそれを耳にし、兵士の目の色がゆらゆらと憎悪を含む恐ろしいものへと変わる。予期していなかった訳ではないにしろ、何度も目にする前世の恨み辛みによる戦意にイリアは溜息を漏らした。うんざりとでも言いたげに、盛大に。
ガチリ。撃鉄を引き起こしコッキングを完了させ、いつでも発砲出来るよう準備を終えるイリア。じろりと相手を見やると、威嚇しつつ相手の出方を伺う。
「転生者ね。……あんたアスラの知り合いだった人?」
「冗談ではない! 仇だ! 我が家族を此奴に斬られたのだ!」
これは本当に前世での話なのか。今地に足つけて居る場所は本当に現実なのか。そう思わずには居られないほどに相手の殺意、思いは明確であり、気圧されてしまいそうになる。説得しようにも過度な興奮状態でこちらの話が通じるとは思えない。まるで幾日も獲物にありつけなかった猛獣がそれを目の前にしたときのような興奮具合だ。正気ではない。
ガラム兵は適正検査の際に転生者が見せたような異形の者の姿へと変貌を遂げる。叫びはもはや人のものとは思えないほどに荒れ狂い、殺意を撒き散らしながらルカへと飛び掛かる──!
ルカは攻撃をひらりと避け、襲い来るものを薙払うように剣を振るう。それは見事に命中し相手の腹部を風ごとざっくりと深く、大きく斬り裂く。神の姿から人の姿に戻り、どくどくと血を流し身体を数回びくりと震わせていたが、数分もしない内に息絶えてしまった。剣にべとりとついた血を払いながらルカは安堵の息を吐く。
……なんて、呆気ないのだろう。目の前で起こった一瞬の闘いにミルファの思考は凍結し、置いて行かれていくような錯覚に陥る。血の匂いが溜まりと共に広がっていく。現実だ、起きろ、と脳が指令を降して来る。
(戦争なんだ、仕方ないんだ。同情しちゃだめ。でも……)
ミルファは息を引き取った敵国の兵士の亡骸の傍らに膝をつく。
……戦争なんて、早く終わればいいのに。この人にはこの人の人生があったはず。だけど最期は前世の記憶、思いに呑まれ喰われてしまったのだ。そう思うと、とてもやるせない。同情してはいけないとわかってはいるが、彼女は自身の胸の内から溢れる哀れみの感情を塞き止められない。
今度はどうかあなた自身の人生を全う出来ますように、と。ぎゅうっと胸の前で手を組み神へ祈りを捧げ、少し先へと進んでいた三人の後を追った。
◇
強過ぎる思念の前ではルールなんてものは容易く踏み付けられてしまうのだろうか。
「アスラ!! さあ剣を抜け! 再び巡り合えたこの好機、逃してなるものか!」
数刻前の話。
乱戦状態にあるため、いつどこから攻撃されるか分からない。とにかく敵を撤退に追い込むためにも応戦しなければいけない。草むらの陰を揺らし現れるガラム兵と戦い続けていたため、姿を見せた味方である王都兵へ咄嗟に武器を向け掛けてしまったが、やっと味方に巡り会えたため一行は武器を収めて一息吐いた。しかしその王都兵はルカを睨み付け、事もあろうに自分と戦うようにと叫んで来たのだ。動揺したが、四人はもう相手の目を見て分かってしまった。何度も向けられて来た憎悪の目──アスラを敵視する者だと。
「あんた王都兵だろ。味方を斬るってのか? 軍規違反じゃねェのかよ、ソレ」
「お前がいたからこうなったのだ! 全て、全てお前のせいだ!!」
そして、現在の状況がこれだ。ああ、もう滅茶苦茶だ。全く話が通じない。憎悪に支配されて善悪が判断出来ない状態なのだろう。
スパーダは呆れ果て、戦う他ないと判断した。遅れを取れば死は免れないからだ。もう常識は通用しないの? とミルファの頭の中はぐらぐらと揺れる。拠点まで戻って指揮官に知らせて抑えて貰う選択もない訳ではないが現実的ではない。相手はこちらに明らかな殺意を向け、殺そうとしているのだから。ミルファ自身それは分かっている。だがどうしても決断出来ない……と問答を繰り返していると。
「僕のせい? 君が弱かったからじゃないのかな?」
──今、喋ったのは誰?
ゾクッとした感覚が襲って来た後、冷たい汗がじわりと広がった。その場に居る者誰もが、喋った人物のことなんて分からない筈がない。ただ、信じられなかったのだ。
ゆっくりとミルファは首を動かして彼を見詰める。すると、あのルカが兵士を嘲笑うようにクスクスと笑っていた。
「ル……ルカ、くん……?」
明らかに様子の変わった彼に戸惑うばかりのミルファは、どうしたの? 大丈夫? そう続けるべきなのに、言葉を放つ事が出来なかった。心配で仕方ないが、それよりも測り知れない違和感が恐れとなってしまってどんどん血の気を奪っていっている。
励ましたつもりが裏目に出てしまった──そうスパーダは思った。生き残るために自分を奮い立たせろ。そういう意味合いで、ルカは強い、アスラの力を持っているのだからと言ってしまったのだ。結果、間違った方向に自分の力を過信し始めている。
(……完全に力に酔ってやがる)
イリアもミルファも、敵よりも仲間の変貌に意識が向き過ぎている。このままでは良くない、そう思ったスパーダは眼前の兵士から少しも目を離さずに見据える。
「……黙れ! 黙れ黙れェエッ! ウッ……ぐ、ガァアア!!」
咆哮が轟く。味方である王都兵が神の姿といわれるものに姿を変え、彼らに襲い掛かる!
ルカは微かに口元に弧を描き、自信に満ち溢れた笑みを見せた。素早く剣を構えて駆け出し、その後にスパーダも続く。
相手の足下に紋様── 魔導の術式が浮かび上がる。今まで数回転生者と戦ったが、天術を使われるのは初めてだったため反応が遅れてしまい発動を許してしまう。
大気中に在る見えない水蒸気を集め生み出された三つの水の塊の下級天術がこちらを目掛けて放たれルカとスパーダの目の前まで迫るが、ギリギリのところで身を捻り躱した。甘い! と思ったが、それはルカ達の方だと言える。
的に当たらなかった水弾は後ろに居たイリアとミルファの方へと向かっていたのだ。
「……クソッ……! 避けろッ!」
「イリアちゃん危ないっ……!」
「こんな流れ弾に当たると思われてんのは心外ね! 相殺してやるわ。──アクアエッジ!」
下級天術であるそれをイリアも同様に唱え、放った。ゴオッ! という勢いで敵の方へ飛んで行くが、味方にも当たりそうな勢いだったため、イリアの大雑把な性格が現れているように思える。危ないだろ! うるさい! とイリアとスパーダがぎゃいぎゃいと言い合う。その間に天術は相殺するどころか、全て神の姿となった者にクリーンヒットした──ここまでは、ここまでは良かった。
「なんだ? 仲間割れか」
「……ッ! まずい、ガラム兵が……!」
背後からガラム兵が現れる。挟み撃ちにされ、逃げようがない。どうしたものかと全員が武器を手にしながら思考を巡らせる。
しかし。
「あ、あなたは……! イナンナ様ッ……お会いしとうございました……!」
「ハァ……? ちょ、何……ッ」
突然、ガラム兵がイリアの側に駆け寄り膝をついて頭を下げた。何がどういうことか理解出来なかったが、どうやらイナンナ──イリアの前世に関わりのある者のようだ。
「何故ラティオを裏切りセンサスに行かれてしまわれたのですか?」
「ま、待ちなさいよ! あんたガラムの兵士でしょ!? 前世のいざこざで敵に跪くなんて……っ」
「ああ……アスラ……やはりアスラが奪ったのですね。ならば……」
崇拝の意を込めて跪いていたかと思うと、ゆらりと立ち上がり髪の隙間から覗く瞳で銀髪の少年を睨み付けている。その眼には、憎しみ、妬み、殺意……様々な感情が織り交ぜられているようだ。今まで遭遇して来た者達と同じ。何度も何度も見て来た故に明らかだった。彼もまた、そうなのだ。その結果に、ほら──神の姿へと変わってしまった。
ラティオの神が、イリアへと手を伸ばす。
「……渡すもんか!!」
先程の兵士を難なく倒し、イリアの身に危険が及ぶと思ったルカが小さく叫び、神の姿へと変身した者へ迷うことなく斬りかかった。斬撃は伸ばしていた腕を斬り裂いたが致命傷には至らない。
自分が狙われていると判断したイリアは瞬時に距離を取り、ミルファは彼女の前に立ちレイピアを抜き身構える。だが、距離を取ったことで相手はどうやら拒否されたと捉えたようだ。イナンナの名前を何度も呼び、羨望するよう手を再び伸ばす。だが、届かなかった。双剣と大剣により斬り伏せられたからだ。
「ミルファ! 無事か!?」
「う、うん、でも……」
「ぐ、う……イ、ナンナ……さ……、ま」
イリアを庇い敵に剣先を向けていたミルファは、戦いが終わったことを認識し、へなへなと力が抜けてしまいレイピアを下ろす形になる。
事切れる寸前まで前世に囚われたままの兵士が、苦しげに顔を歪めている。変身は解けて現世の姿に戻ったがそれだけだ。彼の運命は喰われてしまった。
敵兵故に駆け寄ることも傷を心配することもミルファには出来ない。血溜まりの中にガラム軍の象徴であるカーキー基調の兵帽が落ち、ぴくりとも動かなくなるまで、何も。
(……この人は、きっと悲しかったんだ)
言葉にしていた通りなのだろう。きっとラティオの者はイナンナを本当に慕っていて、仲間だと思っていた。それなのに自分達を振り返ることもなくアスラの元へと行ってしまったイナンナの気持ちが理解できなかった。何故裏切ったのかという思いがだんだん恨み辛みへと姿を変えたが、本当はただ悲しくて何も知らず何も出来ない自分に憤りを感じていたのではないか。そうミルファは思った。
「何とか勝ったはいいが、毎度これじゃあな……」
「うん……」
また前世の因果のせいで命が摘み取られてしまった。目を逸らして逃げ出したくなるほどに救いがない終わり。転生者の末路は全て前世に呑まれて終わると決まっているのだろうか。
(わたしはまだ、本当にそうなのか分からないけど……)
仲間がそうなってしまうのは嫌だ。戦争の恐ろしさも転生者の運命も、何とか出来ないのだろうか。彼女の慈愛の如き気持ちは本物だが、所詮は儚い夢物語で理想論だということはミルファ本人も重々理解している。
物思いに耽っている場合ではない。ぶんぶんと首を振り甘い考えを振り払い、祈りを済ませて立ち上がる。辺りに人影はないが、いつまた遭遇するかも分からないため慎重に動かねばならない。
ふと、ルカが俯いて肩を震わせているのが見えた。気が昂っていたとはいえ、人の生死を目の前にして恐ろしくない訳がない。大丈夫かとミルファが声をかけようと近付いた、その時だった。彼は顔を上げて空を仰ぎ、高らかに、愉快そうに、笑い声を上げたのだ。
「はは!! 勝った勝った! イリアを守ったぞ……僕は、僕はアスラなんだ! この僕がこんなところで負ける訳がないんだ! はは……ははははははっ!」
森の中にルカの狂った高笑いが響く。まるで悪魔だ。今まで出逢って来た転生者と何が違うというのか。彼は今まさに、取り込まれようとしている。前世の強さに。
驚きすぎて、息をするのを忘れる感覚だった。出逢って間もない自分が何を知っているのかと言われればそれまでだが、ミルファは自分の中のルカと今目の前のルカがあまりにも違いすぎて、夢だと思いたいほどに愕然としてしまう。
夢なら……夢であってくれたなら。だけど夢でもこんな彼を見るのは嫌だ。泣き出しそうになるのを堪えるように、嗚咽が漏れないように、口元を覆った。
力に酔い、自分を見失い、命を軽視している。見るに耐えない。自分の身を守る為とはいえ、これはいけない。自分の激励が招いた結果だ。そう思ったスパーダが口を開きかけたが、それよりも先にイリアが声を上げた。
「──あんたねェッ!!」
我慢の限界だというような大きな声。彼女の声に驚き目をぱちくりとさせて、どうしたのと首を傾げながら訊ねるルカは、自分の異質さに気が付いていないようだった。
ここで気付いてくれたら良かったのに。イリアは苦虫を噛み潰したように顔を歪ませ、ギッとルカを真っ直ぐと見据え睨んだ。
「戦場とはいえ人の命を奪ってんのよ!? 人を殺して、そんな風に笑っていられるなんて……あんたおかしいわよ! どうかしてるっ!」
疑惑。怒り。切望。ごちゃごちゃと混ぜこぜになり昂った気持ちを吐き出したイリアは、まるで思い切り走り込んだ後のように息を切らしている。
嫌いだから、傷付けたいから言ったのではない。むしろ仲間で友達だと思ってるからこそ、言った。目を覚ませという気持ちを込めて。
叱咤の言葉で少しずつ自分と周りの価値観が分かってきたのだろう。ルカは絵に描いたようにじわじわと困惑した顔になり、慌て始める。
(僕は、僕は、イリアを守りたくて、それで……)
何を間違えた? 何が間違いなんだ? それを考えた時点で聡いルカが気付かない訳がない。故に理解した。自分がどういった気持ちで戦い、剣を振るい、血を流させたのかを。
完全に我を見失っていた。きっと教えて貰わなければ分からないままだったのではないか。そう思うとゾッとする。
自分の前世である戦の神アスラに憧れ、彼のように強く在り想いを寄せる女性を守れるようになれたらと、彼になれたらと、思っていた。自分にとって前世の記憶というのは切り離せなくて、憧れだ。故に深く深く根付いているのだろう。魂に刻まれたものなのだろう。
自分の失態に汗が止まらないルカは、もう要らないと言われるのを恐れている。スパーダが、ミルファが、イリアが、今どんな風に自分を見ているのか。許してくれるのか。色々悪い想像が己を虐める。
何か言葉にしなければと小さくも確かにガタガタ震える唇。恐怖や緊張で濡れたそれを一度キュッと結び、口を開いた瞬きの間に。
「素晴らしいわ、ルカ君!」
「……! チトセさん……?」
「私の見込んだ通りだった! あなたは本当に強い人ね」
森の前で別れたチトセが姿を現した。遠目にではあるが、ガラム軍やレグヌム軍の負傷者が蹲っていたり倒れ込んでいるのが見える。……この中を丸腰同然の彼女が抜けてきたのかと思うと不思議で仕方がない。何故ここにいるのか、と問いた気な全員の驚きには目もくれず、チトセはうっとりとした様子で目を輝かせルカへと近付いた。
出逢った時からそうだが、チトセは何かとルカを褒める。自分に自信のないルカはそれだけで認められたように思えて嬉しくなっていた。……が、今は素直に受け取ることが出来ない。強いのは自分本来の力ではないし、今し方それに溺れて醜態を晒したのだ。彼女の言葉にどう返せばいいのか口籠るルカの声を遮り、スパーダが呆れたようにチトセへ厳しい言葉を投げ掛ける。ここは戦場で、命のやりとりをする場所で、武器も持たない非戦闘要員が来る所ではないと。
「危険なことは分かって居たけれど……つい引き寄せられちゃったの。強い殿方に寄り添いたいという、私の本能の部分がね」
恍惚としたチトセの様子は正気ではない。そう言いたげに心底呆れ不快感を表すイリアだったが、やはりと言うべきか、続く言葉をチトセの華やかな笑顔に掻き消された。
「おめでとう。あなたの活躍でガラム兵は退いたそうだわ。本当におめでとう……」
「そ、それ本当? チトセちゃん」
「ええ、ミルファ。本当みたいよ」
「そっか……そっかぁ。よかった」
イリアの叱咤の言葉を聞き、無闇に口を出すのも良くない、多対一になってしまう……そう考えて黙って事の成り行きを見守っていたが、チトセの言葉に安堵の声が漏れた。これでもう人の命を奪わないで済むんだ。酷く安堵し、張り詰めていた緊張が身体から抜けていく。そんなミルファを見て、チトセは良かったわねと微笑む。
優しい人の筈なのに、どうしてイリアとは馬が合わないのか。イリアもチトセも、反応や言動は真反対ではあるが、お互いをよく思っておらず嫌悪しているのが見て取れる。ミルファも、認めたくはないだけでそこは理解していた。
いつか、何かきっかけがあれば。二人は僅かでも歩み寄れないだろうか。仲良くなれないだろうか。そんなお節介な望みを夢見てしまうのだった。
苦く笑い、森の奥の奥まで続く木々を見詰めてみる。拠点の方角へと戻る人、動けずに木にもたれかかる人……レグヌムの兵が至る所に居た。手当てをしないといけないと思うミルファはチトセに、アルカ信者が救護活動をするから平気だと諭され、ホッと胸を撫で下ろす。
──戦争をした、殺し合いをした。緊張の系が解け始めたことで改めて認識したその事実と、辺りに立ち込める様々な臭いに頭がぐわんと揺れるようで……自分も壊れてしまうかと錯覚してしまう。
今のミルファに出来るのは、戦争で亡くなった人々の安らかな眠りも、少しでも早くこの血腥い森から離れたいと祈るように願うことだけであった。