06.君に、恋をした

虹村side.


一年前、入学式。

昇降口んところに貼られたクラス分けの紙を見つめて自分の名前を探す。…ダルい。人も多いしクラスも多いからか他のやつらもしばらくじぃぃっと紙を見つめている。なんかウケんなこの光景。

少しすると、「やったークラス一緒だねー」とか「離れてもずっと友達だからね!」とか騒がしくなる。くだらね…クラスわかったんならさっさと教室行けようざってぇ。つーか俺の名前どこだよ!

一際騒がしい集団が、よっしゃ教室まで競争しようぜーいちばん遅かったやつ全員にジュースなーひゃっはーとか後ろでやっていていよいよ俺のイライラがピークにきたとき、追い討ちをかけるかのように誰かが背中に勢いよくぶつかってきた。

「ってぇな…」渾身の睨みをきかせながら振り返ると、

「痛った…ごめんなさい、後ろにいた人に押されちゃって」

てっきりさっきの馬鹿集団だと思っていたけど、後ろにいたのはとんでもなく可愛い美少女だった。どうやらあの馬鹿集団の被害者らしい。

「あの、大丈夫ですか…?」
「あ、ああ」
「よかったぁ」

安堵した彼女の柔らかい笑顔に、心臓がドクンと脈打った。胸の辺りが騒つくっていうか苦しいっていうか…これが俗に言う、一目惚れってやつなんだと思った。彼女の笑顔と風で舞ってる桜が綺麗にマッチしてて、思わず見惚れてしまった。

「本当にごめんなさい。それじゃ」

そう言って控え目な笑顔でペコッと頭を下げると彼女は行ってしまった。彼女の後ろ姿を見送り、本日二度目のクラス表とにらめっこ。あの子と同じクラスだといいな、なんて期待を込めながら。


「やっぱ3組の苗字名前っしょ」
「わかる、俺も苗字に一票」
「虹村はー?」

昼休み。あれから数日経ち、クラスにも馴染んできて仲のいいやつらと一年で誰が可愛いかとかそんなくだらない話をしていた。こんなんその他の女子達に聞かれたら反感買いそ〜とか思いながら「誰だろうなぁ」つって笑っといた。

「は?つまんねーやつ!…て噂をすれば苗字じゃん」
「どれどれ?あ、まじだ。今日も可愛いなぁ。てか一緒にいんの、うちのサッカー部の先輩なんだけど」
「そーなん?つかさ、告白されすぎじゃね?今んとこおっけー貰ったやつ見たことねーけど」
「好きなやつでもいんのかな?わ〜、苗字に好かれるとか…妄想膨らむ〜」
「ははっ、お前本気でキモい」
「うるせぇ!」

馬鹿やって笑って、放課後はバスケして夜は遊びに出て、なんだかんだ順調に中学生ライフを楽しんでいたりする。ただ残念なのは、お察しの通り、あの時の子、苗字名前と同じクラスにはなれなかったこと。まあこれだけクラスがある中で一緒になれるほうが奇跡だよなぁって諦めはついてんだけど。つか、もしさっきのやつと付き合っちまったらどうしよう。別に告る予定なんてないし、話すキッカケさえもないんだけどちょっとやだな…て乙女かよ。俺も大概キモいな。


家に帰ってきて自分の部屋の散乱っぷりに嫌気がさしたので掃除を始めたのだが俺のバイブルでもあるバスケ漫画スラ◯ンの探していた巻が出てきてしまったので、中断して思わず読み込んでしまう。あーやっぱ最高だわ。俺バスケットマンで良かった。

元チームのエースで怪我を機にグレた不良が仲間を引き連れてバスケ部をぶっ潰しにきたんだけど返り討ちに合うみてーな話の回。この漫画の中でもいちばん印象深い話だ。あー…何度読んでも泣ける。

「諦めたら、そこで試合終了ですよ」

恩師が現れて、それまで荒ぶってた不良が「バスケがしたいです…」と本音をこぼし涙を流す。そして安西先生の言葉が、俺の胸にも突き刺さった。何もしないでただ見てるのは、もうやめる。


翌日意を決して苗字がいる3組の教室に来たはいいが、なんて声掛けたらいいのかわかんなくてストーカーのように廊下から覗いていると、苗字の席には数名の男子生徒が。

「苗字さん、サッカー部のマネージャーになってよ。部員みんな優しいし楽しいよ」
「いやいやうちの野球部に!そんでもって俺の南ちゃんになってくれ!」
「馬鹿かお前らは。苗字さんの魅力を最大限に活かせるのはテニス部に決まっている!そして我が写真部に写真を、いや写真集を作らせてください!!」

…なんかすげえことになってんな。苗字明らか困ってんじゃん気づけよあいつら。どうすんのかなーつか俺どうしよう、どうしたらいいかわかんねーけど、この機を逃したら後悔する気がする…

「わかった、じゃあお試しでいいから一週間だけ。それならいいでしょ?」
「勝手に決めんなよ。そんな横暴な部に苗字はやれねーな」
「綺麗に撮るから。絶対後悔させないよ!」
「あの、さっきから言ってるけど私は…」
「苗字はうちのマネージャーになんだよ。だから諦めろ」
「えっ…?」

……やばい。あいつらがあんまりしつけーからなんかテキトーなこと言って苗字引っ張って来ちまったけど…俺がいちばん苗字困らせてんじゃねーか?

「あ、あの…」
「あー…ごめん。なんか困ってそうだったから、つい」
「うん、びっくりしたけど助かったよ。最近あの人達しつこかったから」

そう言って苗字は苦笑いした。まあ、助けたように見えて俺もあいつらと同類なワケなんだけど。

「入学式の日、私がぶつかった人だよね?名前は…」
「虹村修造、5組」
「虹村君ね。苗字名前です。さっきは助けてくれて、どうもありがとう」

あー、やっぱりカワイイわ。さっきの苦笑いも悪くなかったけど、この笑顔がいちばん好き。

「あの、さ」
「うん?」
「さっき言ったことなんだけど…本当にバスケ部のマネージャーになってくんねーかな」
「うーん…いいよ」
「え、まじ!?」
「うん、バスケ部のマネージャー」
「絶対断られると思った」
「そうなの?でも私バスケの知識ほとんどないから、虹村君色々教えてくれる?」
「ああ、俺にできることなら何でも」
「ありがとう!じゃあ、お願いします」

ああ、まるで天使の微笑みだ。しかも俺を頼ってくれてるとか最高に嬉しい。

それからちゃっかり連絡先も交換して、無事、なんとか毎日会う口実を作ることに成功したのだった。安西先生に心から感謝。


ちなみに、なんでOKしてくれたか聞くと、「スラ◯ン好きなんだよね」とか言ってきたからすげーテンション上がった。少年漫画とか読むんだぁって親近感わいた。ちなみにキャラでは流川(主人公のライバルでルーキー。バスケが天才的に上手く無口でイケメン)が好きらしく、「誰よりも上手いのに誰よりも努力してるところがカッコイイ」んだと。ライバル、否、目標は流川かぁ。俺はどちらかというと三井(グレた不良のほう)派なんだけど、流川目指して頑張るか。なんて勝手に決意を固めた12の夜ー。