04.先輩は小悪魔(灰崎祥吾)


「せーんぱいっ」
「きゃっ!」

いきなり後ろから抱き着かれてせっかく畳んだ洗濯物を危うく落っことしそうになった。振り返らずとももうわかる、こんなことをしてくるヤツは決まっているからだ。

「もう、祥吾!いい加減にしなさい!」
「怒った顔もかわいいっす!もっと怒って下さいっす!」
「はぁ…」

半ば諦めて無視をきめこんでいるというのに、この男はそれでも懲りずに「先輩いつデートしてくれんの?」「どこ行きたい?」「好きな食べ物は?」「ゲームとか好き?」「今日のパンツ何色?」などくだらないことを聞いて絡んでくる。

灰崎祥吾。練習には気まぐれでしか参加しないくせに強豪校のうちのレギュラー。問題児だし人の技を奪うというのが彼のスタイルなため、結構な嫌われ者。黙っていればイケメンだし、強奪せずともバスケは上手いし、いろんな意味で宝の持ち腐れしてるなあ、と思ってなんか放っておけない存在だったりする。

コイツに至ってはこちらからは何も仕掛けていないのに出会った初日から「一目惚れしたっす!俺の女神…!」とか言われて懐かれて、祥吾に手を焼いていた他の部員達は驚いていた。

祥吾を従えて体育館に戻ると青筋を立てて怒っている虹村君がドスドスと音を立ててこちらに向かってくる。

「はーいーざーきーテメェエエエ」
「っぎゃー!!!!!」

逃げる祥吾を瞬時に捉え部室に連れ込むと、数分後。にこやかな虹村君の後に原形をとどめていない酷い顔の祥吾が現れみんなが引いていた。

「悪いな、いつも灰崎のやつが邪魔して」
「あはは、平気だよ」
「そっか。まーなんかあったら俺に言って。アイツシメんのも俺の仕事だから」

そう言って爽やかに微笑むと虹村君は練習に戻っていった。虹村修造恐ろしや…。でもなんだかんだでいちばん祥吾のこと面倒見てるの虹村君なんだよね。コーチや他の部員からは「もう放っておけよ」とか言われているのに、毎回汗だくになって祥吾のこと探しに行くんだもんなぁ。優しい、よねー…


・・・


部活終わり、祥吾に「アイス奢るから一緒に帰ろう」と誘われ、なんか可愛かったのでおっけーして今に至る。コンビニでソフトクリームを買ってもらい、祥吾はチョコで私はバニラをチョイスした。久しぶりに食べたけど美味しいなあ、部活終わりっていうのが更に引き立ててるよなあ。祥吾いいとこあるじゃん、と思っていたら早々に祥吾が愚痴りだした。コイツってヤツは…

「それにしてもさー、虹村サンってほんとうぜーよなー!頼んでもねーのに毎回探しに来るし、最近行動パターン読まれすぎてリアルに怖えーんだけど」
「あはは、それだけ祥吾がチームに必要なんだよ。だからちゃんと毎日練習来なさい」
「ちぇ。なんだよ名前先輩まで年上ぶってさー…お節介な兄貴と姉貴みてぇですげーヤダ」
「私も祥吾みたいに手のかかる弟は御免だなー」
「はあ?うっざ!!名前先輩なんかもう…」
「あ、やっと嫌いになってくれた?」
「〜〜!!嫌いになってなんかやんねーし!!その内絶対抱くし!!」
「あはは、なにそれ。弟とはシてあげないよーだ」
「マジむかつく!!もう当分部活行かねえ!!」

怒ってそっぽを向いた祥吾に、「怒った?おわびにこれ一口あげよっか」と食べかけのソフトクリームを差し出せば、「やった!名前先輩と間接キスゲット!!」と大喜びしていた。バカだなあ、祥吾。こんな弟が本当にいたら毎日楽しいだろうなあ、なんて心の中で思いながら口では「単純バカ」と吐き捨ててまた祥吾のご機嫌を損ねるのでした。まあ、こんな日常も、悪くないかな。