23.スキだけじゃたりない

虹村side.

「お、来てくれたのか」
「「お父さーん!!」」

今日は母さんも休みだし家族みんなで親父の見舞い。学校帰りに立ち寄って着替えを渡したりしている俺と違って週末しかここに来られない弟と妹は大喜び。病室に入るなり元気に飛びついてくるちび達に親父の目尻も下がりまくってる。

「これ、着替えと頼まれてた荷物。あと暇だろうから近くの本屋で親父が好きそうな本買ってきた。ま、気が向いたら読めよ」
「ありがとう。いつも悪いな」
「兄ちゃん俺らにも本買ってくれたんだぜー」
「へぇ、それはよかったな」
「私はプ◯キュアの塗り絵だよー!今度名前ちゃんと一緒にやるの!」

…げ。

「名前ちゃん?学校のお友達かい?」
「ううん、お兄ちゃんの…」

余計なことを口走ろうとした妹の口を急いで手で押さえ話を遮った。

「名前は兄ちゃんの彼女だよ。なー!」

ああ、止めなきゃいけないのがもう1人いたんだった…

「修造、お前彼女いたのか」
「たまに遊びにきてくれるのよね、すっごい美人さん」
「はぁ…母さんまで」

今までそーゆー系の話家族にしたことなかったからすげー恥ずかしい。あーまじで帰りてぇ…

「もしかして名前ちゃんは、マネージャーの子かい?確か苗字さんだったかな」
「…そーだよ。つーかよく覚えてんな」
「ははは、お前が女の子の名前を口にするのは珍しいからな。少し気になる存在ではあったんだよ」
「あっそ…」

早くこの話題終わってくんねーかな、よりによって珍しく家族全員揃ってる時になんであいつの話題になんだよ…薄着で来たのに汗だくなんですけど。

「あ、そういえば次の金曜日お母さん仕事で帰りが遅くなるのよー。名前ちゃんに泊まりに来てもらったら?名前ちゃん料理とかする?」
「合宿の時のマネージャーの料理美味かったって言ってたじゃないか。それ名前ちゃんだろう?」
「…まあ、料理は上手いけど」
「いいじゃん俺も名前に会いてえ!」
「私もー!」
「いいなぁ、父さんも会ってみたいな」
「じゃあ土曜日ここに名前も連れて来てやるよ!」
「おい、お前何勝手に…」
「本当か!じゃあ楽しみに待ってるよ。修造、頼んだぞ」
「…まじすか」

なんか勝手に盛り上がってんだけどこの家族。あいつの名前がふつーに虹村家に浸透してんのがなんか変な感じ。まあ、自分の好きな人を家族も好きになってくれんのは悪い気しねぇけど。


「…てわけなんだけど、どうデスカ」
「えー嬉しい!!」

休み時間、いつものように椅子を横座りした名前と話してた流れでこの間のことを聞いてみると、思っていた以上に名前が喜んでいるので少し安心した。だって付き合ってるやつの親に会うとか多少なりとも気使うし、ぶっちゃけめんどくせーとか思うやつだっていんだろ。俺だって名前の親に会うってなったらぜってー緊張するし…

「そっか、ならよかったわ」
「修ちゃんのお父さんてどんな人?」
「んーまあふつーの親父だけど…一言で言えば陽気なオッサンかな」
「あはは、なんか修ちゃんからは想像できないな」
「まあ特に話すこととかねーと思うけど、テキトーに相手してやって」
「うん!金曜日の夜はみんなでご飯作ろうね」
「えー俺も?」
「当たり前でしょー?あ、次移動教室だったよね。みんな移動し始めてるから行こっか」
「ああ、だな」

あー視聴覚室まで行くのだりー…まあ多分DVD鑑賞とかだろうからいいけど。

「ねぇ、前から思ってたんだけどさ」
「ん?」

教室を出ようとすると名前にズボンを掴まれ振り返る。

「腰パンやめてほしいんだけど」
「は?今更なんで」
「だって…パンツ見えてるし」
「こんぐらいなら良くね?それに逆ならまだしも男のパンツちょっと見えたところで別になんとも思わねーだろ」
「この前女バスの一年の子がキャーキャー言ってたもん」
「え、俺のこと?」
「うん…」
「へぇ、珍し。黄瀬とかならわかるけどな」
「もう、話そらさないで」
「嫌だった?」

最近ちょこちょこ嫉妬してる部分とか見せてきてそれでケンカになることも結構あるんだけど、正直ちょっと嬉しい。付き合う前まではなんとも思われてなかったから俺のこんな細かいところとか気にもしてくれてなかったし。今はそんだけ俺のこと好きでいてくれてんのかなって思うと嬉しくて、にやける顔を誤魔化すためについまた意地悪をしてしまう。

「べ、別にそーゆーわけじゃないけど、なんてゆーか、だらしないし…後輩達に悪影響ってゆーか…」
「ふーん…なんだ、つまんねーの」
「え?」
「妬いてくれてんのかと思ったのに」
「からかわないでよね、別に妬いてないし」
「へぇ…俺は妬くけど」

教室のドアを閉めて名前の腕を引くと誰もいなくなった教室でキスをする。少し長めに唇を重ねた後ゆっくり離すと至近距離で見つめ合う。顔を赤く染めて潤んだ瞳で見つめてくる困り顔も好き。

「イジワル…」
「好きな子ほどいじめたくなるタイプなんで」

からかいの眼差しを向けて微笑めば眉毛をハの字にしたままの彼女も呆れたように微笑んで俺を見上げてくる。その顔が可愛すぎて、この気持ちを言葉にすることができなくて、優しく抱きしめるとまた唇を重ねた。

「…いいよ。じゃあ腰パンやめるから、お前もスカート長くして」
「はい?」
「理想は膝下だけど無理なら膝上で許す」
「やだよ、うちの学校の制服そんなスカート長くして穿いてる子いないもん」
「他のやつとか別にどうだっていーし。大体お前は隙が多すぎ」
「えー?そうかな?」
「そーゆー自覚ねーとこだよ!バスケ部のやつらにも簡単に抱き付かれるし、ちょっと目離すとすぐナンパされるし」
「それって私のせい?」
「そうだ、ちゃんと断れないお前が悪い。俺以外に簡単に触らせてんじゃねぇよ」
「…ふふ、なんか今日は随分素直だね」
「うっせ…」
「できるだけ気をつけます。だから…」
「ん?」

最後のほうが聞こえなくて少し屈んで聞き返すと内緒話でもするみてぇにコソ…と耳打ちされ、俺の心拍数は更に上げられる。

「金曜日の夜、ちびちゃん達が寝た後、いっぱい甘えていい…?」

それって…それってそーゆーことだよな。春休みに名前と初めてHしてから忙しくてゆっくり遊んだりもできてなかったし、この前もそんな感じのこと言ってたしな。ほぼ毎日会えてはいるけど、もしかしたら寂しい思いをさせてしまってたのかもしれない。つーか俺だって名前と2人っきりでゆっくりしたりいちゃついたりしてぇって思ってたっつーの。なのにこんなかわいい真似されたら金曜まで待てるかわかんねーんだけど…

「…あいつら、なるべく早く寝かしつけるわ」

照れ笑いする彼女にまたキスしようと顔を近づけると予鈴が鳴った。空気読めよな…

「やば、急がなきゃ!」
「別にいいだろ。もうこのままフケよ」

DVDとかどーでもいーし。もう俺いちゃつきたいモード全開なんだけど。

「な?」

駄目押しで手を握り見つめてみる攻撃。

「もう…ダメに決まってるでしょ!ほら急ぐよ!」

あえなく失敗。繋がれた手はそのまま引っ張られ視聴覚室へと走る彼女の為すがままに。ダラダラ走る俺のほうを振り返ると「遅いよ、ダッシュの本数増やしたほうがいいんじゃない?」とかなめた口を聞いてきやがる。

「言ったな…」

本気を出した俺に悲鳴をあげ逃げるように走る名前に笑って力が抜ける。息を切らしながら名前も笑ってて、なんか青春ぽいなとか思った。まあ遅刻した上に廊下走って騒いでたもんだから先生にはこっぴどく怒られたけど。名前とだから別にいっか。

・・・

そして金曜日。部活を終えて帰りにスーパーに寄って帰る。

「簡単に作れるものがいいよね。カレーとかでいい?」
「ああ、いいんじゃねーか」
「じゃああとサラダも。あ、飲み物も買ってこっか。修ちゃん何がいい?」

率先して歩く名前とカートを押す俺。なんか夫婦みてーじゃね?とか内心思ったり。今は制服だけど、将来スーツ着て仕事終わりに名前と待ち合わせしてこうやって買い物したり、2人で晩酌しながらゆっくり話したりとか…良いな。てさすがに気が早えーか。

「こーやって彼氏とスーパーとか来るのちょっと憧れてたんだ。なんか夫婦みたいじゃない?」
「………!」
「将来修ちゃんと結婚できたらこんな感じなのかなーって想像しちゃった」
「…ははっ」
「あ、今くだらねーとか思ったでしょう?」
「いや。俺も今同じこと考えてたからびっくりした」
「えーほんとに?…へへ、そうなんだぁ」

名前の嬉しそうにはにかむ横顔にキュンとする。キュンとか言う柄じゃねーけど。

同じタイミングで同じこと思ってくれてんのも嬉しいし、当たり前のように数年先も俺といることを考えてくれてんのが嬉しかった。

近所の同級生の家で遊んでるちび達を迎えに行くと名前のことをすっかり気に入っている弟と妹は名前が迎えに来た瞬間めちゃくちゃ喜んで手を繋いで歩き出す。自分の話を聞いてほしくて仕方のない2人がケンカを始めるのを後ろからただ見ている俺。おい、誰か兄ちゃんと手繋ぎたいってやつはいねーのかよ。

家に着いてみんなで晩飯の準備。料理をする機会がほとんどなかった2人は楽しそうに皮むきをしたり名前と一緒に野菜を切っている。つーか結局俺やることねーじゃん。ここでもぼっちかよ。

「俺風呂準備して来るわ」
「うん、お願いします」
「「おねがいしまーす」」
「………」

「…ったく、誰か1人くらいこっち来いっての。別にすぐ終わるからいいけど」

いつもはウザいくらい兄ちゃん兄ちゃんって来るのにゲストが来た途端これかよ、薄情なやつらだぜ。未だ不機嫌継続中の俺は結局最後まで1人虚しく風呂掃除をするのだった。

4人で飯を食い終わった後は男女別れて風呂に入り、名前と妹はそのまま一緒に塗り絵をやっている。よって名前と一緒にゲームをしたくてたまらない弟はあからさまに不機嫌になっている。やれやれ…

「つまんねー。もう寝る」
「あはは、ごめんね。じゃあ今日はもう寝て、明日病院行く前に一緒に遊ぼう!ゲーム一緒にやってくれる?」
「…いーけど。じゃあ今日は一緒に寝よう」
「えー名前ちゃんは私と寝るのー!」
「お前はずっと名前と一緒だっただろー」

また始まった…。泣き出す妹を名前が必死にあやしている。

「こら。お前らそんなワガママばっか言ってっともう名前うち来てくんねーぞ」
「だって…俺だってずっと我慢してたのに…うあああん」
「わーもう泣かないで?また遊びに来るし、今日はみんなで一緒に寝るから。ね?」
「「…うん」」

マジかよ…えー…マジか…ショック…

リビングに布団を敷いて俺、妹、名前、弟の並びで寝ることになった。泣き疲れたのか2人はそっこーで眠りに落ちた。こんな早く寝んなら自分の部屋で寝ろよ。俺がこの時をどんだけ待ちわびてたかお前ら知らねーだろ…

「…寝ちゃったね」
「ああ。悪かったな、こいつらのワガママに付き合わせて」
「ううん、すごい楽しかったよ。てゆーかこちらこそ、ちびちゃん達独占しちゃってごめんね?」
「うるさい」
「ふふ…修ちゃん」
「あ?」

手招きする名前のほうに上体を起こして近づくと同じく上体を起こした名前にキスされた。

「…おやすみ」

不意打ちとか卑怯だろ…。妹がいつ起きてもおかしくない状況でした暗闇でのキスは重ねるだけのものだったのになんかいつもより緊張して、名前が瞼を閉じた後も俺のドキドキはなかなか治らなかった。


・・・

悶々とさせられたまま俺はなかなか寝つくことができずに結果寝不足で病院へ行くこととなった。

病院に着くと親父がベッドを起こした状態でバッチリ起きていた。「やあ」なんて爽やかに挨拶してきたけど、何時間前からこの状態で待っていたことやら。緊張する名前の横で俺も少し気恥ずかしさを感じながらなんとか平静を装う。

自己紹介したりちび達と昨日の話をしたりして、少し打ち解けてきたかなってところで親父が財布から金を出して飲み物を買って来いと言い出した。

「お前も行く?」
「父さんは名前ちゃんの話が聞きたいんだ。3人で何かお菓子でも買って来なさい」
「え、大丈夫?」
「うん、私も色々お話聞きたいし」
「ふーん…じゃあ行ってくるけど、なんか余計なこととか言うんじゃねーぞ、2人とも」
「「はーい」」

ったく…早速意気投合してんじゃねーよ。つーか名前のやつどんだけコミュ力高けーの…最初の緊張なんだったんだ。2人の会話が気になる俺は病院内のコンビニではしゃぐちび達を急かして病室に戻った。

病室に入る前から扉越しに聞こえてくる2人の笑い声。なんか俺らがいた時より盛り上がってねーか?

「あ、おかえりー!」
「ただいま。随分盛り上がってんじゃん」
「お、なんだ修造やきもちか。男の嫉妬は見苦しいぞ」
「あはは、修ちゃんこう見えて結構やきもち妬きなんですよー」
「へぇ、修造が」
「にやついてんじゃねーよクソ親父。つーかお前だってよく嫉妬するだろーが」
「はあ?ちょっと…意味わかんないこと言わないで!」
「顔、赤くなってる」
「もう〜…!」

言い争う俺達に親父は「若いっていいなぁ!」と笑い、ちび達までもが「ヒューヒュー」と茶化してくる。あーもー最悪だ…まじでやだ…

照れくさすぎて、もう二度と名前をここへは連れて来ないと心に決める俺。だがその決意も虚しくそれ以来名前は頻繁に「次いつお見舞い行くの?」と聞いてきて付いてくる気満々だから恐ろしい。俺がいない間に親父と連絡先も交換して今では友達のようにラインのやりとりをしているらしく、もはやどっちが虹村家の子供かわかんねーよ。仲良くなりすぎて俺としては色々複雑なんですけど。

「なー。そろそろ俺の相手もしてほしーんだけど」

部活に向かう途中、歩きながら名前の制服の袖を掴む。

「修ちゃん…かわいすぎ〜!!」

その俺の腕にぎゅうっと抱きついてくる名前。いや、だから、オアズケ食らってるこの状況でこーゆーのされるとヤバいんですけど。腕がおっぱいに挟まれてて全神経がそこに集中して…あーやばいやばいやばい

「おいそこのバカップル。公衆の面前でいちゃついてんじゃねぇ!」
「わ、関口…いつからいたんだよ」
「久保田君も…えへ、見られちゃったね」
「むかつくからもういちゃつけねーように体育館まで一緒に行ってやる」
「はー?うぜー…」
「そうだよ、せっかくいい雰囲気だったんだから空気読んで!」
「ちょ、苗字まで?ひどくね…?」

結局本当に体育館までついてきやがった2人にいらつきながらもどこかホッとする俺なのであった。