02.主従関係の始まり


今日は日直当番。日誌を書いて放課後担任のところへ持っていくのだが、青峰先生が担任になってからは日直の順番が回ってくるのが待ち遠しくて仕方がない。

先生は黄瀬みたいにお喋りじゃないから、なかなか話す機会もないし話しかけづらいから、これがお近付きになれる数少ないチャンスだったりする。

髪やメイクを念入りにチェックして、先生が自分の家のように占領している社会科準備室へ、いざ参らん!

「失礼しまーす」と形だけの挨拶をして返事を待たずに中に入ろうとすると3年のケバくてこわい先輩が勢いよく出てきたので驚いた私は思わず尻餅をついてしまった。おまけに「邪魔なんだよブス!」とまで言われ一気にキライになった。

「…何やってんだ、お前」

ソファに寝そべりながら目線だけこちらにやるとだるそうにそう言う先生。

「あ、あの…日誌を」
「おーサンキュー」

そう言って、持ってこいとばかりに手を差し出す先生のところに歩み寄る。受け取った日誌を手に取るとぱらぱらと流し見て、「おし、帰っていいぞ」と言うと日誌で顔を伏せて寝る準備。

楽しい時間はあっという間とか言うけれど、楽しむ前に瞬殺で終わっちゃったんですけど。さっきの出来事が気になるのと、どうにか先生といる時間を長引かせたい気持ちでその場から動けずにいる私。キモいのは自覚してますがでも帰りたくないし爪痕残したいしどうしようどうしようどうしよう…。

「ん?まだなんかあんのか」

やばい、考えがまとまらない内に先生が気付いてしまった!もう、いいや…!

「あの、さっきの女の先輩めっちゃ怒ってたみたいですけど、どうしたのかなー…って気になって」

咄嗟に気になっていたことをそのまま聞いてしまった!てかそれしか会話のネタ思いつかないし!

「あ?んなのお前に関係ねーだろ」

ひー!!!ごもっとも!!!

「そ、そうで「なんか告られたから、貧乳に興味ねー。つったらキレて出てった」」
「おお、なるほ、ど…」

てっきり授業態度とか成績のことで説教されて逆ギレパターンかなとか思ってたから意外な展開に言葉が詰まる。やっぱ青峰先生モテるんだあ…。じゃなくてどうしようさっきより気まずい。会話のキャッチボールが続きませぬ。

「なあ、お前部活入ってなかったよな?」
「え、あ、はい。入ってません」
「だよな、見るからに暇そうだしこの部屋ちょっと掃除してけよ」

はい?いくら先生でもちょっと横暴すぎやしませんか?拒否権なしですか。

「あの、いきなりそんなこと言われても私にだって予定が…」
「あんのかよ。オレといるより大事なヨテイ」

ずるい。気まぐれでこき使うだけのくせにそういう言い方して。こわいし、かっこいいし、待ちに待った日直の日に予定なんか入れてるわけ、ないし。

「…アリマセン」
「じゃあ最初から言うこと聞けよ、つかお前の都合とか関係ねえから」

想像以上のオレ様っぷりに若干引きつつも、こういう人だよね…と諦めてとりあえず机の上に散乱する教材やらプリントやらをまとめ始めた。

やり始めると徹底的にやり尽くしたくなる性格なのでやる気に火が付き、年末大掃除のごとく床も棚も窓もピカピカに磨き上げた。先生寝てるし会話はないけれど、2人きりで一緒の空間にいれることにやはり幸せを感じてしまう。

「せんせ、青峰先生ー。掃除、終わりましたよー」
「んー…」

ふあああああ、と盛大な欠伸をして気だるそうに起き上がる先生。

「勝手にコーヒー淹れちゃったんですけど、よかったらどうぞ」
「おー気ぃきくじゃねーか」

そう言って頭をガシガシ撫でられる。コーヒー淹れてよかったあああ!!ご主人様にヨシヨシされて尻尾を振る犬のように私は内心めちゃめちゃ喜んだ。

「つーか部屋ちょー綺麗になってんじゃん!やべえ!!」と部屋を見渡しながら感動する青峰先生に私も笑顔が溢れる。こんなに良いリアクションをしてくれるとは思っていなかったので素直に嬉しい。青峰先生って黄瀬とは違うタイプの女をたぶらかす男だと思う。罪深いお人だ。

「お前もコーヒー飲んでけば?」
「えーいいんですか!?じゃあお言葉に甘えます!!」

自分の分のコーヒーも淹れて、先生の隣に座る。わあ、なんだかお家デートみたい!なんて妄想が始まりかけたので慌てて現実に意識を戻す。落ち着け自分。

「あ、そうだ」と思い出し掃除していた時に出てきたものを取り出す。
こんなのも出てきたんですけど…と人気爆乳グラビアアイドル堀北マイちゃんの写真集を取り出すと、「おー!!やっぱここにあったか!この間から探してたんだよな〜」と大喜び。青峰先生が巨乳好きって噂、本当だったんだ。

え、てかアンタまさか、これを見つけるために私に掃除させたんじゃ…なんだか複雑な気持ちではあるがとりあえず先生といれたから良しとすることにした。私ってちょろい。

「お前なかなか使えるなあ」
「え?」
「明日から、日本史と体育の前はオレんとこ来い。放課後もやることあったら呼ぶから」一方的にそんなことを言われ、連絡先を交換することになった。急な展開についていけてないが、少しだけ先生の特別になれた気がして嬉しい。

「返事は」
「…はい!」