08.魔法にかけられて


高校生になって二度目の夏休み。海やらプールへ繰り出したり、浴衣を着て花火大会へ行ったり、家族で旅行に出掛けたり。そんなリア充しているクラスメイトのSNSをベッドの上で寝起きのまま眺めること早数時間。こんな夏休みがあっていいものなのかと誰かに問いたくなるほど暇である。

青峰先生にバンバン呼び出されてセックス三昧な日々になったらどうしよう、たまには断って焦らすべき?なーんて悩みは無駄に終わり、生徒が夏休みの間も意外と忙しいのか青峰先生からの連絡は無い。なんなら送ってもなかなか返事が返ってこない。桃井先生と会ったりしてたら嫌だなぁ、幼なじみってことで家族ぐるみで旅行とか行ってたらどうしよう…なんてネガティブな妄想ばかり無限に広がってゆく。桃井先生と彼氏さんがラブラブリア充サマーライフを送っていることを願うばかりである。好きな人の幸せを願ってあげられない私ってどうなんだと思うけれど、これが本音だから仕方ない。

黄瀬とはたまに遊んだりするけどアイツは部活とモデルの両立に加え人気者なため誘いが絶えず私とは真逆の忙しい夏休みを送っているらしい。いつも一緒にいるのにこの差はなんなんだ…。とりあえず「ひま」と一言ラインを送ると少ししてから電話がかかってきた。

「名前っちおはよーっス」
「おはー。今日部活?」
「部活は午前中だけなんスけど、午後はモデルの仕事が入ってるんスよね〜」
「相変わらず多忙ですな、おつです」
「あざっす。名前っちは?相変わらず暇してる感じっスか?」
「うっせ!…まあ否定はしねーよ」
「あはは、じゃあスタジオ遊びに来ないっスか?」
「え、部外者がそんな簡単に入れるもんなの?」
「撮影の邪魔にならなければいいんじゃないっスか?」
「軽いな」
「とりあえず待ち合わせ場所と時間決めたらラインするっスー!じゃ!」

そう言って秒単位のスケジュールの黄瀬様は慌ただしくプツリと電話を切った。さてさて、それじゃあ準備でもしますかね。


待ち合わせ場所となった駅でラインを途中まで打っていると、「おねーさん、オレと遊ばないっスか?」とナンパ風に後ろから声をかけてくる黄瀬がうざい。

「あれ、部活終わりだからてっきり制服で来るかと思った」
「そう思ってたんスけど、名前っちも来るし帰りどっか寄ってこうと思って着替えて来たんスよ」
「そっか。なんか気ぃ遣わせて悪いね」
「思ってないくせにー。さ、行くっスよ」

それにしても相変わらず黄瀬ってオシャレだなあ。背高いし金髪だしオーラあるし、ダテメはオシャレなのか変装なのか知んないけど全然モデルの黄瀬涼太なんですけど。今まであんまり気にしてなかったけど、もしこんなところをパパラッチにでも撮られたら私の顔にちゃんとモザイクとかかけてくれんのかな。そこんとこちゃんとしてくれないと2chやらSNSでボコボコに悪口書かれちゃうよ私。

そんな被害妄想を繰り広げていると、「着いたっス」と黄瀬が言ったので現実に戻った。

「おはよーございまーす」

黄瀬が挨拶するといろんなスタッフさんが振り返り笑顔で挨拶を返してきた。黄瀬はここでも人気者なんだなあと感心する。そんなアウェイ感満載の私をよそに黄瀬はなんだかエライ人感漂わせてる男の人に話しかけた。

「今日友達連れてきたんスけど大丈夫っスかね?」
「いいけど、黄瀬君が誰か連れてくるとか珍しいね。本当にただの友達?」
「あはは、なんスかそれー友達に決まってるじゃないっスか」

決まってんのかよ。この前女の子として見てるとか言ってなかったっけ?別にいいけどさ、なんか黄瀬腹立つな。よし、あとでシメよう。

初めての場所にきょろきょろしていると、な、なななんと…私が大好きな人気絶頂イケメン俳優の山崎賢太君を発見してしまった。思わず黄瀬の腕をぐいぐい引っ張り震える。

「き、ききき、黄瀬!」
「え、どうしたんスか急に。あ、もしかしてトイレ?トイレならあっちっスよ」
「は?ちげーよバカ!山崎賢太!あそこに山崎賢太がいる!」
「あれ、名前っち賢太君ファンなんスか?今やってる月9の特集組んで撮影するらしーっスよ」
「え…まさかだけどあんた知り合いとかじゃないよね…?」
「知り合いじゃないっスよ!友達っス!」
「ええええええ!!」

黄瀬って私が思ってた以上に凄いんだ。だって、だってあの今をときめく山崎賢太と友達だなんて!!どうしようサイン欲しい…名前ちゃんへって名前入りで欲しい。でも黄瀬に迷惑かけらんないし我慢我慢。嗚呼、それにしてもイケメン。山崎賢太君イケメンが過ぎるよ。

「賢太っちー!」
「あ、涼太っち!」

え?賢太っち?涼太っち??キミらそんなに仲良いの?てか山崎賢太がこっち向かってきてんだけど!これって夢?だとしたらオイシイ展開になるまでどうかさめないで…!

「今から撮影っスか?」
「いや、今終わったとこ。涼太っちは今から?」
「そうっス。あ、こちら名前っち。学校の友達で今日見学に連れてきたんスよー」
「へぇ!涼太っちの友達かあ。初めまして山崎賢太です。よろしくね」
「あ、あああ初めまして!苗字名前です!月9観てます!写真集も買いました!いつもお世話になってます!」
「ぶっ!!名前っちやば…お世話になってるってなんなんスか」
「あはは、名前ちゃん面白いね!ありがとう」

ぎょええ!賢太君に名前呼ばれた!面白いって言われた!握手求められた!ドキドキが止まらん妊娠する…

「あ、じゃあオレちょっと準備してくるんで、賢太っち悪いんスけどちょっとだけ名前っちの話し相手になってもらえないっスか」
「ちょ!いいよ!なに言ってんの!?あんたねぇ、賢太さんが今どれだけ忙しいと思って…」
「いいよ」

いいんかーい!て待ってよ!嬉しいけど心臓もたないって!心なしかさっきからいろんな方面から殺気を感じるのは気のせいじゃない気が。ちなみにさっきと殺気をかけているわけではない。ってそれどころじゃなくて!

「す、すみませんほんと…」

テーブルの上にこれでもかと大量に置かれているお菓子を頂きながら飲み物まで出して頂き目の前にはあの山崎賢太が座って私を見てる。なかなかさめない夢だなあ、と思い太腿をつねると普通に痛かったので現実なんだと再確認。

「全然いいよ。涼太っちの友達ならオレも仲良くしたいし」

どんだけだよ、お前らマブダチかよ。いやそう言ってくださるなら私も全力で仲良くしたいけれども。

「涼太っちって普段学校ではどんな感じ?」
「あのまんまですよ。ナルシストで、人気者で、何でも出来て…あ、でも勉強は全然ダメですね、バカです」
「あはは、悪口!」
「違いますよ事実です!あとかっこつけてるけどふつーに下ネタ好きですね、むっつりです」
「やばい、名前ちゃんおもしろ!」
「えー私なんか面白いこと言いました?賢太さんの笑いのツボが浅過ぎるんですよー」
「あーよく言われる」
「あはっ、でしょー?まあでも黄瀬はなんだかんだ優しくていいやつです」
「へぇ、いいなーなんか楽しそう」
「そうですかぁ?私はそれより、賢太さんのお話聞きたいです」
「えーオレ?」
「はい!例えば、今まで共演した人で誰が可愛かったとか!」
「うわぁ、いきなりなんかゲスいのきたね」
「あはは、逃がしませんよお」

意外にも賢太君は話しやすくて、ますますファンになった。わいわいやっていると、黄瀬が遠くですっごく綺麗な女の子となにやら話している。打ち合わせ?…ではなさそうだ。

「彼女、涼太っちのこと狙ってるらしいよ」
「え?あの人、今人気の女優さんですよね?確か…」
「そう。今のドラマでオレと共演してるんだけど、休憩中とかもずっと涼太っちの話してるんだ」
「…黄瀬ってほんと凄いんだ。なんか、別世界の人みたい」
「名前ちゃんは、涼太っちのこと好きとかそーゆーのないの?」
「な、なななに言ってんすか急に!あるわけないし!あ、わかった!さっきのお返しですね、その手には乗りませんよお!」
「あはは、ただ聞いてみただけだって」

賢太君は無邪気に笑った。イケメン俳優、あなどれん。

「何をっスか?」

わ!黄瀬!驚かせんなよいつからいたんだよ。とりあえず落ち着こう。めんどくさいからさっきの話題には極力触れない感じでいこう。

「あ、黄瀬、いつの間に」
「その露骨に邪魔だって顔すんのやめてくださいっス」
「え、出てた?なら空気読めよ」
「もー!」
「あはは、じゃあオレそろそろ行くね。涼太っち撮影頑張ってね、名前ちゃんも、また会おうね」
「は、はい!」
「賢太っちありがとっスー!」

賢太君に社交辞令だとしてもまた会おうねって言われた…ああ、隠れてスマホに録音しときゃよかった…

「いつまで浸ってんスかあ」
「いいじゃん別にー。てかなに怒ってんの」
「別に。怒ってねっス!行ってくるっス!」

…なんなんだアイツは。男にも生理ってあったっけ。プンスコしたまま撮影に向かう黄瀬を黙って見送った。

今日の撮影のテーマは『彼のタイプ別!あざとカワイイ愛され彼女コーデ特集』らしい。なんだそれ、テーマ長っ。ちなみに黄瀬はトレンドに敏感なモテ系彼氏らしい。まんま黄瀬すぎてつまらん。もっとすんごいコスプレちっくな面白いのとかキラッキラの痛い感じのやつとか着てほしい。

撮影が始まると黄瀬と彼女役のモデルさんがいろんなポーズをとったり表情をコロコロ変えて「いいよー雰囲気出てるよーかっこいいよーかわいいよー」的な褒め言葉をたくさんかけられてパシャパシャ撮っていく。なんか本物のカップルみたいだなあと思わず見入ってしまった。美男美女って眼福。私も青峰先生の前でこーゆーかわいい仕草とかしてみようかなあなんて思ったり。うん、キャラじゃないし見た目が伴ってこそだよね、やめとこ。

撮影が終わると私のところに黄瀬が笑顔で帰ってきた。どうやら機嫌は直ったらしい。

「どうっスか?オレかっこよかったっスか?」
「はいはいかっこよかったですーわーパチパチ」
「なんなんスかその言い方ぁー」
「あはは、冗談。本当にかっこよかったってば!」
「…ならいいっス」

ふて腐れながらも満足したような黄瀬。ちょっとかわいい。

「黄瀬君!」

あ、さっきのあざとい黄瀬の彼女だ!

「お疲れっス、どうしたんスか?」
「この後時間あるかなーと思って」

おお、私の存在MUSHI!別にいいけど気まずいんですが。これって私がさり気なく消えてあげるべきなのかな?

「あーちょっと無理っスね」
「えー…てかこの子誰?お友達?彼女…ではないか。あはっ」

ぎく!てかさり気なく嫌味言われた…?上から下までじろじろ見られて全てにおいて自分が私に優っていると言われているみたいだ。女がよくやるマウンティングってやつか。くそぅ、悔しいけどとりあえずこの人の目が怖くて何も言い返せん。蛇に睨まれた蛙の気持ちが今ならわかる…

「オレの友達っスよ」
「ふーん…黄瀬君の友達なだけあってカワイイね〜!名前なんてゆーの?私とも友達になろうよ、ライン教えて?」
「えーっとぉ…」
「言わなくていいっスよ。つーか、この際だからハッキリ言っとくけど、あんたとプライベートで会う気はないっス」
「は?」

ちょ、黄瀬…?

「オレ忙しいんで、貴重なプライベートを過ごす相手は選んでるんスよねぇ」
「ウケる、それでこのブス連れて歩いてんの?まあポッと出の雰囲気イケメンにはお似合いかもね」
「じゃあそのポッと出を毎回しつこく誘ってくるのやめてもらえます?性悪ブスに付きまとわれて迷惑してんスわ」
「はあ!?サイッテー!死ねよクソガキ!あんたとなんかもう二度と仕事しないから!!」

さっきの愛され彼女とは思えないほどの豹変っぷりに思わず固まった。やっぱ芸能の世界ってコワイ。てかあんなに怒りを露わにする黄瀬、初めて見たかも。

「はぁ、こっちだってお断りっスよ」
「黄瀬、なんかごめんね。私が来たせいであの人とこんなことになっちゃって…」
「なんで名前っちが謝るんスか?あんな失礼な態度とられてむかつかないんスか!?」
「いやむかついたけどさ、黄瀬が代わりに怒ってくれたからもう平気だよ。びっくりしたけど、黄瀬が自分のことみたいに怒ってくれて嬉しかった。ありがとう」
「名前っち…」

黄瀬が私を見つめてくるので、ん?と首をかしげると、黄瀬が笑顔になったので安心した。よかった、いつもの黄瀬だ。

「まあでも黄瀬のこと好きだったんだろうね、嫉妬する気持ちもちょっとわかるよ。それに対して性悪ブスはねぇわ、ひでえ…」
「なっ、そこ掘り返すんスか!?正直オレも頭に血が上ってて言いすぎたなって反省してたのに!」
「あはは、そうなんだ!」

笑っていると黄瀬がちょっと待ってて、と言ってどこかへ行ってしまった。どうしたんだろう、出来れば1人でいたくないから早く戻ってきてほしいんだけど。


戻ってきた黄瀬は私の手を引くと、ヘアメイクさんのいる部屋に連れてきた。だからなにがどうしたの。先に説明してくれ。

「じゃ、よろしくっス!」
「おっけー任せて」
「は、はいい???」

黄瀬が部屋を出て行った後、ヘアメイクのお姉さんが黄瀬に頼まれて私にお化粧やら何やらをしてくれることになったことを話してくれた。何を考えているんだ黄瀬は。私をシンデレラにでもする気だろうか。

お姉さんと、黄瀬の話や賢太君の話や好きな漫画の話などなどをしているとあっという間に劇的ビフォーアフターが完成した。

「え、これ私…?わ、私だ、喋ると口動く…」
「あはは、名前ちゃんウケる!そうだよ、女の子はメイクとか髪型で何通りにも輝けるんだから」
「いやでも自分ではこうは…」
「そりゃそうよ、私この道のプロですから。そんな簡単に技術盗まれたら商売上ったりよ」
「あはっ、そっか。あ、でも黄瀬ってなんでも器用にこなせるから黄瀬に覚えてもらって…」
「こら。早速人任せにしない」
「へへ、はぁい」
「そういえば黄瀬君が、そこにある服に着替えてってさ。私出てるから鍵閉めてここで着替えなよ」
「はい、ありがとうございました」
「うん、またおいで」

当たり前だけど、いい人もいるんだなあと思った。芸能人になれたみたいでなんか胸が高まってておまけにこんなかわいい服まで着せてもらえるなんて。退屈だった夏休みの一日がこんな特別な日になるとは、あとで黄瀬に何か奢ってあげよう。

ビフォーと違いすぎて部屋から出るのが恥ずかしかったが、せっかくなので恐る恐るカチャリとドアを開けるとパソコンで写真のチェックをしていた黄瀬が気づいてこっちを見た。

「…かわいい」

周りのスタッフさん達も「おお…!」ってなっている。いやいやいや、プロの技術で大変身させてもらったけどさ、いつもめちゃめちゃかわいい芸能人ばっかり見てる人の前で素人がなに遊んでんだって話じゃん。場違いすぎて恥ずかしすぎて死にそう。

「じゃ、着替えまーす…」とぼそりと呟きさっきの部屋に戻ろうとすると黄瀬に手を取られた。

「カメラマンさんがせっかくだから撮ってくれるって!記念に撮ろ!」

…なんの記念ですか。黄瀬に振り回されるスタッフの方々に申し訳ない気持ちでいっぱいになったけど、今日は黄瀬のおかげで貴重な体験も出来たし黙って言うことをきいてあげることにする。プロのカメラマンに撮ってもらえることもそうあることじゃないし。

出来上がった写真を即プリントアウトして、黄瀬はスマホにデータを送ってもらっていた。便利な時代に生まれたもんだ。あとで私も黄瀬に送ってもらおう。

「名前っち」

呼ばれた方を見ると黄瀬が手を差し伸べている。「え?」て顔をすると、履きなれない靴で転ぶといけないからって言われたので素直に手を取った。

「ちなみにその服と靴はオレからのプレゼントっス」
「ええ!?私誕生日でもなんでもないよ?」
「いいんスよ、それにもう買い取っちゃったんで貰うしかないっスよ?名前っちに似合いそうだなぁって思ったから買ったんスけど…もしかしてあんまり好みじゃなかったっスか?」
「いや、すっごいかわいいけど…絶対高いやつじゃん、これ」
「いいからいいから」

なぜか貰った私よりも黄瀬が上機嫌なので、うざったいことを言わずに素直に受け取ることにした。私がシンデレラかは別として、黄瀬は本物の王子様みたいに見えた。黄瀬、私この服と靴大事にするね。


スタジオを出てアパレルショップが並ぶ通りを歩いていると少し気になるお店があった。無意識にじっと見てしまっていたのか黄瀬が声をかけてくる。

「気になるんスか?それメンズのお店っスよ?」
「あ、うん。青峰先生が月末誕生日だから、ネクタイとかプレゼントしよっかなぁって考えてて。でもまた今度にするから、ご飯行こう?」
「せっかくだしちょっと見てかねっスか。今ならこの人気モデル黄瀬涼太が見立ててあげるっスよ」

正直男の人のトレンドとか好みってわかんないしそうしてくれたらすごい助かるけど、さすがの私も気を遣う。今日一日色々してもらってプレゼントまで貰ったのに、その私が他の男にあげるプレゼントを一緒に選んでもらうだなんて。それなのに黄瀬は繋いだままの私の手を引っ張りお店の中へ入ってしまった。いいのかなぁ。

黄瀬と一緒にたくさんある中から3つに絞り、黄瀬に当ててみながらあーだこーだと意見を交わして悩む。

「うーん…こっちもオシャレだけど、青峰先生はこっちの方が好きそうじゃない?」
「そうっスね〜、たくさん使ってほしいならデザインはシンプルな方がいいと思うっスよ。色はどうすんスか?」
「色はもうねー青って決めてるんだ。青峰先生っぽいでしょ?」

へへ、と笑うと黄瀬も微笑んでくれた。

「よし、これにする!」
「いいんじゃないっスか、オレもそれがいいと思ってたっス」
「本当?じゃあ間違いないね!」

お会計を済ませラッピングもしてもらい大満足でお店を出る。その後も結局黄瀬が食事代を出してくれて、今日は黄瀬に感謝しかない。ほんと私の誕生日かってくらいに色々してもらっちゃったなぁ。

「今日の黄瀬、優しすぎない?明日死んじゃったりしないよね?」
「あはは、なに言ってんすか。オレはいつも優しいっスよ」
「まあそうなんだけど、自分で言っちゃう?」
「名前っちがあんまり褒めてくんないから自分で言うっス。今日楽しかったっスか?」
「うん、すっごく貴重な体験させてもらったし、プレゼントもありがとね。絶対大事にする!」
「…よかったぁ。嫌な思いもさせちゃったから心配してたんスよ」
「もう、大丈夫だって言ってるのに。それ以上に楽しいことたくさんあったし、夏休みで一番の思い出になったよ。本当にありがとう」
「オレもっス」


黄瀬は朝からハードスケジュールだったのに家まで送ってくれて、その間ずっと手は繋がれたままで。慣れない靴だからって黄瀬は誰にでもこんなことをするのかな。いつもなら大丈夫だと言って払う手を、今日は家に着いても離したくなかった。あれ、私黄瀬のこと意識し始めてる…?